第3話 運命の朝
※書式を修正しました。
──際限の無い白が、それが、光だとわかったのは、その白が薄れて、霞んできたころだ。
眼を焼く白は薄れ、朝霧のような白が霞んで、淡い光の余韻に照らされた雲が晴れていくと──
白を超えた先に見えたのは──
──白。……白?また?
いや、違う、さっきまでの眩しいような、光のような白ではない。
これは……布?白い、布のような……。
「──いたたた……」
声がした。聞いたこともない声だ。可愛らしい女の子の声。それが、真上から聴こえる。
ちょっとまて、今、どういう状況だ?要点を整理しようか。
まず、暗い。何かに覆われているような暗さ。そしてそれらを暗いと、より一層思わせているのは、この、目の前の色褪せない白。正確には白い布。
そして真上から女の子の声。
状況に混乱して、じっとしている場合じゃないな。今度は俺から何か現状打破に対してアプローチせねば。動いてみよう。とりあえず顔を上げる。
「きゃあっ!」
え?きゃあ?
頭を上げると、視界が広がり、そして、目の前に。
──涙目でこっちを見てる女の子がいる。
「誰だお前」
とりあえず尋ねてみた。ぶっきらぼうに。
「え、えぇ……。それはこっちのセリフですよぉ……。というか、名前を尋ねる時にはまず自分からって習いませんでしたか?まったくもう」
生意気な娘だな。裸にしてやろうか。
「……千葉蘭だ。それで、お前は?」
とりあえず答えた。すると。
「私は、紗江って言います、菊里紗江です」
無駄に可愛くて無駄に胸の大きな子は、笑顔で答えた。
その日、俺の恋が始ま──るわけねぇだろう。
まず色々おかしい。なぜこの、紗江ちゃんと、俺は『制服』を着ているんだ?この子はまだしも、俺はもう20歳だぞ?制服を着るという平日の義務に囚われたあの頃はもう終わったはずだが。
この子は、見た目から言って、高校生か?
そんで、今更だけど、俺はさっきまでこの子の『スカートの中』に頭がスッポリ入ってたわけだよな。どう考えても。
俺はそんなドジっ子キャラじゃないんだが。いや、転ぶことはよくある。運動不足が祟ってな。
それでも、その拍子に見知らぬ美少女JKの天使布を拝めるほど運も良くない。いやいや。
──ライトノベルじゃあるまいし……。
「あのー、遅刻しちゃいますよ?私たち」
ん?遅刻?……まぁそこはいい。『私たち』?私たちって言ったか?今。
「えーと、あはは。なんだか、今転んだ衝撃で記憶に混乱が生じてるみたいだ。今僕たちは何をする為に今どこにいて、これからどこに向かうんだ?」
下手くそなカタコトを駆使して、そんな風にアホなことを訊いてみると。
「えええ!?ほ、本当ですか?たたた大変……!」
どうやらこいつの方がアホだったらしい。
「えっと、歩きながら話しますので、こっちへ」
……手を掴まれた。警察に連れて行かれるのだろうか。出頭に遅刻なんぞあるのだろうか。
「まず、私たちは今、藍蘭高校に向かっています」
なるほど、先刻の予想通り、この子は高校生らしい。ついでに俺も。疑問点は沸騰水の泡のように止めどなく浮かぶけれど、まずは一通り聞いてみるとしよう。
「私たちは、藍蘭高校の学生です。正確には、これから入学式なんですけどね」
ほう、どうやら今俺は男子高校生らしい。が、しかしながら過去に戻った、というわけでもないらしい。
まぁこの子も初対面だし、そもそも俺は藍蘭高校なんてところには通っていなかった。
「けど、あと5分しかないんです!入学式から遅刻なんて、先生に目をつけられちゃいます!」
……スイカ?メロン?わからないけど、そんな大きな爆弾2つ携えてる時点で目はつけられてしまうだろうよ。しかし、この展開……。
ウキウキの高校生活スタートの日、遅刻しそうで走ってたら美少女とぶつかって劇的な出会い。
……ラノベかよ!なんだそれ!そんな夢に溢れた学生生活はまじでファンタジーだったはずだが。
なにこれ、俺、ラノベの中に来ちゃったとか?そんな浅い企画なの?コレ。
少なくとも、こんな都合のいい、ある種、俺みたいなのが憧れるような展開は、アニメやライトノベルの世界の中くらいだろう。
しかしアニメだったら、この子の声を、誰か声優が演じてるわけだから、普通に考えて俺の声も誰かが演じてるわけだろうけれど。俺の声はしっかり俺の声だ。
アニメという線はないだろう。なら、ライトノベルか?いや、こんな荒唐無稽な話、前提としてありえないのはわかってるんだ。都合の良い現実逃避の結果が夢として目に見える、という線も濃い。
それでも、夢ってのは俺の脳が見せてるようなものだろう?詳しいことは知らないから一概には言えないけれど、少なくとも、聞いたこともない高校を脳内に作り出すほど俺は想像力に長けていないが。
「は、走りましょう!蘭くん!」
言うが早いか、駆け出した巨乳の化身を追いかける。名前で呼ばれちった!てへ☆
お、意外と早いな。運動は得意なんだろうか。巨乳なのに。
若干感心しかけたころ。
──どさっ。
ん?どさ?え、なに?どしたのこの子。
急に倒れた。転んだ、と言うより、力が抜けて倒れ込んだ、という感じだったが。
「お、おい!どうした!どっか悪いのか!?」
この機会をチャンスと捉えて、ささっと胸を揉んでやろう!なんて下世話な思考回路は生憎持ち合わせていないので、とりあえず心配する。
「ぅう……、け、今朝は、ご飯食べてないんです……」
なんだこいつ。じゃあ食パンくらい咥えとけや。
……しかし、気付いていても言わなかったが。このテンプレ展開の渦中にいるということは、間違いなく、俺は今。『ラノベ主人公』だろう?
運が良いことに、そんなおいしい役職を担うことになったのだ。ならば上手く活用してみせよう。立場が違えば、展開は変わる。
そうだな、まずはこの巨乳っ子を、第1ヒロインとして我がハーレムに入れよう。
決めたらもう即行動だ。とりあえず俺は巨乳……そろそろ名前で呼ぼう。
紗江を抱き上げる。お姫様抱っこってやつだ。
「ええっ!あ、あのあの!ちょ!恥ずかしいですよぅ……」
なんかほざいてるが今は無視だ。幸いにも、いや、当たり前か。今は身体が高校生のものなので、無駄に体力が余りある。女の子1人を抱えて走れるくらいには。
「ほら、いくぞ。鞄落とすなよー」
お姫様抱っこなんてなんともない、という風に応じて、走り出す。
「ナビ頼む。学校の場所わかんねぇからな」
「ふぇぇ……ぅぅ。わ、わかりました。次の十字路を右折してください」
「あいあいさー!!!」
「にゃ!!びっくりしたぁ、急に大きな声出さないでくださいよ……」
「あと何分だ!?」
「2分くらいです!このペースなら、ギリギリ!!」
「任せろこなくそぉお!!!」
なんて、現実(まだここが現実じゃないとは限らないけど)世界の俺ならありえない展開を楽しみながら、走る、走る、走る。
──そんなこんなで、俺の夢の新生活が……始まる、のか?
この辺から、ようやく本編って感じですかね。
タイトル回収までに二話も費やしてしまいました。
ここからは僕も書いてて楽しい展開ばかりです。
頑張ります!




