第5話 才能──センス──
おはようございます。
GWは、なるべく毎日投稿しようと考えていたのですが、昨日5月2日は学校やお仕事があって頭を抱えた方も少なくなかったはずです。
そんなわけで、昨日の分と今日の分。
つまりは、2話投稿しますので、この次の話も読んでくださると嬉しいです。
「こうです、こう」
「お、おわっ。こ、こうか。よし、もう一回頼む」
「いきますよ、それっ!」
「……ほっ!ミスった!ぎゃぁーす!!」
「ダメダメじゃないか、ラン。ピズマも苦笑いだ」
「うるせぇ!さっき全然敵わなかったくせに!」
「なんだと!?」
「いえいえラン様、随分とお上手になられましたよ。ズルい戦い方、と言われましたので、“相手の攻撃を受け流す”というところから始めましたが、この調子なら今日中にはある程度の攻撃を受け流して、自らの攻撃へと転機するところまで習得できるでしょう」
「ふははは、やっぱり俺って天才だなぁ」
「……もし習得したとして、そんな勝ち方で嬉しいのか、ラン」
「何を綺麗事抜かしてやがる、ティア。いいか?あのな。自分が絶対的有利だと思ってるやつの攻撃を綺麗に避けて、受け流して、すまし顔で仕返ししてやる快感が欲しくてやってんだ。俺は」
「何て不純な動機なのでしょうか、ラン様」
「戦士の恥だ」
「うるせぇ!黙って見とけ!」
「それではもう一度、いきますよ……フッ!」
先ほど、アマルティアとの修行で使用していた、太い木の棒を俺の胴に叩きつけようと振るうピズマ。対して俺が持つのは包丁より少し長いくらいの、ナイフの形をした木の棒。
俺は、ピズマの振るう、横薙ぎの木の棒に、上からナイフを当てる。そのまま跳躍。木の棒にめり込むナイフを軸に、空中で体を回転。
ある程度の距離を保ったまま着地、間髪入れずに、木の棒を振るい終わって隙だらけのピズマに突進。正面からいっても、ピズマはもう片方の手を使うだろうから、ピズマの股の間にスライディング。
ピズマが振り返るよりも速く、逆手に持ち直したナイフをピズマの腰の上あたりに突き刺す。完璧だ。イメージ通り。
が、しかし。
「いやぁ、本当に末恐ろしい。教えてない動きが何故できるのか、さすがの一言に尽きます」
そう言いながら、股下を通って後ろに回った俺を見ることもなく、木の棒を持っていない方の手を背中に回し、ピズマは俺の手首を掴んだ。
「……はぁ!?ピズマ、お前、背中に目でも付いてんのかよ!何でここを狙うってわかったんだ!?」
「いやぁ、勘、ですかねぇ……」
そう言って、ぐるっと振り返ったピズマは、俺の手首を掴んだまま、木の棒を真上から振るった。逃げようにも、とんでもない握力でしっかりと握られた手首のせいで距離がとれない。
活路は1つ。俺は素早くピズマの足にしがみつく。よく見ていた結果、どちらの足が軸足がわかっていたので、軸足をズラす勢いでしがみつく。バランスを崩しかけるが、それでもピズマは振り下ろす木の棒を止めない。
このとき、ピズマはすでに自らの足と、振り下ろす木の棒に意識が集中しているため、若干ではあるが、俺の手首を握る力が弱まる。そこを狙って一気に、思いっきり手を引き抜いて、脱出に成功。
しかし目前に迫る木の棒を避けるために即行動。
今度は木の棒に対して、横からナイフを当てる。ほんの僅かであるが、それた軌道。ピズマの軸足の膝を蹴って回避。同時に、蹴られて曲がった膝にそれた軌道の木の棒が、勢いそのままに衝突する。
「ぐあっ!」
「いよっしゃぁっ!!」
「なんと、ラン、お前向いているんじゃないのか?ズルい戦い方、とやら」
