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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
15/105

第15話 見てはいけないもの

※書式を修正しました。


 紀伊ちゃんのパンツを覗こうとしたのが紗江にバレて開き直ったら足を踏まれた。



「いってぇっ!なんで踏むのさ!」



 ぴょんぴょん飛び跳ねながら涙目で言うと。



「罪には罰を、だよ」


「蘭くん、感心しませんよ、小学生じゃないんですから」



 紀伊ちゃんと紗江はほっぺをぷくっと膨らませている。



「いや、だって、紀伊ちゃんってスカート短いから、見てくださいってことなのかなって」



 素直に思ったことを言った。



「そんなわけないじゃんか!どんな変態さんだよ!」



 スカートの裾をぐいっと下に引っ張りながら紀伊ちゃんは言う。顔が真っ赤だ。



「そうそう。昔から思ってはいたんだけれど。女子はなんでスカートを短くするんだ?ましてや、自分から短くしておいてパンツは見ないでくれっていうのも、いかがなものかな、って思う」



 学生時代思っていたことを聞いてみた。



「いえ、なんというか。スカートが短いのは別に下着を見せたいっていう意思の表れというわけではないんですけどね」



 紗江が、自分もわからない、といった顔で言った。



「パンツを見せたいわけではないのか」


「なんで見せなきゃいけないのさ、やだよ、絶対。百歩譲って好きな人だけだよ」



 紀伊ちゃんがそう言うと、俯きながら続ける。



「らんらんは好きだけど、でも、やっぱり恥ずかしいし……」



 おおう。嬉しいねぇ。しかし、もっと責めよう。



「見られたくないモノをなぜ履くんだ?」



 問う。



「パンツはらんらんだって履くだろう!」


「なぜ見られたくないものを履いているのに、スカートを短くするんだ?」



 問う。



「それは……なんでだろう?」



 紀伊ちゃんは首を傾げる。



「……なんででしょうね?」



 紗江も同調する。えぇ。わからないでやってたのか。



「なんていうか、オシャレ……とは違うんだけどさ。マナー……っていったらむしろ逆だし。うーん、誘惑したいとか、そういうことでは決してないから、うーん」



 紀伊ちゃんが熟考し始めた。



「えーと、強いて言うなら、周りが短いから、わたしも短くしている、みたいな。……すこし違うような気もしますが、うぅー、なんでしょう」



 紗江も完全に悩み始めた。……よし。作戦成功だ。もう既に2人は俺が紀伊ちゃんのパンツを覗こうとした件を忘れている。バカめ。


 心の中でフラグを立ててみたらすぐに回収された。



「ていうか、それとこれとは関係ないじゃんか!」



 紀伊ちゃんが怒る。



「まだ、まだダメなの!」


「……いつか見せてくれるの?」



 俺は下心満載で聞き返す。



「蘭くん。最低ですよ」



 紗江に冷たくそう言われて、あちゃー、ヒロインが2人いると大変だな、と。改めて思う。


 やっぱりどっちも好きだからってわけにはいかないな。紗江を取れば紀伊ちゃんが悲しむし、逆もまたしかりだ。難しいなぁ主人公って。



「冗談、冗談。さぁ今日も1日頑張ろうっ!」



 誤魔化すように、というか誤魔化して。そそくさと教室に入る。



「……今日も来てないなぁ」



 席に着いて、隣を見て呟く。さすがに遅くないか?登場するのが。物語に関わる新キャラだというのは予想がつくのだが。



 午前の授業も順調に終わり、昼休み。


 俺はお弁当を持っているが、紗江は持っていなかった。俺の家に泊まったからな。しかしながら今朝。瑞樹は紗江にお弁当を作ろうか、と提案していた。紗江は、そこまでしてもらうわけにはいかない、といって断っていたが。


 紗江は下の階へ降りて購買のパンとかを買いに行った。


 紀伊ちゃんと2人で食べていると。ふいに。



「らんらん。らんらんは、私のこと、どう思ってるの……?」



 紀伊ちゃんがそれほど長くない前髪で目を隠しながら聞いてきた。



「ど、どうって。いい子だな……みたいな?」



 とりあえずそう答える。なにせ、ついこの前出会ったばかりだ。

 幼馴染みとは言われても、この世界での記憶は、紗江とぶつかったあの瞬間からしかないから、幼少期に紀伊ちゃんと過ごしたことなんて覚えていない。というか、知らない。



「紗江っちとは、なんか、こう。距離が縮まったというか、2人の雰囲気が変わったように見えて……。ヤキモチ、じゃないけど。……いや、ヤキモチだね。うん。私だってさ、らんらんのこと、す、好きなんだよ?」



