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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
17/105

第17話 ボクっ娘丸眼鏡スパッツ少女可愛い

※書式を修正しました。


 午前の授業中。冷たい目で俺を見てくる左サイド紗江&紀伊ちゃん。

 一方チラチラこっちを見てきて、目が合うと顔を真っ赤にして目をそらす右サイド丸眼鏡ちゃん。


 ……なんだこいつら。集中できないからやめてほしい。


 4時間目が終わった瞬間。



「蘭くん」


「らんらん」


「あの……」



 両サイド3人が同時に俺に話しかける。声が混ざって、誰が何言ったのか全然わからなかったが。



「「あっ」」



 と、紗江と丸眼鏡ちゃんは口をつぐむ。



「らんらんさぁ」



 紀伊ちゃんは続ける。こういうとき、臆さないというか、控えめではない紀伊ちゃんは強い。



「今朝、またまた寝坊して早くから待ってた私たちを先に行かせて何をしてたかと思えば。なんだかまた可愛い女の子を連れてきて、どういうつもりさ」



 なんか怒ってる……?腰に手を当てて、わかりやすくほっぺを膨らます紀伊ちゃんに続いて、紗江が口を開く。



「……お姫様抱っこ、してましたよね?」



 紗江は怒ってるというか、なんというか。言うなれば、“軽蔑”みたいな。そんな目だ。



「いやぁ、やっぱり朝はどうにも苦手でさ。朝待たせちゃってるのは本当に申し訳ないと思ってる。ごめん」



 頭を下げる。長年のニート生活がたたって、この世界でも朝起きることができないというのは、言い訳の余地なく、俺が悪い。



「……いやまぁそれはついでに言ったみたいなものだから別にいいけどさ。問題はそこじゃないんだよ。そこじゃ」



 紀伊ちゃんに言われて俺は首を傾げる。



「……問題?」



 別にとぼけているわけではない。別に俺は悪いことはしていないからな。寝坊以外に関しては。新ヒロインの晴れ晴れしい登場シーンをいろどったにすぎない。



「そうです、大問題です。……その子を、お姫様抱っこして来たじゃないですか、蘭くん」



 紗江が丸眼鏡ちゃんを一瞥いちべつしながら言う。自然、俺も紀伊ちゃんも同じく丸眼鏡ちゃんに正対する。


 急に注目を浴びて緊張したのか、丸眼鏡ちゃんは「わわっ」っと言って一歩後ずさる。



「まず、君は誰なんだい?」



 紀伊ちゃんが尋ねると。



「えっと、あの、僕は、ひいらぎ傘音かさね……です」



 丸眼鏡ちゃん改め。柊傘音はおずおずとそう言った。



 ──な、なんだと…!?


 ボクっ娘だとぉおおおお!!!???最高じゃないか!!最強じゃないか!!



「俺の名は千葉蘭。君に逢うために生まれてきた男だ」



 思わずキメ顔でキザな台詞せりふを言ってしまう。……キザというかイタイ台詞せりふだという意見は受け付けないぞ。



「えっ……そうなの?」



 傘音は目を見開いて。そう言った。言ったというか、訊いた。……紀伊ちゃんに。



「え、私?……いや別にそんなことないと思うけど。思うというか絶対そんなことないけどね。うん」



 紀伊ちゃんは少し困ったような顔をしたがすぐに切り替えてそう答えた。



「違うんだ……」



 若干ガッカリした様子の傘音。やばいやばい。久しぶりにタイプの子キタ。


 確かに。偽るべき要素無く。紗江も紀伊ちゃんも可愛い。可愛いし、良い子だ。しかし当たり前だが、人にはタイプがある。直感で感じる自分の好みがある。


 俺の可愛い子センサーが大いに反応している。この柊傘音は。いわゆるドストライクだ。俺の好みど真ん中だ。たまらん。見てるだけで幸せだ。


 ……読者様に誤解されると困るので改めて言っておきますけれど。おれが本当に好きなのは立花たちばなミズキと、千葉瑞樹(みずき)の2人だ。あの2人は遺伝子レベルでビビッとキタ。


 でも、もう会えないし合わせる顔もないミズキと、身内だから世間的に手が出せない瑞樹。この2人をいつまでも好いていても、というのもある。いや、諦めるつもりは毛頭ないけどな。