さすがに、自分の力で振るった木の棒の威力はそこそこあったのか、膝を落とすピズマ。それを見下ろして俺は一言。
「100年速ぇぜ」
「……まさか1日目から一本取られてしまうとは、感服いたしました。アマルティア様に負けず劣らず、ラン様も才能がおありのようです」
「ふっ、みなまで言うな」
「調子に乗ってるな、ラン。よし、今度は私と勝負だ。……ピズマ、剣に近い形のものはあるか?」
「まぁ、ありますが……」
ピズマは何とも言えない顔で俺を見ながら言った。
「良いのですかラン様。アマルティア様が普通の軽さのものをお使いになられますと、さすがのラン様でも速さについていけないかと」
「言ってくれるじゃねぇかピズマ、いいぜ。才能が開花する瞬間を見せてやる」
「構えろ、ラン」
細く、軽い木の棒を両手で握り、その切っ先を俺の喉元の高さに向けるアマルティア。
「俺は構える必要なねぇさ。型にはまらないのが自由で何よりズル賢い戦い方だからな。いつでもこいよ、ティア!」
「………ハッ!」
刹那。瞬くのも許されない、豪雨のような剣撃が俺を襲う。ピズマが相手だと、ナイフを剣に当てても、少しだけ軌道をズラすことしかできないが、アマルティアはピズマよりも力が弱いので、様々な角度から、剣にナイフを当てて、体を捻りつつ、剣を受け流す。
時には避けて、時には受け流す。軌道を逸らす。剣を弾く。自分でも驚くほど反応速度がズバ抜けてる。
剣の刃の真ん中ではなく、切っ先にナイフを当てると、弾きやすい。逆に根元にナイフを当てて、そのまま刃を撫でるように、力を加えながら振り払うと、剣を受け流すことができる。コツを掴んできた。が、しかし。
「はっ、ふっ、はぁっ!」
止まらない。どころか、速さすら落ちない。体力が違いすぎる。このペースで責められ続けたら、いつ疲労によって俺の手元が狂うかわからない。
ピズマより力が弱いとは言え、この速さで振るわれた剣は、木の棒だとしても相応の威力がある。ずっと受け身じゃジリ貧だ。得意の、受け流しからの攻めへの転換で、速攻勝負だ。
「……流して……っ、ふっ!」
「……っ!」
受け流された剣を持つ手を俺に引っ張られて、前のめりになるアマルティア。すかさず、手を引きつつ足をかける。軸足が地面を離れて、同時に前に引っ張られたアマルティアは、そのまま倒れこむ。
少しだけ手を捻って、剣を手から離させて、その手をアマルティアの背中に回す。よく警察とかが犯人を押さえるときにやるやつだ。テレビで見たことがあるから、やり方は少し覚えていた。1発で出来るとは思わなかったけれど。
「ぐっ……参った!降参する!離してくれぇ!」
「ふはははははっ!俺、最強!」
「おおーっ」
パチパチと拍手するピズマに全力のドヤ顔を疲労しつつ、手を離して、アマルティアを起こしてやる優しい俺。惚れてもいいぜ。
「いやぁ、本当に、こう。強いな、ラン。もっと修行しなければ。そしたらすぐに追い抜くぞ、私は」
「おう。やってみな」
「いやはや、本当に。脱帽です、ラン様。どこでそんな技を覚えたのですか?今一度確認しますが、ラン様は1歳ですよね?ましてや、歩けるようになったのは2、3ヶ月ほど前からですし……どうなっているんでしょう」
「理由すらないさ。あるのは1つの真実だけ。そう、俺が天才だと、それだけだ!」
「……ピズマ、今一度、私に稽古をつけてくれないか?ランは連戦で疲れているだろうし、わたしももっと強くならねば。『剣士』の加護を受けられぬからな。さあ、早く!」
「その軽い棒でやりますか?それとも先ほどの、この大きさのもので?」
