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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
14/105

第14話 胸の奥が温かくなったそうです

※書式を修正しました。


 結局。紗江は俺の部屋で、俺のベッドで寝て、俺はリビングのソファーで夜を明かす。これに落ち着いた。いや、俺は最後まで反対したけど。


 無論。俺は夜中に自分の部屋に入ろうとするのだが。なぜだろう。その度に瑞樹が出てきて腹に一発かましていくんだ。俺は足音も立てていないのによく分かるな。


 そうして、夜が明けるまでに何回挑戦しただろう。よく覚えていない。唯一分かるのは、その全てが瑞樹に阻止されたこと。……瑞樹も今日寝てないんじゃなかろうか。


 確かに全て失敗した。紗江との添い寝は夢のまた夢だったわけだ。いや、夢で添い寝できたのなら大人しく寝ておけばよかったか?……夢、の意味が違うか。


 しかし。正直に言えば、別にいいんです。添い寝できなくても、起きない紗江にえっちなイタズラができなくても。

 いや、よくないけど。百歩譲って、納得できる理由があるんです。


 そう。……寝汗。寝汗だよ。紗江が寝汗をかいてくれたなら。俺はもうベッドのシーツを洗わない。あわよくば、願わくば。ヨダレも垂らしていてほしい。それもまた枕カバーは2度と洗わない。

 そう、可能性は残っているわけだ。……何の可能性かって?決まってるだろう。夜中にハァハァすることができる可能性さ。シーツに顔を突っ込んで深呼吸するんだ。


 紗江が起きたらすぐさまベッドに飛び込もう。温もりが冷めないうちに。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 ──朝。


 俺は階段で待機していた。俺の部屋は階段を上がった所の正面にあるから、つまりは部屋の正面で待機している、ということだ。部屋のドアの前まで行くと、瑞樹になぜかバレるので、一応ここにいる。


 んぅ〜〜……と。可愛らしい声が聞こえてきた。紗江が起きたのだろう。おそらく、両手をぐぐっと伸ばしてたりするのだろう。いいなぁ、見たいなぁ。


 ……待てよ?紗江がベッドから離れてすぐにドアを開けてくるとは限らない。言うなれば、ベッドの紗江の温もりが冷めた頃に紗江が部屋から出てきてしまっては元も子もない。……今行こう!



 全力ダッシュで駆け上がり、ドアノブに手をかける。途端。2つ隣の部屋から瑞樹が出てくる。こっちに走ってくる。拳を握っている。や、殺られる。


 ……しかし。もう遅い!


 俺は勢いよくドアを開けて部屋に飛び込む。……成功だ!……まだだ!ベッドに飛び込まなければ!


 瑞樹がもうドアの近くまで来たので、俺は焦ってベッドに飛び込む。ベッドにまだ紗江がいた。それを確認していなかった。焦っていたから。


 紗江は、俺が部屋に入ってきてから、ベッドの上で俺に押し倒されるカタチになるまで。いや、そうなってもまだ。無反応だ。寝ぼけているのか、それともまだ意識が覚醒しきっていないのか。どちらでもいい。


 俺はぎゅっと。少し強すぎるくらいの力で紗江を抱きしめる。すると、やっと。紗江が。紗江の脳が目を覚ます。



「え、え、きゃあっ、ら、蘭くん!?」



 顔を真っ赤にしている。顔が近い。でも、紗江は抵抗しない。俺は紗江を抱きしめたまま起き上がる。立ち上がったわけではない。ベッドの上で座っている。


 瑞樹が部屋に入ってくる。肩を回し始めたので、俺が慌てて言う。



「……おいおい、瑞樹。お前、もしかして自分の右ストレートの威力を理解していないな?」


「あの、蘭くん、えっと、なんていうか、その、顔が近いというか……、あわわ」



 紗江はまだ目を白黒させている。


 瑞樹は歩みを止めない。俺は続ける。



「もし今。ここでお前がいつも通り俺を殴ったら、その衝撃波、あるいは余波が紗江を襲うことになるぞ?なにせ、こんなにくっついているんだ。もはや一心同体状態だぞ?お前は罪のない者にまで危害を加えるのか?それでも格闘家か!?」



 瑞樹は冷たい目のまま、俺の真ん前に立ち止まる。



「……格闘家じゃないよ。ただの変態の兄を持つ妹」



 無表情で瑞樹は言う。俺は怯んだ心を隠すように、あえて強がる。



「紗江にまで威力が届かないようなパンチじゃあ、俺は紗江から離れないぜ、効かないからな。さあ、どうする。大人しく部屋に帰るか、リビングに下りて朝食の準備をしてくれるか。二者択一だぞ!」


