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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
25/105

第25話 第一歩の終わり

読みに来てくださり、ありがとうございます。


 その日。


 俺は、何かと忙しそうな瑞樹が合間を縫って作ってくれた朝ご飯を……おそらく最後の朝ご飯を食べて、家を出た。


 今頃、この世界を終わらせるための準備やら何やらをせっせとしているのであろうことはわかるが、家を出る際、瑞樹は、昨日の雰囲気などどこへ行ったか、『行ってらっしゃい、お兄ちゃん。』と、いつかぶりの可愛らしい笑顔で送り出してくれた。


 けじめ、だろうか。それとも気が向いて何となくそうしたのかは無論瑞樹にしかわからないのだが、それでも、最後にあの笑顔を見せてくれたのは、素直に嬉しかった。なんだかんだでいい女である。


 朝、多少、緊張した面持ちで十字路に着いた俺ではあったけれど、やはりというか、最後まで遅刻ギリギリの時間に行ったため、3人にいつものごとく注意されながら学校へ向かった。


 この3人は、俺と同じく、何らかの目的を持ってこの世界にいるのだろうか、とか。昨夜は考えていたけれど、そんなことは無いだろう、という結論に至った。

 なぜかと言えば、少なくともこの世界に確実に深く関わっている瑞樹が、俺の家に住んでいることが、俺を監視、もとい記録などしているのでは無いだろうか、と思い、それなら、傘音なんかは、瑞樹と会ったことすら無いじゃないか、と思い至って。


 何より、俺はあの日。入学式の日。紗江とぶつかるまで、この世界にいなかった。記憶も、そこからであった。けれど、3人は、元からこの世界にいた。(……いたはずだ)


 紀伊ちゃんも、俺の幼馴染みとして、幼少期の俺の姿を知っていた。まぁ正確にはそれは俺ではないのだけれど、だからこそ、“俺の意識”が芽生える前の千葉蘭が元々この世界にはいたはすだ。


 正直、じゃあその千葉蘭はどこへ行ったのか、とかは考えないようにしている。どうせわからないとわかっているからだ。


 というか、瑞樹が言っていた。あの3人は“私側”の人間ではない、と。


 紗江と瑞樹は、やけに仲が良かったので、2人はグルなのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


 そういった、ヒロインに対する疑心や不安が無いだけでも心持ち、楽なところがあった。



 学校に着き、いつもと同じく。やたら早い時の流れが過ぎ去って、昼休み。ああ、こうして弁当を食べながら、くだらないことを話すのも最後なのだろうか、最後なのだろうな。なんて思うのは、もうやめた。この世界に未練を持つ時点で、本来の俺への、俺自身への、裏切りだ。


 上手く笑えていただろうか、正直自信はなかったけれど、やっぱりあの3人と話しているのは楽しかった。


 その日に限って、昼休みまで早く感じた。午後の授業はさらに早くて、なんだろう、まるで。決定の時へと急かすような、急かされているような、そんな気がした。


 昨夜、いつ伝えようか、いつ1人を決めるのだと言おうかと考えたが、結論としては、帰り道にすることにした。まぁ、朝一で決めて、そこですぐ世界が終わり、というのは寂しいので、最後の1日はいつも通り楽しみたかったのだ。


 そんなわけで、帰り道。いつもの十字路。始まりの十字路。何かとここではイベントが多い。


 今日、やはり3人は俺の様子に気がついていたようで、どうしたの、元気ないの?と、訊いてくれたりした。そういった、何気ない優しさに、このまますがりつきたくなる心を振り払って。捨てて。置いて逃げて。