「……本当なら、真剣を使ってみたいところだが」
「……うーん。まぁ、そうですね。始祖様に見つからなければ、いいでしょう。もし怪我をしても、自分がいれば安心ですので」
「……何で安心なんだ?」
「さぁ早くやりましょう!はい、どうぞ。一応、かなり上物の剣となっております。自分は普通の剣で大丈夫ですので、さあ!」
「……何を急いでるんだ。……おお。凄いな、空を切る音が心地よいほど綺麗だ。風の抵抗をほとんど受けないため、もっともっと速く振るうことができる。……やはりかっこいいな、剣!」
「あんまりはしゃぎ過ぎて大怪我するのだけは避けろよー。それじゃあ、試合ー、開始!」
俺の掛け声と同時に走り出すアマルティア。ピズマは構えもせずに立っている。
「……ッ!」
今度は、声も出さず。アマルティアは剣を振るう。アマルティアは、体勢をかなり低くしてピズマに肉薄し、その低さのままで足を踏み出し、剣を振るった。
正面勝負だと思っていたところに、足元を斬りつけにきた不意打ちに動揺するかと思いきや。ピズマは手に持つ剣を逆手に持ち直し、ドスッと。ただ自らの足元の、少し前の地面にその切っ先を突き刺した。
カキィン……と。金属同士がぶつかり合う、甲高い音の直後。剣を下から上に振り上げたアマルティア。初手を防がれたことを物ともせず、ただひたすらに攻撃の数を重ねる。
一歩後ろに下がってそれを避けるピズマ。空を切った剣が、感性の法則もそのままに、上昇の余韻を残す中、ピズマの行動は速かった。剣術とは、必ずしも刃だけで戦うものではない。
ピズマは剣の柄で、振り上げられたアマルティアの手を弾く。何とか剣を離さずに持ちこたえたアマルティアだったが、そのときすでにピズマの剣がアマルティアの背後から、風を鳴らして忍びよっていた。
斬られたな、と。思った矢先。先ほど必死で掴んでいた剣をあっさりと離し、ピズマの剣の軌道よりもさらに低い位置に体を置くアマルティア。
ほとんど、倒れながら剣を避けたような形だ。アマルティアの長い髪の毛先が少し斬られる。
腕立て伏せのような形で地面についたアマルティアは、頭上を剣が通り過ぎると同時に腕を伸ばして、勢いで立ち上がり、先ほど離した剣を空中で手に取り、斜めにピズマに斬り込む。
剣を振り切るのを中断し、剣を無理矢理、アマルティアの攻撃の軌道に入れ込み、間一髪のところで防ぐピズマ。
弾かれた剣をさらに強く握りしめ、アマルティアは。
「……ッらぁぁぁぁっ!!」
叫びながら、縦に、横に、斜めに。上から、下から、左から右から。目にも留まらぬ速さで、様々な角度からの乱撃。ピズマは1つ1つ、丁寧に防ぎ、弾き、流しながら、少しずつ前に進む。
篠突くような、剣撃の雨を浴びせるも、少しずつ押され、アマルティアは攻めあぐねていた。
息を止めて、剣をひたすらに振るうアマルティア。途中、息継ぎのため、剣の勢いが、僅かに、微かに緩む。瞬間。
ピズマはいとも簡単にアマルティアの剣を手から落とさせる。刃に刃を思い切り当てるだけで、剣を持っていられなくなるほどの力。
たまらずアマルティアは、ピズマの剣にだけ神経を集中。そこからの初手の一撃を、確実に避けて、バク転しながら後ろに後退、退避。
弾かれて宙を舞っていたアマルティアの剣を、ピズマがキャッチして、一言。
「……自分、剣は少し得意な部類でして」
「ああああああああっ!!勝てない!くそぉ!」
「いやいや、ティア。端から見てると、お前の成長速度、すげぇぞ。特に、さっき、ピズマに剣を弾かれて、手元に剣が無くなってから、退避までの流れ。実践だったら生きることが第一だから、正しい判断だったし、何よりスムーズに逃げれてた」