「……んっ、ふっ…あ、んぁ、ぅう……」



 紗江がビクンビクンし始めた。俺が喋るたびに、耳に息がかかるからだろう。そう、今、俺と紗江は向かい合って抱き合っている。

 胸がすごいことになっているだろうが、目の前にいる瑞樹が怖すぎて体に感覚がない。ちくしょう。



「さぁどうす──」



 俺が、挑発。もとい警告を続けようと口を開いた、刹那せつな


 少しずつ後ろに下がっていた俺の努力もむなしく。瞬く間に瑞樹は間合いを詰めた。


 振り上げられた瑞樹の細い腕の先。つまりは手が。手刀の形をしているのは、見えた。


 弧を描いて、瑞樹の手刀が。俺の後頭部だろうか、うなじだろうか。とにかく、頭の後ろに達する。


 視界が、意識が。大袈裟に揺らめく。……おい、これって、ド◯ゴンボールとかで見る技じゃねぇか。なんでそんなことできるんだ。


 くだらないことを考えていたが、そこで俺は思考続行不能となる。そう、気絶。


 遠くで声が聞こえた気がした。蘭くん!?と、驚きの混ざった紗江の声と。死ねばいいのにという瑞樹の冷たい声が耳に、小さく響いたような気がした。



 ──感覚的には、2度目の朝。


 俺はまた起きた。リビングのソファーにいた。起き上がると、朝食を食べている2人の美少女が目に入った。


 2人はもう制服に着替えていた。……ああ。昨日びしょ濡れになったから洗ったのか。もう乾いたというのだから、本当に日本の乾燥機能付洗濯機の技術は凄まじい。



「あ、へんた……お兄ちゃん。もうあんまり時間ないから、早く着替えてご飯食べて」



 瑞樹がこちらを見ずにそう言ったので、むくりと起き上がる。……変態って言おうとしただろ。


 変態ではない。男なら誰だって、自分のベッドに女子高生がいたら抱きつくに決まっている。……しかるべき機関に目をつけられる前にこういう発言は控えておこうかな。



「……あの、えっと。蘭くん、お、おはようござい、ます」



 紗江はこっちを見るのだが、目が合うとすぐに真っ赤になって逸らしてしまう。照れているのだろうか。


 俺は制服に着替えて朝食を頂く。2人は食べ終わったのか、お話している。


 俺は時計を見て自分の危機状態に気がつき、猛スピードでご飯を掻き込んだ。せた。



「それじゃあ行ってくるから。紗江さん、遅刻しちゃいけないから、お兄ちゃんは待たなくていいよ。行ってきまーす」


「おう、いつもご飯ありがと。今日も美味しい。そして今日も瑞樹は可愛いよ!いってらっしゃい!」


「はい、いってらっしゃい、瑞樹ちゃん。お世話になりました!」



 瑞樹が出て行くと途端に空気が変わる。俺はご飯を食べ終わり、歯を磨いているのだが、紗江は手持ち無沙汰、といった風に窓の外を見ている。


 なんか今朝を思い出して、急に恥ずかしくなる俺と、ぼーっとしているが、急に顔が真っ赤になる紗江。


 リビングには、大きな沈黙が横たわっていた。


 沈黙がくつろぎ始めた。まずい、そろそろ話しかけないと変な雰囲気のままだ。


 沈黙がお煎餅せんべいを食べながらテレビをつけようとしたので、さすがにくつろぎ過ぎだろ、と思い。うがいをしてから話しかける。



「ごめん、紗江。待たせちゃって。行こう」



 話しかける、というか、とりあえず謝りつつ、家を出よう、と促す。



「え、あ、はい」



 紗江はまだ少し顔が赤い。でも口元がニヤけている。口の両端がピクピクしていて、ニヤけるのを我慢しているようだ。全然できてないけどな。


 家を出て鍵を閉める。


 紗江と歩き出す。また沈黙がくつろぎ始める前に俺から話しだす。



「そういや、朝、瑞樹と何を話してたんだ?やけに盛り上がっていたけど」



 俺がご飯を食べていた時。2人はやたら大盛り上がりでいらした。



「あ、それはですね、ずばり。お料理の話です」


「料理?」


「はい。以前一緒にお弁当を食べたときに話したと思いますが、私、自分でお弁当を作っていて、まだまだ上達しなくてどうしようかと思っていたんですが。今朝の瑞樹ちゃんの作った朝食がすっっごく美味しかったので、色々と聞かせてもらっていたのです!」