 俺は。重々しく、口を開いた。



「……なぁ、紗江。紀伊ちゃん。傘音」


「なぁに、らんらん」


「……俺、決めるよ」


「決めるって、何をですか?」


「この、お前たちとずるずると曖昧な関係を続けていた日常を壊す覚悟で、本当の、1人を」



 空気が固まる。



「……そ、そんなに急がなくてもいいよ?僕たちも心の準備、とか、あるし」


「そ、そうさらんらん、私たちから決めろと言っておいてなんだけれど、さすがにちょっと早すぎやしないかい?」


「……色々とあって。もう、決めるべきだと、思った。決めないと、いけないんだ。俺のためにも、3人のためにも」


「蘭くん……」



 3人はいつになく不安そうな顔で俺を見ていた。俺は、どんな顔をしていただろう。少なくとも、いつもみたいに、ヘラヘラしてはいなかった。いられなかった。



「つまりは、そうだな。俺は、付き合う女の子を今この場で決めるわけだけれど、異存はないか?」


「全く無いと言ったら嘘になるのだけれど、らんらんが決めたんだ、私達がどうこう言えることじゃあないさ」


「……本当に、決めちゃうの?ってことは、今この場で蘭はこの中の誰かに告白するってこと?」


「まぁ、そういうことになるな」


「選ばれなかった2人はどうすればいいのでしょうか……」


「……その辺は、考えてない。けれど、1人だけ呼び出して告白ってのは、何か他の2人に内緒みたいで感じ悪いだろ?」


「うがぁああっ、ゲームとかなら、多少迷ってもすぐ決められるけれど、現実で、さらには選ばれる側だと、不安でやばいぃい」



 なんだかんだ乗り気なのか違うのかわからない3人に、昨夜、考え抜いた俺の答えを告げる。正直な思いを告げる。



「……正直、決められる気がしなかった。みんな好きだし。考えに考え抜いて、思いついて、結びついて。ああ、やっぱり、俺が好きなのはこの子だなぁって昨日、気づいた。


「それでも、今この場で、ここまできても。やっぱり迷ってる。情けないけど、迷って、どうしようもなく、困ってる。


「好きな子は決まっていても、それと同じくみんなが好きだから。


「本当なら男らしく、ビシッと決めたいところではあるけれど、そう簡単にはいかないよ。それぞれと、たくさん話して、いろんな思い出が、想いが、確かにあって。


「紗江とは、入学式の日に出会ってから、ずっと一緒にいる。俺の家とか、紗江の家に、互いに泊まったりもした。たまに、人格というか、口調というか、もう、色々と変わるところとか、面白くて、普段から見てて飽きなくて、やっぱり俺は紗江が好きだと思った。


「紀伊ちゃんは、幼馴染みだから、昔、小さい頃、結婚する約束とかしてたらしいけれど、申し訳ないことに俺は覚えてなくて、それでも、やっぱり昔から一緒だったんだな、ってそう思えるくらい、紀伊ちゃんといると安心する。安心できる。どうしようもなく、紀伊ちゃんも好きだ。


「傘音とは、出会ってからこんなにも日が浅いのに、ずっと前から一緒にいたような、それくらいお互いの距離が近くて、本当に、驚くほど、というか実際驚いているけれど、すっごい気が合うんだよな。話も趣味も、合うんだよな。正直運命だと思った。こんなにも俺と合う子っているのかなって、……タイプだし。やっぱり、本当に、傘音が好きで、たまらない。


「もう何で1人に決めなきゃいけないんだとか、みんなで幸せになれないかなだとか、アホみたいに同じこと繰り返し繰り返し考えて、その度にそれじゃあ何も変わらないって改めて思って、苦しんで苦しんで。やっぱりこれは義務なんじゃないかと思った。


「この世界での、俺のやるべきことならば、誠意を持ってやるべきだと思った」



 この世界での、と言ったとき、3人は一様に首を傾げた。やはり、3人にとってはここが、この世界が。本当の、唯一の、世界なのだろう。改めてそう確信し、密かにホッとした俺は。しっかりと3人を見据えて、続けた。