「逃げ方を褒められても嬉しくなんかない!だぁあくそ!ピズマ!もう一度だ!」
「はいはい、お気の済むまで」
結局、その後は、4戦やって、アマルティアは0勝4敗。俺もその後3戦やって、今度は全敗。ちょっと本気出してきやがった。
最後に、俺&アマルティア対ピズマの、2対1でやったが、2人揃って遊ばれた。
苦戦しているような、下手くそな演技をしていたピズマだったが、始祖じいが通りかかるのを視界の端に捉えた途端、一瞬で俺たちを吹き飛ばして、「危険な稽古はしていませんよー、ましてや真剣なんて使っていませんよ」とでも言いたげに口笛を吹いてそっぽ向きやがった。
最初から本気出されたら敵わないのはわかってるけど、2対1なのに一瞬で同時にやられたのは精神的にダメージを食らった。やっぱり、ピズマは強い。俺の想像を遥かに超えるだろうけれど。
結果的に、修行1日目は、ピズマから一本取れたのは俺の1回だけであった。くそう。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
夜。部屋に戻って、2度目の二段ベッドの上取り戦争をティアとやって、俺が勝って、上で寝た。
王宮が。中央地が。パトリダが。世界が。寝静まるころ。
ティア、起きてるか、と。呼び掛けて、そのまま寝ずに2人で作戦会議をした。もちろん、2人でピズマを倒す作戦だ。コンビネーションが大切だろう。
翌朝、昨日よりも濃いクマが張り付いた目を擦りながら、苦手な霜降り草のサラダを鼻をつまんで食べた。
中庭に行くと、そこにピズマはいなかった。代わりに、2人の幹部。ハイゴブリンのアグノス(料理上手なやつ)と、幹部唯一の、もっと言えば中央地唯一のローゴブリンである、レプトスが、立っていた。
ハイゴブリンのアグノスは、自分の背丈よりも長い、柄から刃まで漆黒の長剣を持っていた。
ローゴブリンのレプトスは、俺が昨日使っていたナイフ型の木の棒より長い、目測30センチくらいの短剣を握っていた。
「あんれぇ?アグノスにレプトスじゃんか。ピズマはどうしたんだ?」
俺が尋ねると、アグノスが長剣で肩をトントンと叩きながら答えた。
「ピズマは、『始祖会合』に向かう始祖様の護衛として出て行きました」
続いて変わり者のレプトスが、舌で唇を舐めた後。
「だから、今日は俺たちが稽古の相手をするぜぇ。ひゃはは。怪我には気をつけろよぉ、ひゃはは」
笑いながらそう言った。以前2人に訊いたときのことを思い出す。2人の『加護』について訊いたときのことを。
「確か、アグノスは『剣士』の加護を受けてて、レプトスは『盗賊』の加護を受けてるんだったよな?」
「ええ、ですので、私はアマルティアくんと。レプトスはランくんとお手合わせ、及び稽古をする、という形になります」
「ひゃはは。別々に修行して、いずれはお前ら2人を戦わせるからな。ひゃはは。どっちがより強くなれるか、だぜ。ひゃはは」
「おお、面白そうだ。ラン、覚悟しておけ、私はアグノスから様々な技を盗み、お前を超えるぞ」
「ははっ、言っとけ。俺だって、本場の盗賊から稽古つけてもらえるんだ。ズルくて強くて効率的な戦い方を覚えて、飄々とお前に勝ってやるよ」
「では、アマルティアくん、こちらへ」
「うむ」
「お前はこっちだ、マヌケなラン。ひゃはは」
「誰がマヌケだ。今に見てろ」
そうして始まった修行2日目は、それはもう学ぶことが多い代わりにキツかった。
もう一話投稿します。