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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
19/105

第19話 デート1日目:紀伊ちゃん


「らんらーん!」



 紀伊ちゃんが手を振っている。俺も振り返す。



「セーフ?アウト?」



 寝坊していないかを訊く。



「ギリギリセーフって感じ」


「おお。よかった」



 紀伊ちゃんも何だか満足そうな顔をしている。そんなに遅刻すると思われてたのか、俺は。



「それじゃあ行こっか!」


「よーし。どこに行くかはまだ教えてくれないんだな」


「まぁまぁ付いてきておくれよ」



 紀伊ちゃんが俺の手を取る。俺は何も言わず握り返す。すると。



「……普通さぁ。急に手を握られたら驚いたり照れたりするもんだぜ?らんらん。何普通に握り返してるのさ。逆に私が驚いて照れちゃったよ」



 紀伊ちゃんがそう言う。……ふっ。手を握られたくらいで慌てふためくキャラじゃねぇんだ。俺は。


 そりゃあ確かに、以前は友達も少なくて、ましてや女の子の友達なんて1人もいなかったが。


 どれだけラノベを読み込んだと思っている。女の子との接し方は心得ている。……ただしラノベ世界に限る。現実はそう上手くいかないだろうからな。



「だって、デートだろ?俺ら今両思いだし。俺も手、いつ繋ごうかなーってタイミング見計らってたくらいだから。別に驚きはしないよ」



 俺がそんな風に言うと。紀伊ちゃんは。



「……何か私ばっかりドキドキしてて。馬鹿みたいじゃんか」


「そんなことない。俺、女の子とどこか行くの初めてだ。修学旅行とかはカウントしないぞ」


「らんらんは、私たち以外に女の子と仲良くしてたことあったの?中学時代とか。モテモテだった?」


「女の子とは、プリントを後ろの席に回すときに『あの、あの、すみません』って言ったくらいしかコミュニケーションをとっていない。当然お付き合いもしたことない。 」


「へぇー。今はモテモテなのにね」


「そんなことないよ。 」


「またまたぁ。らんらんは謙虚な男だぜ」


「素直なだけだよ。紀伊ちゃんにはね」



 紀伊ちゃんにはね、の部分だけ紀伊ちゃんの目を見て言った。



「そういうのがずるいんだ!」



 紀伊ちゃんは顔が真っ赤だが、怒っているのか照れているのかわからない。


 そんな会話をしながら。歩くのが少し遅い紀伊ちゃんに合わせたペースで、手を繋ぎながら歩いて行くと。駅に着いた。へぇ。駅なんかあったのか。そういえば、まだ、家から学校がくらいしか行ったことがなかったな。この世界では。


 財布は勿論持ってきていたので、紀伊ちゃんと切符を買って電車に乗る。


 席に並んで座る。車両には、俺たちの他に人はいなかった。後ろの車両には人影がちらほら見えるが。あまり乗られていないのか?この電車。


 紀伊ちゃんはすごいくっついてくる。けど、身長差があるのでそこまで顔は近くならない。いや十分近いんだけど。


 紀伊ちゃんは、別に寝ているわけでもないのに俺の肩に頭を乗せて、満足そうな顔をしている。自己満足じゃねぇか!くそぅ。それならこっちだって、紀伊ちゃんの髪の匂いを嗅いでやることくらいできるぞ。


 俺がクンクンしていると。



「おい。らんらん。何勝手に人の頭嗅いでるんだ。なんか恥ずかしいぞ」


「いや、すっげぇいい匂いするなぁって思って。…本当にいい匂いなんだけど」


「……シャンプーとかじゃないの。もうやめてよ。恥ずかしい」


「シャンプーじゃないと思うけどなぁ。女の子の匂いって感じ」



 急にガバッと紀伊ちゃんが頭を上げる。恥ずかしかったらしい。すごいいい匂いだったんだが。


 その後、聞いたこともない駅名の地で降りた。紀伊ちゃんは別段迷うような様子もなく、進んでいく。どこに行くんだろう。


 次第に。何だか騒がしさが増してきたので、何だろうと思っていると。紀伊ちゃんが。



「ふふふ……、そう。今日は遊園地に来たんだ!!」



 胸に手を当てて口角を吊り上げてそう言った。なるほど。遊園地か。デートっぽくていいな。



「おお〜。俺、遊園地初めて来た」


「え。ならもうちょっと大きい所行くべきだった?ダズニーランドとか」


「ダズニーランドは遊園地じゃないだろ。もう、ちょっとした街だろ、あれ」


「ダズニーには行ったことあるの?」


「行ったことはないけど、テレビとかでよく見るよな。オススメスポットとか紹介してるじゃん」


「まぁ。ダズニーで遊ぶなら朝めっちゃ早くないといけないからな。らんらんには荷が重い」


「否定はできない」



 そんなわけで今日は紀伊ちゃんと遊園地。おお。オラ、ワクワクすっぞぉ!