「だから。俺は……俺は……。言うよ。もう誤魔化さない。もう、逃げない。目を逸らさない。


「この決断がどんな結末を産もうが、俺は。間違ったことをしたとは思わない」



 いつになく真剣な俺に、紀伊ちゃんが同じく真剣に応えてくれた。



「……そうだね。うん。らんらんが、本当に好きな人に気づいて、それを伝えようって、苦しくても、こうして言ってくれたんだ」



 傘音も。



「だったら。それならば。僕たちは。身勝手に、わがままに、蘭を止めることはできないし、しない」



 紗江も。



「蘭くん…。私たちも、どんな結果でも、どんな結末でも。受け入れますよ、甘んじて。……甘んじたくはないですけれどね」



 ああ。やっぱり。本当に、いい子たちだ。俺みたいな、社会のクズの20歳のおっさんが、こんな子たちと仲良くなんかしてる場合じゃねぇなぁ。仕事しろよって感じだ。


 それは今はいい。どうせ元の世界に戻るんだ。それから先のことは戻ってから考えて行動しよう。今は、3人に。真摯に。誠実に。


 身を切る思いであることを。表には出さないで。



「俺……俺が。好きなのは」



 ごくり、と。唾を飲む喉の音が聞こえた気がした。……紀伊ちゃんが少しニヤニヤしているせいで、緊張感に若干欠けるけれど。



「好き……なのは──」


















「──瑞樹。お前だ」



 俺は、ヒロイン3人の後ろ、その奥の曲がり角に向かって、大きな声で言う。唖然としている3人を尻目に、続けて。



「どうせ見てるんだろ、そこで」



 それを聞いた3人が揃って振り向くと。



「……はぁーあ。なーんだよ、それ」



 ため息混じりにそう言いながら、ノートパソコン片手に瑞樹がひょこっと出てきた。



「……千葉蘭、あなたねぇ、決められないからって私に逃げるのやめてくれる?迷惑だし、正直キモいんだけれど」


「え、結構マジな顔でそんなこと言う?俺の柔らかコットンハートがブレイクしそうでまじデンジャラスなんだけど」


「え、え、ちょっと、らんらん?どゆこと?瑞樹っちは、だって。妹、でしょ?」


「こんなやつの妹とか死んでも嫌だし、事実、違うし」


「えぇぇ!!瑞樹ちゃん、蘭くんの妹じゃなかったんですか!?」


「これで恋愛が許された!」


「死んでも嫌だって言ってるでしょ」


「うごふっ!」


「蘭が死んだ!」


「……で、あなた、本気で言ってるの?さすがにこのケースは想定していなかったから、昨日、結末は同じとは言ったけれど、そうとも限らなくなってきてしまったのだけれど」


「ああ。本気も本気、超本気だ。噓偽りなく、俺は紗江と紀伊ちゃんと傘音が大好きだ。それでも、なんだかんだでいつも俺は瑞樹のことばっかり考えてたし。というか、片想いって燃えるよね!」


「最後くらい主人公らしくビシッと決めろよクソニート」


「おい待てこの3人の前でクソニートはやめてくれ、大事な何かが壊れてしまいそうだ!」


「ちょっと、ねぇ、らんらんと瑞樹っち。盛り上がってるところ悪いんだけれど、ごめんね?話が掴めない」


「……結局、蘭くんは、瑞樹ちゃんが好きってことでいいんですか?」


「ああ。これまでにも何度も愛を伝えたけれど、やはりふざけていると思われていたからな。改めて、瑞樹。俺は、お前のことがす」


「死ね」


「はぅん!」


「蘭が死ん……ちょっとニヤけてる!?ドMだ!?」


「……本当にこれで良かったの?千葉蘭」


「もちろんだ。……いや、フラれたことは悲しいけどな。諦めないし」


「……あーもー、何だよ、色々と台無しにして。私の苦労は何だったわけさ。くだらない、終わらせよう、もう」



 そう言っておもむろにノートパソコンを開いた瑞樹。俺たちは何も言えずに、瑞樹をただ見ていた。瑞樹が、イライラしているのか、強めにエンターキーを叩いた、その瞬間。



 ──バタリ。と。3人──紗江、紀伊ちゃん、傘音が。倒れる。



「……は?」


「あーあー、もう。色々と失敗だし。私怒られちゃうよぉ〜!もうっ!」


「おい、紗江?紀伊ちゃん、傘音?お前ら、どうした急に!」


「あ、もう3人は役目終わりだから。どこかのクソニートがアホみたいな選択したせいで少しばかり早めの終了だったけれど、遠からずのうちにどうせ同じことになってたよ。なにせ、この世界が無くなるんだから」



