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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
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第18話 空き部屋の謎


 明日から3日連続でデートしなければならなくなった。喜ぶべきか否か。そりゃあ可愛い女の子とイチャイチャできるんだから文句言うなよ贅沢するな、と。思わなくもない。


 しかし読者様、覚えているでしょうか。僕、ニートなんですよ。動きたくないんですよ。


 なんかこの世界に来てから毎日活動的で能動的な生活を送ってはいますが。本来の千葉蘭ちばらんはそんな活発人間じゃないんです。


 いくら外見やら環境やらが千葉蘭と違うからといって、中身は千葉蘭なんだから、千葉蘭らしく生きるべきだと思うのです。


 ましてや3連休なんて。まず家から出ないのが千葉蘭だ。3日とも外出なんてできないしやりたくない。 ……けど、そうも言ってられないんだよなぁ。


 良いか悪いか今俺はラノベ主人公だからな。いや別に誰かに“ラノべ主人公らしく振る舞え”と命じられたわけでもないんだ。しかし、当たり前だが。


 ラノべ主人公は、“ラノべ主人公を演じている”わけではないんだ。


 これまでの主人公たちは、それぞれがやりたいこと、言いたいことを言って、各々が、あくまで“自分らしく”振舞ってきただけだ。


 しかしその人生が活字にされただけで、“自分らしさ”が“ラノべ主人公らしさ”に変わるのだ。


 つまりは自覚云々(うんぬん)じゃないんだ。必然的にラノベ主人公なんだ、俺は。


 天然(?)巨乳正統派ヒロイン:菊里きくざと紗江さえ


 元気溌剌(はつらつ)金髪金眼幼馴染み:桜坂さくらざか紀伊きい


 童顔丸眼鏡黒スパッツボクっ娘:ひいらぎ傘音かさね


 極め付けは。


 容姿端麗ようしたんれい才色兼備さいしょくけんび若干のツンデレ妹:千葉瑞樹(みずき)


 ここまでのキャラが登場しつつ、俺も普通にイケメン。おいおい。これで『それでも僕はラノベ主人公じゃありませんよ?』なんて口走ろうものなら全国の夢見る若者たちに袋叩きにされるだろう。


 あ、立花たちばなミズキは今は置いておきますね。


 そう、今一度。改めて。言おう。


 我は、ラノベ主人公である!!ふはははっ!


 そんなわけだから。どうせ家に引きこもっていようと、強制的になんらかのイベントが発生するだろう。グータラできる日なんてこの世界の俺には許されていない。


 まぁ明日のことは明日考えよう。今は早く家に帰って瑞樹の顔を見ないと。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 十字路で紀伊ちゃんにデートの件を告げられた後、俺は小走りで家へ帰った。


 別れ際、なんだか紗江も傘音もソワソワしているように見えた。


 家に着いた俺はドアをそーっと開ける。静かに入って瑞樹に後ろから抱き付こう、という浅はかな考えからの行動である。


 極力音を立てずに靴を脱いだ俺は、靴下の恩恵もあって、足音1つ立てずにリビングに入る。ソファーに瑞樹はいない。キッチンか?


 キッチンを覗き込む。……いない。部屋か?でも、なんか瑞樹の部屋にはこの前見つかって以来、入っちゃいけない、見ちゃいけないって感じなんだよな。


 しかし1度瑞樹に抱き付こう、と心に決めてしまうと、諦められないのが俺の性格。やれるところまでやろう。


 俺は忍び足で階段を上がり、瑞樹の部屋のドアの前で耳を澄ます。……何か音が聞こえる。が、しかし。これは。この音は。瑞樹の部屋からではない。


 隣、そう。俺の部屋と瑞樹の部屋の間には空き部屋があるのだ。最初、この部屋は、俺が壁に耳を当てて瑞樹の部屋の生活音を盗み聴きするのを防止するための部屋だと思っていたが。どうやら中に何かあるらしい。そりゃそうか。


 空き部屋のドアに耳を当ててみる。やはりここから音が聞こえる。……ん?やっぱり何か変だ。音が聞こえることは聞こえるのだが。確かにこの部屋から聞こえるんだが……しかし“この部屋ではない”……?そんな気がする。



 ………“下”?


 下、だ。下だな。うん。


 この部屋の、下から音が聞こえる。何の音かは全くわからないが。とりあえず1階に降りよう。


 ……この部屋の真下の部屋って、何の部屋だっけ。確か……。


 俺は少し上達してきた忍び足で、先ほどの空き部屋の真下の部屋に向かった。


 えーと……真下だから。……ここか。この部屋か。


 果たして。その部屋も空き部屋であった。


 別段、不自然だとは思わない。まぁ多少違和感はあるが。……空き部屋が2つ、ねぇ。それでいて真上と真下。うーん。別に意味はないかもしれないしな。


 俺はまたドアに耳を当てる。すぐ近くで音が聞こえる。ビンゴだ。この部屋に誰かいる。無論、瑞樹だろうが。両親はまだ帰らないようだし。1回も会ってないけど。まぁそれは都合がいいので放置。