 だから、誤解を恐れずに、あえて悪い言い方をするならば。“手が出せる”中で、1番可愛い子暫定1位だ、傘音は。



「まぁ完全な嘘とも限らないけどな。生まれてきた理由なんて、誰もわからないだろう?」



 俺が構わずそう言うと。傘音は俺の方を向いて返す。



「そう、だね。うん。そう考えると、僕も、蘭くんに──」


「蘭でいい。いや、そう呼んでくれ」


「──えっ、うん。だから僕も、蘭と出逢うために生まれてきたのかもしれないんだよね?」


「きっとそうだ。そうに違いない」



 俺がことごとく、傘音の言葉に食い気味で答える様子を見て。たまらず紗江が口を挟む。



「あのっ、勝手に盛り上がらないでください!……蘭くんは、女の子だったらだれでもお姫様抱っこしちゃうような、す、スケベなんですかっ?」



 俺はすぐさま否定する。



「スケベなどではないっ!変な言いがかりはやめてくれ。誰彼構わず抱きかかえるような男じゃないよ、俺は」


「……じゃあなんで、僕のことは、その、お姫さ……抱きかかえてくれたの?」



 傘音が訪ねてくる。お姫様抱っこと口に出すのが恥ずかしいのか。可愛いな。



「理由なんて見つからないよ。そうなる運命だったんだ」



 俺なりの精一杯のキメ顔で言う。


 “俺なりの”とは言ったが、実際のところ、この世界にいる俺は。千葉蘭は。“千葉蘭の顔をしていない”。少し前、風呂場の鏡でも確認したが、どうやらまぁまぁ整った顔立ちになっている。


 だからこのふざけたキメ顔も、“キマって”いるのだろう。


 だからだろうか。傘音は顔を真っ赤にして。



「……そう、なの、かな」



 はにかみながら呟いた。


 さすがに見ていられなかったのか。紀伊ちゃんが体ごと割り込む。



「はいはーい。意味不明のイチャイチャはそこまでぇー。なんでお似合いみたいになってんのさ」



 お似合いという言葉に露骨に反応する俺と傘音を尻目に、紀伊ちゃんは続けた。



「んまぁ、別にらんらんが傘音っちをお姫様抱っこしたことはさ、そりゃあ驚いたしヤキモチも焼くけれど。やっちゃダメ、なんて。私が決めることじゃないし。いいんだけどさ。なんというか、節度というかね?謹んでほしいというか」


「要するに、そんなことばっかりしていたら、本当にスケベさんだと思われかねないですよ?蘭くん」



 紗江が紀伊ちゃんの言葉を補う形で重ねた。



「……そうか、な?まぁうん。確かに目立つことではあるし、そうホイホイやることでもないからな。少なくとも相手とか場所とか状況とかをかんがみて行動しなさいってことだろう?」



 俺が簡単に結論を出すと。



「わかればよろしい」



 紀伊ちゃんはふんぞり返った。……そこまでしてるのに一切強調されないその慎ましいお胸はもう少し自己主張激しくなってもいいと思う。やっぱり瑞樹のサイズが1番だな。



「でも、嬉しかったし、助かったよ。ありがとう、蘭」



 ふと、傘音が。花のような笑顔を咲かせてそう言った。


 ので。手を握る。



「こちらこそありがとう」



 君に出逢えたこれまでの全てに感謝しよう。


 途端、紗江と紀伊ちゃんが同時に俺と傘音の手にチョップした。


 5、6時間目が過ぎて。今日も今日とてあっという間に。放課後。


 3人で帰ろうと立ち上がったが、そうだ。傘音。傘音も一緒に、そう思って。



「傘音。一緒に帰らないか?」



 傘音の頭を撫でながら誘う。撫でる必要はどこにもないという意見も受け付けない。拒否する!



