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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
31/105

第4話 大罪の産物 必然の不条理

おはようございます。

それにしても魔法使いプリキュアって面白いですよね。見ていてニヤニヤしちゃいます。


………今日も読みにきてくださり、ありがとうございます。


 始祖じいは、あまり言いたいことではないが、私のやったことを考えれば、説明の義務がある。と、浮かない顔のまま、アマルティアの目を見て話しを続けた。



「アマルティア、今一度言うぞ。お前が“罪の子”と呼ばれる理由は、お前の父親、『3番目(ガンマ)』が、大きな罪を犯したからだ。


「世界が、生命が、望んだ結果を、裏切ったのだ。


「ガンマの……お前の父親の能力は、『生命いのち』と呼ばれる能力だった。


「その名の通り、生命を司る、神とも呼べる存在だった。


「彼は、生命あるもの全てに能力で干渉することができた。


「例えば、寿命を延ばす。これは、致命的であるなら、病気や怪我も治すことができた。結果的に生命に関わる内容なら、様々な能力を発揮した。単純に、寿命を延ばすのももちろん可能だ。


「現に、その能力に目覚めた時点で、ガンマ自身は自動的に、無意識に、特殊な体質に変わっていた。


「ガンマは怪我や病気はもちろんのこと、痛みもほぼ感じない体になっていた。痛みによるショック死を防ぐためなのだろうか、わからないが、痛みもなければ傷も負わないとくれば、ガンマは原理上最強の生命体であった。


「すぐさま、各種族の軍はガンマを欲しがった。戦場に送れば、拘束されない限り無敵だったからだ。


「しかし。彼の本当の力はそんなものではなかった。


「自然を、摂理を、凌駕した存在だったガンマは、ついに。


「生命の蘇生を可能とした。


「つまり、死した者に再び生を与えることができた。


「それを知った世界が何を望んだか。……答えは決まっていた。


「創造神アルファを生き返らせる。


「我々生命体はもちろんのこと、この世界を創り出してくださった神を、今一度この世界に、と。


「世界が、全てが、望んだ。


「創造神アルファ復活祭、なんて催しが準備されていたほどにな。


「しかし、そんな超常的な能力が、ノーリスクで使えるほど甘くはなかった。


「代償は、能力者の死。


「能力者、すなわち、ガンマの生命と引き換えに、対象者を生き返らせることが可能、というものだった。


「ガンマはそれを受け入れた。当時、ガンマの妻は泣き崩れ、悲しみに溺れるほどに囚われた上、死なないでと彼を止めたが、それでもガンマは、アルファ再生の義務を果たそうとした。


「世間はそんなことお構いなしに、さぁさぁアルファ様が蘇るぞ、と。宴の準備だ、お供え物だなんだと、盛り上がっていた。加護神ベータは、複雑そうな顔をしていたらしいが。