 ドアノブに手をかける。ちなみに上の階のドアは開いていなかった。


 回せた。……まぁ中に人がいるし、トイレでもないのだから鍵は閉めないか。


 意識して、ゆっくり、ゆっくりとドアを開ける。ドアって以外と『ガチャ』って音が鳴りやすいから気をつけないといけない。


 本当に少しだけ開けて中を覗き込む。



 ──な、んだ、これは。


 わからない。全然わけがわからないが、まぁ読者様に何も伝えないわけにもいかないので、見える範囲で、部屋の描写をしよう。


 まず、部屋は一部屋ひとへやだが一部屋じゃなかった。しっかりと言えば、“上の階と繋がっている”。


 吹き抜け、とでも言おうか。当たり前だがこの部屋だけ天井がすごく高い。


 しかし俺が驚いたのはそこじゃあない。いやまぁ確かに『天井どこやねん』とは思ったけれど。


 その高い天井に届きそうなほど。そびえ立つ“何か”がある。


 その“何か”の根元ねもと、と言うべきか。人で言うなら足元の部分に、女の子が座って何か作業をしている。無論、瑞樹だ。


 瑞樹は何をしているんだ。そしてこのバカでかいモノは何だ。何故部屋が2階と繋がっているんだ。


 色々と気になることはあるが。ドアを閉めよう。これもまた見てはいけないものなのだろう。瑞樹にバレたらまたヤバそうだ。


 俺はそーっと、ゆーっくりと、ドアを閉めた。瞬間。



 ──ヴヴヴヴヴヴヴヴ……ヴヴヴヴヴヴヴヴ……


 ポケットの中のケータイがダンシングし始めた。電話がきた場合はメロディが流れるはずだから、メールか。しかし、まずい。今このケータイをポケットから取り出すと、俺は必ず手を滑らせて落としてしまう。


 音を立ててはいけない、という状況で、緊張の中、震えるケータイを無事に取り出せるとは思えない。そもそもこういう緊急事態にすこぶる弱いのだ。俺は。


 緊急事態エマージェンシー緊急事態エマージェンシー!と心の中で叫びながら、バイブレーションが収まるまで待った。ふう。瑞樹は出てこない。バレてない。セーフ。


 早くここから立ち去らねばと思い1歩踏み出した、瞬間。今度は。



 ピロリロリーン……ピロリロリーン……


 んぅがぁぁあああ!!!!やめろぉおお!!


 これまでの忍者さながらの努力(むな)しく、場に合わない陽気な音が廊下に響く。


 くっそ!メールの返信を待たずに電話してくるとか馬鹿か!?馬鹿なのか!?


 刹那せつな



「誰?」



 目の前の部屋からそんな声が聞こえた。



「いるんでしょ?……お兄ちゃん?」



 何故わかるぅぅ!?ええっ!怖い怖い!



「……見た?」



 抑揚の無い声が近づいてくる。ドアに向かってきているようだ。


 ピロリロリーン……ピロリロリーン……


空気読めこのガラクタがッ!!


 鳴り続けるケータイをポケットの外側から自分の太ももごと殴る。



 それでも止まらない。


 がちゃり。ドアが開く。やばい。やばい。何がどうやばいかはわからないけど確かにやばい!


 俺は。



「……もしもし」



 咄嗟とっさに、電話に出る。


 電話に出たと同時に瑞樹が部屋から出てきた。俺に何か言おうとしていたらしく、口を開きかけたが、電話に出たことを察して口をつぐんだ。



『あー、らんらーん?あのさ〜明日のことなんだけど』



 電話の主は紀伊ちゃんだった。



「え、あ、うん。明日、ね。もう決まったの?順番とか」


『大体ね。明日は私とデート。明後日は傘音っちで、明々後日が紗江っち』


「なるほど。まぁ順番は別になんでもいいんだけど」


『まぁね。で、時間なんだけど、9時にいつもの十字路集合ね』


「9時?早くない?PMの方の9時ならまだしも」


『何馬鹿なこと言ってるのさ。無論、朝の9時だ。いいね?』


「……まぁ頑張って起きるよ。行く場所は決まってるのか?」


『もちろんさぁ!まだらんらんには内緒だけどね!』


「そうか。楽しみにしてるよ」


『絶対私の方が楽しみにしてるけどね!』


「……そうか。じゃあ、また明日な」


『うんっ!』



 通話が終わる。途端。



「お兄ちゃ……」



 瑞樹が口を開いたので、すぐさま俺はそれを遮る。方法は、そう。当初の目的通り、瑞樹を抱き締めて。



「えっ、ちょっと……お兄ちゃん?……んぅ!」



 慌てふためく瑞樹を思いっきり抱き締めて、そのまま持ち上げる。軽いなぁ。華奢きゃしゃだからな、瑞樹は。


 俺はそのまま歩き、リビングに入る。そしてソファーに、瑞樹を抱き締めたまま倒れこむ。腕を伸ばして、瑞樹を押し倒したような、あるいは俺が瑞樹にまたがっているようなカタチになる。


 ソファーの上で。もっと言えば、俺の腕の間で。瑞樹は俺を見上げている。



「ど、どうしたの……お兄ちゃん?近いんだけど……顔とか」


「瑞樹。言わなければならないことがある」



 瑞樹は、窮屈そうに身をよじるものの、脱出しようと抵抗したりはしない。……つまりそういうことか!?



「な、何?」


「俺さ。明日から、3日連続で、デートするんだ」


「だからなんなの……」


「だけど!デートはするけれど!俺が愛してるのは、瑞樹だけだから!」


「なにそれ……ちょっと、ねぇ、なんで顔近づけてくるの?なんで口を尖らせてるの?」


「瑞樹……!」



 俺がチューしようとしたそのとき。


 思いっきり脚を振り上げた瑞樹。瑞樹の狙い通り、瑞樹の膝が俺の股間に肉薄し、直後、激突する。



「あんぎゃぁぁぁあ!!!」



 叫ぶ。ソファーから落ちる。転がる。泣く。叫ぶ。



「冗談でもやめてよね、お兄ちゃん」



 それはそれは冷たい目で瑞樹は言い放ったのでした。


 とりあえず、俺がなんらかのやばい光景を目にしてしまったことは、もう瑞樹も忘れているだろう。


 誤魔化し成功だ。


 そんなわけで、明日は紀伊ちゃんとデート。普通に楽しみです。


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