「僕は、図書室に本を返してから帰るから、先に帰っていいよ。誘ってくれてありがとう。明日は一緒に帰ろう?」



 傘音は照れくさそうに身をよじった後。俺を見上げてそう言った。ので、もちろん。



「それなら図書室まで付き合うよ。本、好きなのか?」



 訊いてみる。共通の趣味のが欲しかったから、本はちょうどいい。俺も読む。……ライトノベルだけだが。



「うん。好きだよ。本は昔から──」


「ごめん、聞こえなかった。もう1回言ってくれ。最初の言葉。」



 傘音の言葉を遮ってそう言った。



「え、もう1回……。……す、好きだよ……?」


「……もう1回……!」


「す、好きだよ」


「ありがとう。俺も好きだ。話を続けてくれ」



 傘音は戸惑いながらも続けた。



「本は昔から好きだけど、僕は特にライトノベルが好きなんだ」



 俺はすかさず食いつく。



「本当か!?俺も、俺も大好きなんだ!ライトノベル!ややあって家に1冊もなくて毎晩枕を濡らしそうな気分なんだが」


「ライトノベルなら、図書室にもあるよ?」


「よし行こうさあ行こうほら行こう」



 俺は傘音の手を握って歩き出す。


 ずっと見ていた紗江と紀伊ちゃんが急いでついてくる。



「ずるいずるいっ!私も!」


「わ、私だって蘭くんと手を繋ぎたいですよ!」


「珍しいことに、俺は腕が2本しかない種族の生まれなんだ。ごめんな」



 やんわりと誰かが損するから今はやめておこうモードでお断りしておく。しかし。



「じゃあ私セルフおんぶしてるからいいよ」



 紀伊ちゃんが意味不明なことを言い出したのでとりあえず図書室に向かった。


 今俺は図書室に向かうため、校内の廊下を歩いているのだが。すんごい目立つ。やばい。恥ずかしい。


 左手には紗江の手が。右手には傘音の手が。背中には紀伊ちゃんがしがみついている。紀伊ちゃんが1番辛そうで1番目立っている。


 通りすがる生徒たちにヒソヒソと何か言われているが紀伊ちゃんが騒がしいので聞こえない。



「紀伊ちゃん、図書室についたから。静かにな」



 紀伊ちゃんに釘を刺して図書室に入る。


 ……おお!ライトノベルがある!しかも結構な量だ!


 テンションが上がりまくっているのを頑張って抑えて。俺はライトノベルのコーナーにいた。


 傘音は返本手続きみたいのをしている。紗江は普通に本を手にとって少し読んでいる。紀伊ちゃんは手持ち無沙汰、といった風にウロウロしている。じっとできないのか。


 俺も何か借りようかな、と思ったが。家に帰ると、最愛の妹、瑞樹がいるから、暇な時間なんてないし。学校では3人もヒロインたちがいる。


 読書する時間なんてないのではなかろうか。そう思い、やめておいた。


 その後、傘音がライトノベルを数冊借りて、そのまま4人で帰った。賑やかになったなぁ。


 帰り道、結局俺は傘音とばかり盛り上がっていて、紗江と紀伊ちゃんは納得いかない、という顔をしていた。


 いつもの十字路に着くと。不意に。紀伊ちゃんが言う。



「これは、由々しき事態だよ。放っておけない事態だよ!」


「どうした。紀伊ちゃん」


「らんらんが私と紗江っちに構ってくれない!これは事件だよ!」


「そんなことないと思うけどなぁ」



 すかさず紗江が反論してくる。



「あります!傘音ちゃんとばかりイチャイチャして!ずるいです!事件です!」


「まぁ、確かに」


「と、いうわけで。らんらん。あるプロジェクトを決行するときがきたのだ!」



 紀伊ちゃんが何か言っているが、どうせロクでもないことだろう。



「明日からの3連休。それを利用して。『らんらんと日替わりデート大作戦』を決行する!」



 ババーン!とか、ドドーン!とか。そんな効果音が聞こえてきそうな。それくらい堂々としたふうに紀伊ちゃんは言い放った。


 紗江は無言で拍手している。傘音は、何の話かわからない、という風に俺を見上げている。俺は半目で紀伊ちゃんを見ている。



「デート……?」



 言外で続きを促す。



「そう。デート。“遊ぶ”、じゃない。デートさ!だって、らんらんは私たちのこと、好きなんだろう?」



 紀伊ちゃんにそう言われて、返答に窮したが、一応正直に答える。



「……まぁ。3人とも好きだよ。女の子として」


「うっ……!さすが。破壊力抜群だ」


「お前が訊いたんだろ」


「それで。らんらんは私たちのこと好きだし。私たちもらんらんのこと好きだからね。だからデートさ」


「え、俺のこと好きなの?」


「好きですよ。蘭くんのこと」



 紗江が即答したので少し取り乱す。



「お、あ、え。うん。そ、それはありがとう」


「私はこの前も言ったけど、大好きだぜ!らんらん!」



 紀伊ちゃんは男前だな。惚れちゃう。



「いやぁ、嬉しいなぁ。うん。照れるし」



 自然、順番的に、というか。傘音を見てしまう。目が合う。



「え、え?僕?」



 困っている。そりゃそうだ。今日会ったばかりだからな。



「僕は、好きとか、そういうのはよくわからないんだけど。……でも、蘭といると、胸がポカポカするよ。一緒にいたいなって、思うよ。……なんか照れるね」



 傘音は途中から顔が赤かったが、そう言ってくれた。



「そういうわけだから!明日から3日連続デート!覚悟しておいてくれ!」



 そう言って紀伊ちゃんは去っていった……。


 デートイベントかぁ。……したことないからな。デート。


 どうなることやら。


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