 そう言って瑞樹は地面に置いたノートパソコンを一心不乱に操作し始めた。地面にあぐらをかいているが、スカートなので中々に扇情的な良いアングルで下着を見ることができて重畳である。


 っておい。そんな場合かよ。何だ、役目終わりって。3人はもう用済みってことか?いや、意味わからんけど。


 瑞樹は額に青筋を立てて、あぁもう、とか時々言いながら、キーボードを叩く、叩く。


 やがて、何らかの作業、もとい俺のせいで発生したミスの修正?が終わり、瑞樹は立ち上がると、俺の手を無理矢理に引っ張り、家に向かった。


 家に入る。玄関で靴も脱がずにズカズカと階段を上ると、瑞樹の部屋の前で待つよう言われる。かなり汚い口調で。


 少しして、瑞樹が出てきて、何かを俺に押し付ける。



「……ほら、これ。私から。……そうだな、記念すべき“始まりの第一歩”修了祝いってことにしよう。そうしよう。ほら、受け取れやクソニート!」


「お、あ、うん。……何だこれ?……時計?」



 時計だ。四角い長方形の、青色のデジタル時計。



「目覚まし時計としてありがたく使えよクソニート。」


「目覚まし時計……。なるほど。ありがとう。大事に使うよ。絶対」


「……お前のためじゃねぇし」



 そう言って瑞樹は隣の部屋──空き部屋の開かないドアを蹴破る。


 そこは、二階ではあるが、下の階と繋がっているので、二階からだと床がなくて危ない。


 そんな思いを、心配を。嘲笑うように瑞樹は。



「よっ」



 とだけ言って、なんと。飛び降りた。


 うおい!と、思わず声に出して俺はドアの蹴破られた部屋を覗き込む。それと同時、瑞樹が華麗な着地を披露して、間髪入れずに謎の機会らしきものの真下にあるパソコン?を操作する。



「お、おい!瑞樹!大丈夫か!?」


「この高さで怪我するほどヤワな訓練受けてないっつー……の!」



 の!と言うのと同時に、部屋の中央にそびえ立つ“何か”に拳を撃ち込む瑞樹。


 よく見ると、ボタンのような、赤い丸型の突起を押したらしい。ストレスのあまり拳が暴れたわけではないようだ。



「はい!これで終わり!それじゃあ、また会うことになるかもしれないけれど!“次の世界”ではせめて主人公らしく頑張れクソニート!」


「は?なんだよ次の世界って──」



 俺が、言い終わるよりも、視界が、世界が、果てしない“白”に包まれるのが先だった。


 いつか見たような、その“白”は。温かく、懐かしい感覚と共に、体の中に。ゆっくりと。ゆっくりと染み込んでいった。


 不思議な、感覚。おそらく、今、俺に何かが起きて、“元の世界”にかえっているところだろう。


 正直、紗江たちが倒れてからの展開が早すぎて混乱が解けていない上に、なんだかんだで名残惜しさもあって複雑な心情ではあるが、ただ。


 あの時計は、瑞樹から初めて貰ったものだから、大切にしようとは思う。


 だって、この時計だけが。俺の手の中にある、この時計だけが、唯一の。この世界のもののような気がするから。



 ──ああ。白が。光が。


 薄れてきた。霞んできた。


 霧散した白の先に、俺は。


 ──見覚えのある。見慣れた、天井を見た。



……はい。というわけで、テンプレラブコメの世界は今話にて、終わりです。


今、15禁の警戒タグをこの作品に付けようか悩んでおります……大丈夫ですよね?…ですよね?


……読んでくださりありがとうございました!

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