 前髪の隙間から、上目遣いの、涙目が見えて、ドキッとする。

 恐らく今、俺の顔も紀伊ちゃんに負けず劣らず赤いだろう。不意打ち、というか。こういうのは経験がないから、苦手だ。ドキドキしてしまう。



「……いや別に紗江となんかあったわけではないけど。俺としては、みんなで、三人で仲良くしていきたいっていうのもあるし。紗江と紀伊ちゃんのこと、区別はしても差別はしてないよ」



 紀伊ちゃんの頭を撫でながら、優しく言う。



「……でも、少しくらい……特別扱いしてもらいたいよ。……女の子だもん」



 恥ずかしそうに、けど、嬉しそうに俺に撫でられている紀伊ちゃんは。小さな声でそう言った。



「特別扱いと言われてもなぁ……」



 困ったように返す。てか実際に困っている。


 なんか紀伊ちゃんが猫みたいで可愛いなぁなんて思い始めたころ、紗江が帰ってきた。



「ただいまです!あ!ずるいですよ、紀伊ちゃん!蘭くん!私にも!」



 紗江が走ってくる。



「どうどう!落ち着け……。わかったから、パンを振り回すな……」



 もう片方の手で紗江の頭も撫でてやる。両手に花状態。花というか、猫と犬、みたいな。



「ご飯食べれないんですけど……」



 そう呟いた後も、しばらく2人とも満足してくれなくて。昼休みがもう終わりそうだと告げるとやっとのことで離れてくれた。


 午後の授業もあっという間に過ぎて、いつも通り3人で帰る。


 いつも通り、とは言ったが、今日は少し。いや結構違ったかもしれない。というか全然違う。


 下駄箱で履き替えてからというもの。2人は牽制けんせいし合いながら俺の手を握っている。


 俺は両手とも女の子と手を繋いだまま校門へ向かう。無論、すごい注目を浴びた。


 その日から俺がかげで『一夫いっぷ多妻たさい王子』と呼ばれていることは、後に知ることになる。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 家に帰ると。ソファーで瑞樹が寝ていた。制服のままだし、なんだか体勢もおかしいので、“寝てしまった”、ということだろう。


 すかさずセクハラをしようと思ったが、ここですぐに瑞樹を起こすほど俺もマヌケじゃあない。むしろ今がチャンスだろう。何のチャンスかって?それはもちろん。


 瑞樹の部屋だ。未踏の地。未知の楽園。今度こそ、侵入してやるぞ。


 俺は1円玉を握りしめ、2階へ上がる。


 何故1円玉かというと、鍵穴に1円玉を入れ込む……のは無理にしたって、挟むというか、先っちょだけ入れて、くるっと回せば鍵が開くのではないかというなんとも成功率の低そうな作戦を決行するためだからである。

 やれることは全てやるのがプロフェッショナルだ。可能性をしらみ潰しに、片っ端から検証していかなければ活路は見出せない。


 階段を上りきる。別に誰かに見られているわけではないが、忍び足でキョロキョロしながら瑞樹の部屋へ。


 すると。………あれ?


 ──開いている。


 開いている、とはいっても、数センチだけなのだが。しかし少しでも開いていればあとはもう楽勝だ。


 瑞樹のやつ、ドアの鍵を閉め忘れてしまうほど眠かったのか。だがしかし俺にとっては良いことだ。


 俺はもう忍び足をやめて、むしろ早歩きで部屋へ向かう。……到着。少し開いているドア。ドアノブを握る。ドアをゆっくりと引く。


 ──お、お。


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!


 めっちゃいい匂いがする!なにこれ!あっ、ぬいぐるみがベッドに置いてある!可愛いなぁ!!