「そんな矢先に。世界の運命を変える、1つの生命が、産み落とされた。


「父親の。世界の。運命を知ってか知らずか。大きな産声を上げたその子は、ガンマとその妻の子であった。


「それが、その子が。紛れもない、お前だ。


「しかし、安産だったわけでなく。出産時は大変な状態で、体の弱い妻に、ガンマが生命維持の能力をかけながら、なんとか、なんとか産まれたらしい。


「しかし、さらに。お前は、アマルティアは、産まれた直後に生命を落とした。


「心臓が、動いていなかったらしい。


「出産に時間をかけ過ぎたり、無理のある能力干渉が、弱く脆い赤子を殺してしまった。


「能力が切れて、出産が終わるとともに息を引き取った妻と、腕の中で冷たくなっていく子供を見て。ガンマは。


「罪を、犯した。


「世界を裏切った。……そうだ、そのまさかだ。


「ガンマは、お前を生き返らせるために、能力を使った。


「ガンマとお前は、雲を切り裂く、青白い光に包まれ、その直後。ガンマが死に、お前が生き返った。


「最後の最後、お前を抱きかかえたまま倒れ、死したガンマの腕の中で。お前は、これから始まる地獄の日々を嘆くように、大きな、大きな産声を上げた。


「産まれてすぐにお前は殺されることになった。


「ガンマの大罪の所業に、怒り狂った人間、その他多種族は、アルファ様への冒涜、裏切りの象徴であるお前を、大衆の目前で公開処刑することにした。


「しかし。戦々恐々と、殺伐とした。世界が殺気に、悪意に満ち満ちたところに。


「ベータが、現れた。


「ベータは神として、お前を殺すことを許さなかった。


「ベータは自らの権力を行使して物事に干渉することはかつて一度としてなかったが。そのとき初めて、彼は言った。


「『私に逆らうのか、かくも儚き生命たちよ。』と。


「怒りに満ちたベータの声音と表情に怯えた世界は、渋々ベータに従い、お前を殺そうとしなくなった。


「しかしベータも。ずっと自らの元に置いておくわけにもいかず、誰かに育てさせようと、世界を回った。


「いくらベータ様のお頼みとは言えども、我々はその赤子を育てることはできません。お許しください、と。


「世界は赤子を否定した。困り果てたベータが最後に訪れたのが、ここ、パトリダであった。


「私は、王宮でベータと話し合った。私だって、助けたいのは山々だが、最弱の種族であるゴブリンの里に、さらに大罪の産物を受け入れることに反対する民の声が大きかった。


「……それでも。私は。お前を見捨てられなかった。


「ベータからお前を受け取り、責任を持って、育てると誓った。神に誓った。


「これが、お前の物語の序章だ。


「お前が“罪の子”と罵られ、恥知らずと蔑まれる理由は、このような父親の、世界を裏切る愛の結果であった。


「その代わり……とはとても言えないが、アマルティア、お前は超常的な成長速度と、圧倒的に飛び抜けた身体能力の高さに加えて、父親譲りの生命力……つまりは大抵の怪我や病気には襲われないという、超人的な人間として育った。生命としての性能が段違い、と言ったところだ。


「それでも、これからのお前の人生は、辛く苦しいことしか待っていないかもしれない。


「どこに行けども否定され、拒絶され、罵倒されるのがオチだろう。


「それでも、それでもお前が。強く気高く、生きていきたいと。望むのなら。


「ここで暮らそう。一緒に、暮らそうじゃないか」



 最後には、アマルティアの手を優しく、しかしながら力強く握り、始祖じいは涙を流しながらそう締めくくった。


 あまりに残酷な、戦慄的な。恐ろしく悲惨で痛々しい話を聞いた、当の本人。アマルティアは──笑っていた。



「ありがとう、ございます……始祖様…私は、私は」



 笑っていながら、泣いていた。震えていた。不安や恐怖が、目に見えて浮かんでいた。当たり前だ。世界を裏切る父親の罪の産物がお前だと、そう言われたようなものだ。

 これからの人生がどんなに過酷かなんて、わざわざ言うまでもない。


 それでも、彼は。アマルティアは。



「私は、強く、強く。父の誇りにかけて、立派な男に……育ちたい……生きたいっ……!」



 もう涙は止まっていた。彼の眼差しは、何を見据えていたのか。俺なんかには想像もつかないが、その瞳に、絶望の色は、無かった。

 力強く握り帰された手を、驚いたように見ながら、始祖じいは、もう片方の手で、静かに、目頭を押さえた。


 ──俺は。何も、言えなかった。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 翌朝。俺の部屋に新しく用意された二段ベッドの上にどっちが寝るかで小規模戦争を夜通しでしていた俺とアマルティアは、濃いクマを目の下に貼り付けて、ボーッとしたまま朝食を済ませようとしていた。


 ちなみに、別にゴブリンだからと言って、虫とかを食べるわけではない。普通に、肉と草……つまりは野菜。舌の構造が根本から違うので美味しく感じるだけかと思っていたが、アマルティアも美味しいと言っていた。