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 ……なんて、呑気に考えてたが。現実は凄まじかった。


 ジェットコースターめっちゃ怖え。やばい。何あれ。人殺すマシンじゃねぇか。落ちちゃうよ。


 俺はビビりながらも紀伊ちゃんに連れられて色んなアトラクションをほぼノンストップで回り続けた。


 紀伊ちゃんはいつになく楽しそうにしていた。そんな紀伊ちゃんが見れただけでも儲けものだ。


 途中。



「……何か私だけ楽しんでない?らんらん、つまんない?」



 さすがにビビりまくりな俺が心配になったのか、紀伊ちゃんにそう訊かれた。



「すっげぇ怖いけど、終わると、また乗りたいなってなる」



 俺は素直に思ったことを口にする。紀伊ちゃんは嬉しそうに笑うと。



「そっか、よかった!」



 と言って俺の手を引いて次のアトラクションへ向かった。


 昼食は園内のレストランみたいな所で食べた。レストランみたいなっていうか、レストラン。


 紀伊ちゃんが、めちゃめちゃ甘そうなケーキを頬張りながら言う。



「いやぁ。らんらんすんごいビビってたねぇ」


「速いし高いし。最初は死ぬかと思ったけど、2回目からは意外と大丈夫だったかな」


「らんらん、私が両手上げてると、『おい!死ぬぞ!つかまれ!』とか言っててちょー笑った」


「振り落とされるんじゃないかってくらい速いのもあったからな。紀伊ちゃん、小っちゃいから吹っ飛んでっちゃうんじゃないかと気が気でなかった」



 食事中はそんな会話をしつつ。次は何に乗ろう、とか。あんまり暗くなる前に帰ろう、とか。何だか本当のカップルみたいだなぁと。話しながら思っていた。


 不意に。紀伊ちゃんが。



「ケーキ美味しい。らんらんも食べる?」


「そんなに甘いのを沢山食べたら、気持ち悪くなりそうじゃないか?」


「じゃあ一口だけ食べる?」


「食べる」


「はい、あーん」


「あー……」


「…………」


「……おい。よこせや。顎が疲れる」


「……何で照れないかなぁ。らんらんは」



 ドキドキあーんイベントをやろうとしたらしい。勿論俺はありがたくいただきたいので、照れたり抵抗することなく、素直に貰おうとした。どうやら紀伊ちゃんはもっとドギマギしたいというか、2人ともドキドキ状態になりたいらしい。