 水色とピンク、そして白を基調とした瑞樹の部屋は、いかにも。いかにもといった感じで、女の子らしい部屋であった。そしてとにかくいい匂いがする。


 香水とか、多分そういうたぐいの匂いではない。嗅いだことのないような、しかしあるような、とにかくいい匂いだ。ビニール袋に入れて持ち帰ろうかな。


 とりあえず。ベッドに飛び込む。まぁ、常識だよな。俺は前の生活してた世界では、妹がいなかったからわからなかったけど。妹がいる兄はみんな、妹の部屋に入ったらまずベッドに飛び込むよな?


 んはぁあぁぁああ!!!しゅごぃぃいい!!


 やばい、頭おかしくなってきた。でも狂っちゃうほどに凄まじい、いい匂いだ。


 おっと、ここであまりにも時間をかけていてはもったいない。もっと色々調べよう。瑞樹を知り尽くすんだッ!


 ──そうして、俺は。


 嬉々(きき)として下着をあさったり、目を輝かせてパジャマにしゃぶりついたりする……はずだったのだが。その前に。


 瑞樹の机の上の紙に。意識を全て持っていかれる。


 先ほどまで、変態として活動していたが、そういう楽しい気分では既になくなっていた。


 机の上の紙には。こう、書かれていた。



__________________________________________


『NCP進捗状況報告書』


第一被験者ファースト千葉蘭ちばらん


『意識の転移による障害は無し』


『回復に向けての改善、成長の兆しは無し』


『脚本通りにプログラムは進行中、特筆すべき異常無し』


『artificial intelligence=AI に関して』


『AI:1 異常無し』


『AI:2 異常無し』


『AI:3 調整中』


AI:3に関しては、調整が終わり次第、導入開始。予定では明日もしくは2日後。


『予定実験期間より多少の延長の可能性有り』



__________________________________________




 ……などなど。何だかよくわからないことがびっしり書かれた紙が束になっている。


 瑞樹は今、中学2年生だから、思春期特有の黒歴史創造期間についに突入したのかと思ったが。違う。


 『NCP』……?どこかで聞いたことがあるような。確か……俺がまだこの世界で目を覚ます前。以前の世界で過ごした“最後の日”。


 親が留守のときにかかってきた電話で、そんなことを言っていた気が……するような、しないような……。ダメだ、思い出せない。


 なんだか喉の奥に何かつっかえているような、拭いようのない違和感に襲われ、とりあえず紙を机に置く。


 何だか大きなことが自分の周りで起きているのではないか?第一被験者ファースト?何だそれは?何故俺の名前が?そもそもこれは俺がこの世界(別世界とは限らないが)に来たことと関係があるのか?


 頭の中がグチャグチャだ。こんがらがって絡まって。上手く考えられない。わからない、わからない。


 と、とりあえず。部屋を出よう。頭を整理し──



「お兄ちゃん?」



 ──よ、う……。え?


 動揺と混乱を抑えられないまま、振り返る。



「何してるの、お兄ちゃん?」



 瑞樹がいた。



「というか……」



 瑞樹は表情を一切変えずに。



「何を、“見た”?」



 俺は何だか恐ろしくなって、言葉が出なくて、無言で部屋を出た。いつもならすぐさま俺を気絶させにかかる瑞樹も。何故か止めはしなかったし、瑞樹の質問に答えなかった俺を問い詰めることもしなかった。


 部屋を出た途端。張り詰めていた緊張感から解き放たれたような開放感に襲われる。


 瑞樹の態度が、様子が、おかしかった。もしかして、いや、もしかしなくとも、俺は。


 見てはいけないものを見たんじゃないだろうか?


 違和感は拭えないが、一応頭の混乱は解けた。わからないことはわからない。それでいいだろう。


 とりあえず、なんとなく。耳を澄ませる。ドアに耳をつけて、瑞樹の声を聞く。


『もぅ……お兄ちゃんったら……』とか。『私の秘蔵のお兄ちゃんグッズ、見られてないよね?』とか。


 そんな可愛いことを言っていないだろうかと、思って、目を閉じて耳を澄ます。


 しかし、聞こえてきたのは。



「……色々と、早めるしかない、のかな」



 という、決して楽観的には聞こえない声音の、瑞樹の声だった。


 俺が何を目撃して。それを知った瑞樹が何を思って。そして今日を境に何がどう変わっていくのだろうか。想像もつかない。


 しかし1つだけわかったことがある。


 部屋を出るとき、瑞樹の横を横切ったときに、気がついた。


 ──部屋のいい匂いは、瑞樹本人の匂いだ。最高だ。


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