 ハイゴブリンの幹部に、料理が上手なやつがいるらしい。今度教えてもらおうかな。


 美味しい美味しい朝食を済ませて、早速俺とアマルティアは王宮の中庭に向かった。


 着くと、果たしてそこにはピズマが腕を組んで仁王立ちしていた。


 まぁ、俺らが呼び出したんだけれど。



「よう!ピズマ!今日からよろしく頼むなっ!」


「……本当に、よろしかったのですか?自分なんかが、お二人に“戦い方”を教える、だなんて」


「当たり前だ。なんてったってお前はパトリダ最強のゴブリンだからな!」


「そうだったのか!?よく教会にも来てくれていたのに、なぜ教えてくれなかった!」


「いえ、自分は、まだまだだと自覚していますので」


「謙虚なやつだからなぁ。そんでさ、ピズマ。昨日の夜、考えて、2人で話し合ったんだけれど」


「ランはズルい戦い方、そして私は剣術を教わりたい」


「……始祖様に後でお叱りを受けそうで、今から胃が痛いのですが……」


「俺たちもさ、後10何年かしたら、ベータ様の加護を受けられるんだろ?」


「ええ。しかし、どのような加護をお受けになられるかは、そのときまでわかりませんよ?たとえラン様がズルい戦い方なるものを極めようと、『剣士』の加護をお受けになられてしまっては……」


「いいや、ピズマ。始祖じいに聞いたんだが、どうやら加護を受けるまでの“過去”が、与えられる加護に大きく影響するらしい。つまるところ、俺は『盗賊』の加護を受けたいから、盗賊っぽい行動は常に心掛けるつもりだし、盗賊ってやっぱりズル賢いイメージあるからな」


「もちろん私は『剣士』の加護を受けて、いずれはピズマを超えるパトリダ最強の剣士になるのだ!」


「……私は剣士ではないのですが」


「なに!?お、おいラン、話が違うぞ!」


「安心しろティア、そして驚愕しろ。ピズマは戦いに関してなら、武器や状況を問わず、何でもできるオールラウンダーだ。そこらの名剣士って言われてるのより普通に剣の腕が良い」


「……おいピズマ。お前は本当に何者だ」


「アマルティア様、目が怖いですよ。……自分はただのしがないホブゴブリンですよ」


「……そういや、ピズマは何の加護を与えられたんだ?」


「……言いたくありません」


「おいこらピズマ、お前俺たちを様付けで呼ぶわりにはこういう肝心なところでその忠誠をどこかに置いてくるようだな、答えろ!」


「そうだぞ、私とて、強きを知り、強くなりたいのだ!」


「……やはり言えませんっ!」


「クソッタレがぁっ!」



 ポカポカとピズマを殴る俺たちを、困ったようになだめるピズマは、結局何の加護を受けたのかは教えてくれなかった。



「では、始めましょうか。ラン様は……ズルい戦い方。アマルティア様は、剣術、ですね。自分は見た目の通り、不器用ですので、加減はできませんから、お覚悟願いますよ」


「ああ、かまわん。私もランも、やたら頭と運動神経が良いらしいからな。そう簡単にはいかないぞ」


「どちらからにしますか?いずれは2人同時にお相手をして、より実践的な戦い方を身につけてもらうつもりではありますが。最初は1人ずつの方が覚えが早いはずです」


「うーん。どうしようか。そうだな、じゃあティア。ジャンケンで決めよう」


「じゃん……けん?」


「知らないのか。そうだな、ジャンケンってのは、ジャン、ケン、ポンと言うときに、ポンのタイミングで、握りこぶしのグー、ハサミの形のチョキ、……開いてパー。このどれかを出すんだ」