「何で毎度毎度照れなきゃならんのだ」


「最初はドキドキしながらも、頑張って食べて、それじゃあ俺のも食べる?って照れながら自分のも差し出すのが普通でしょ!」


「少女漫画の読み過ぎだ。人は食の前には等しく素直なのだ」


「か、間接キスだなぁ、とか。……思わないの?」


「やった、間接キスだ。とは思う」


「じゃあなぜ照れてくれないわけさ!」


「照れる方が恥ずかしくない?何か」


「その甘酸っぱい恥ずかしさが恋心に拍車をかけるんだろう!」


「間接キスで恥ずかしがっているようじゃキスなんてできないじゃないか。それでいいのか、恋心」


「き、キスは。そりゃあ、まぁ、そうだけど」


「とりあえずケーキをください。それ本当に美味しそう」


「……もう。調子狂うなぁ。はい、あーん」


「あー……む。……美味い。甘い」


「そうだろう?」


「紀伊ちゃんの味がする」



 テーブルの下で足を踏まれた。



「ば、馬鹿なこと言わないでよ!ちょっと!なんなのさ!今日のらんらんはやけに強気だね!私は驚いているよ!」


「冗談だよ。そもそも紀伊ちゃんの味って何だ。知らないし」


「当たり前だろう……まったく。今日は、らんらんに、ドキドキしてもらう為に連れてきたのに。あわよくば私のこと意識してもらおうと思ってたのに」


「意識ならもうしてるよ。朝、紀伊ちゃんと手を繋いだ時から、ずっとドキドキしてる」


「……だ、だから。そのドキドキを表に出して欲しいのさ」


「それは恥ずかしい」


「もーー!!」



 昼食も終わり、少し休んでからまたアトラクション巡り。まだ行っていない所とか、また乗りたいのとか、色々回る。


 で、ずっと避けてきた、お化け屋敷に辿り着く。辿り着いてしまった。なんてことだ。



「……怖い」


「え。らんらん、お化け苦手?」


「泣くかもしれない」


「そのときは私の胸を貸してあげようじゃないか!」


「胸……」


「おい、何だその悲しい顔は。何が言いたい」



 会話では恐怖は拭えなかったようで、俺は入ってすぐ紀伊ちゃんに抱きついた。



「……普通逆じゃないのかな?これ」


「暗い怖い紀伊ちゃん柔らかい」


「そんな怖がることな……何て?」


「早く進もう」



 大体、半分くらいは進んだだろうか。俺ばっかり叫んだりしてたけど、なんだかんだで紀伊ちゃんもビクッとしたり、俺の手をギュッと握ったりしてた。

どっちも怖がりじゃダメじゃないか!守ってくれる人がいないと呪い殺される!



「らんらん」


「……何、紀伊ちゃん。お化けが見えるとか言われても信じないからね」


「……今。暗がりで、女の子と2人きりなんだよ?」


「言葉の上ではな」


「……何も、しないの?」


「何って……それは、ダメだろう」


「誰にも見られてないよ?」



 やけに積極的だな。紀伊ちゃん。でも顔は赤いのは暗くても見える。恥ずかしいけど、紀伊ちゃんから“仕掛けて”いるんだろう。



「見られてるとか、そういうことじゃなくて。音でバレるだろう」


「そ、そこまでするとは言ってない!」


「冗談だ」


「……おい。……そうじゃなくて。き、キス……とか。してくれないのかなって」


「え、いや。でも」



 おいおいおいおい。紀伊ちゃん。攻めるねぇ。ちなみに君の前にいる男は、中身は20歳の大人なんだよ?君は高校生かもしれないけど、おじさん、困っちゃうな。


 ……おじさん、ではないな。20歳は。



「というか。今日はデートなのにらんらんは何もしてくれなかった。私は怒っているよ。キスしてくれないとここから動かないよ」


「なんか開き直って堂々とし始めたぞこの子。……紀伊ちゃん、そもそもこんな所でするものなのか?キスって。いや、まだするとは言ってないけどな」


「暗がりだからなんかたかぶるものがあるんじゃないのか、男なら」


「わかってるじゃないか。……って、いや。でもさすがに」


意気地いくじなし!」


「えぇ……。怒るなよ。……はぁ。よし」


「キスしてくれるまで私はここでじっとしていることにした。ここで暮らすことになるかもしれない。だから早く……」


「目を閉じて」


「……え」


「紀伊ちゃんが言い出したんだろ。ほら、早く」


「う、うん……」



 紀伊ちゃんが目をギュッとつむって、両手を強く握っている。顔がすんごい熱い。紀伊ちゃんもプルプルしている。何だよ、自分から言っておいて。


 俺は、ゆっくりと顔を近づけて。


 ──額に、キスをした。



「は?」


「よし、したぞ。行こう」


「おい。待て小僧」


「何だよ。しただろ、キス」


「私の麗しい唇をほったらかしにするんじゃない」


「場所は指定してなかっただろう」


「指定するまでもなかっただろう!?」


「これ以上は無理だ。一応要求は受け入れたわけだし。早く出よう。もう怖い」


「……意気地なし!」



 めっちゃ走ったりお化けから隠れたりして、何とかお化け屋敷を出た。


 日が暮れてきたので、次を最後のアトラクションにしよう、という話になった。最後は勿論。観覧車。定番だ。カップルで遊園地来たんだ。これは欠かせない。


 2人で乗った。頂上まではまだ少しあるくらいの高さのとき。紀伊ちゃんが口を開いた。



「……今日は、楽しかった?」


「うん。アトラクションも面白かったし。色んな紀伊ちゃんが見れたし」


「……そっか」



 紀伊ちゃんは嬉しそうに外を見ている。そろそろ頂上だ。夕日が、差し込んで、少し眩しい。でも、綺麗だ。夕日も。それを眺める紀伊ちゃんも。とても、綺麗だ。



 俺は夕日から目が離せなかった。多分、こうやってじっくり夕日を見たことはなかった。少し感動しているくらいだ。そこに。


 不意に。



「らんらん」


「どした」



 振り向いた、その時。



「んむっ」



 紀伊ちゃんの、小さくて、柔らかい唇が。俺の唇に。そっと。優しく。触れた。



「今日の恥かかされた分のお返し」



 そう言う紀伊ちゃんの顔は。夕日を浴びているからだろうか。真っ赤で、本当に。本当に、綺麗だった。


春休みが終わってしまうので、投稿ペースが著しく落ちる恐れがあります。というか落ちます。

読んでくださっている方々、申し訳ありません。

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