 俺は、実際にその形に手を変えて、身振り手振りと共に詳しく教えた。



「……ラン様。そのジャンケンとやらは、人間たちが行うとされる、ある種の遊戯みたいなものなのですが。……何故ご存知なのですか?」


「そんなの決まってんだろ。俺が類い稀なる天才だからっつーわけだ」


「よし、覚えた。やるぞ、ラン」


「ではどちらが勝つか、この目でしかと確かめましょう」


「聞けよっ!」


「いくぞ、ジャン」


「ケン」


「「ポンッ!」」



 俺は全力の握りこぶし。アマルティアは、弱々しいチョキだった。



「ふはははははッ!雑魚め!」


「まだだ……まだ負けてはいない!」


「馬鹿め、グーは石でチョキはハサミだから、ハサミは石より弱いんだぞ!俺の勝ちだ、潔く負けを認めろ!」


「……いつだって男ってやつは、逆境に、圧倒的不条理に、立ち向かっていくものだろう!!」


「その通りです、アマルティア様!」


「いい加減にしろよお前ら!」



 結局、何故か押し切られた俺が後で、先にアマルティアから修行、もとい授業が始まったのだった。



「ではアマルティア様、まずは持ち方からなのですが……」


「ほう、ふむふむ。なるほどな。ここをこうして、こうか。いいぞ、かかってこい!」


「いえいえ、アマルティア様。こういうものは得てして基本からでして、まずは素振りからでございます」


「なぬ!?敵もいないのに剣を振るうのか、私は!?」


「ティア、お前が持ってるそれは剣じゃなくて木の棒だ」


「この木の棒は普通の剣より重く、扱いづらいモノとなっておりますゆえ、この重さでも使いこなせるようならば、これより軽い剣は、さらに速く鋭く振るうことができるようになります」


「こんなのが重いのか?それならば随分と剣とは軽いものなのだな」



 そう言って結構太くて、さっき持ってみたらかなり重かった木の棒をブンブンと当たり前のように振り回すアマルティア。さすがは『生命』の能力の産物なだけあって基本ステータスがカンストしてるんじゃなかろうか。チート野郎め。



「……しかし、真剣でもって稽古するとなると、危険な可能性が……」


「安心しろ、お前を斬り伏せたりはしないぞ、ピズマ」


「いえ、そうではなくて、真剣には真剣で対するので、私が手元を狂わせれば、アマルティア様を傷つけることにも繋がりかねない、と」


「あんまり私をなめるなよ、今に見ていろ」


「今日のところはとりあえず木の棒対木の棒でやっとけよティア。ピズマも手加減してやれよ」


「無論です」


「ふざけるなお前たち!」



 そうして。まずはアマルティアの剣術の指導が始まった。基本的な振り方や、体重移動、剣の角度による振り抜く速さの違いなど、そういう感覚的なのは、実際の戦いの中で覚えるべきだと言ったピズマは、わざと受け身になって、たくさんアマルティアに攻撃させていた。


 でも、やっぱり、アマルティアはすごい。俺がアニメとか映画で見たことあるような、本当に剣士みたいに木の棒を振るっている。前後左右に素早く動き、ピズマの体勢が僅かに崩れるその一瞬を逃さず、止めどない雨のような剣撃を繰り出す。


 どこにそんな力があるのか、もうかれこれ10分以上休まず、というか止まらず激しく動き続ける2人。そして今一度言うが、2人が今振るい合っているあの木の棒はかなり重い。



「……ははっ、さすがはアマルティア様。2歳とは到底思えない身体能力。自分なんて、2歳の頃はまだ歩けていたかどうだったか。本当に恐ろしい才能と身体ですね」


「……はっ、はぁっ!……しゃ、べる余裕があるのか、ピズマぁっ!」


「いえいえ、余裕なんて全く。それにしても本当に驚きです。この調子だと、ベータ様の加護をお受けになられる前に、自分は敵わなくなりそうです」


「……そう、言いつつも一度もティアに攻撃しないピズマは、やっぱり余裕そうだな」


「はははは……まぁ、自分も少しは修行というか、色々と努力はしていますので。始祖様の護衛を任される以上は、強くないといけませんからね」


「……ランと……ッ……はぁ、話してるなんて、呑気なものだなっ……ピズマっ!!」



 そう言って、ピズマとつばり合いになったアマルティア。……木の棒だから鍔なんてないんだけどね。


 息の荒いアマルティアと、汗ひとつかいていないピズマ。当たり前だけれど、結果は見え見えだった。



「よいしょ」


「ぐあっあっ!」



 ひょい、と。いかにも簡単そうにアマルティアを振り払うピズマ。マジで怪物だな、こいつ。頼りになるぜ。



「今日は一旦休憩にしましょうか。お昼を食べてから、今度はラン様の番です」


「まだ、……はぁ、はぁっ。……終わってないぞぉ……はぁ、はぁ」


「そうだな、今日の昼飯は何だろうな、もう霜降り草のサラダは食べたくないなぁ」


「ラン様、お肉だけでは力がつきませんよ。バランスよく食べるのが大切です」


「話を聞けぇぇえええっ!!」



 喚くアマルティアをおんぶして、昼飯を済ませに食堂に向かった俺たちを、王宮の部屋から始祖じいが嬉しそうに見ていたのを、実は俺は気づいていたりした。


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