 なんだか少し嬉しそうに紗江は話す。



「へぇ。……やっぱり瑞樹は自慢の妹だなぁ」


「はいっ、本当に。昨日も優しくしてもらいましたし、お料理も、今度うちに来たら一緒に作りましょうって言ってくれました!私、瑞樹ちゃんみたいな妹が欲しいです、ていうか、瑞樹ちゃんが欲しいです!」


「瑞樹は絶対あげないぞ!瑞樹が俺の生きがいなんだから!」


「……本当に大好きですねぇ。まぁ、また会えますし。今度また、蘭くんの家にお邪魔してもいいですか?」


「おう、もちろんだ。またいつでも来てくれ。泊まってくれても構わない」



 急に紗江が黙る。俯いているが、顔が朱に染まっているのが見える。思い出したのか、今朝のこと。そういえばなんだか言いづらくて今朝のことはまだ話題に上がらなかったな。


 なんて思っていると、ちょうど。



「あの、蘭くん。……け、今朝、起きたとき……」



 紗江が言い出した。



「ど、どうして、私のベッドの上に……あ、正確には蘭くんのベッドの上に、いたんですか……?あと、あの。……ぎゅって、その」



 まずい、夜這いしてたとか思われたら心外だ。(するつもりでいたことは内緒♡)



「いやぁ、俺もよく覚えてないんだけどさ。俺、寝てるときに歩いたりすることあるんだよね。それで、多分部屋まで寝たまま行っちゃったんだと思う」



 ……言い訳がさすがにしょぼすぎるか?もっとちゃんとしたこと言えばよかった!


 やはり、穴だらけの言い訳だったからか。紗江は。



「……寝たまま階段を上がってこれますかね……。まぁそれはそれとして。なんで、ぎゅって。……抱きしめて……」



 少しずつ顔を赤くしながら言ってきた。



「いやぁ、あれはなんていうか、うーん。……嫌、だったよね?ごめん」



 あれはさすがに言い逃れできない。なにせ、瑞樹と普通に会話していた訳だし、寝ぼけていたとは言えないだろう。だから素直に謝った。



「い、いやじゃないです!なんだかわかりませんが、胸の奥が、あったかくなるような。不思議と、恥ずかしかったけど、落ち着くような。そんな感じでした。だから、いやじゃなかったです!むしろ……」



 紗江は手をバタバタと振りながらそう言った。へぇ。胸の奥が暖かくなったんだ。どれ、見せてみなよ?……なんて言って服を脱がしたりはさすがにできないので。



「……むしろ……?」



 最後の言葉の続きを。



「……ぅれしかった、です」



 声は小さいが、俺は難聴系ラノベ主人公ではないのでしっかりと聞き取れた。そうか、嬉しかったのか。素直でよろしい。



「……そっか。まぁ今後はあんな風に急におかしなことはしないから。うん」



 なんとなく。紗江の手を握りたい衝動に駆られて、少し手を伸ばしたが。



「おおーーい、らんらぁーん!さえっちぃぃ!」



 少し先の十字路で、紀伊きいちゃんが手を振りながら大声を出したので、すぐさま引っ込めた。


 合流すると。紀伊ちゃんが。



「あれれ?どうして紗江っちもこっちの方向から来たんだ?帰るときは違うのに。んん??謎だ」



 さっそくそこに触れてくる。紀伊ちゃんにも、変な嘘をつくのはやめよう、正直に。



「ああ。昨日、紀伊ちゃんとここで別れた後、急に雨降っただろ?土砂降りの」


「うん、そうだった、そうだった」


「それでさ、とりあえずやばかったから、傘持って迎えに来た瑞樹と3人で俺の家に逃げ込んだわけだ。で、そのまま紗江がうちに泊まってった」


「ほほーう、なーるほどなるほど。それはそれはよかったで……はぁぁ!!??」



 歩くのが遅いので少し後ろにいた紀伊ちゃんが、小走りで俺たちの前に出て振り返る。



「お、お泊りしたの!?年頃の男女2人が!?」



 ……瑞樹と同じこと言ってるな。



「いやまぁ、泊まったことは否定しないけど。瑞樹もいたし。俺はリビングで寝たし」


「え、じゃあ紗江っちはどこで寝たの?」



 目が怖い目が。紗江、頼むから嘘つくなよ。



「……ら、蘭くんのベッドで」



 おぃぃぃ!!嘘つかないのはいいけれど!顔を赤らめて言うんじゃない!何かあったみたいな言い方じゃないか!まぁあったけど!!



「何かあったみたいな言い方じゃないか!」



 ほら言われた!考えてたのと同じこと言われた!


 とりあえずフォローしよう。



「いや、別にそんな。言うほどのことは起きてないし。大丈夫だって」


「じゃあ言うほどのことではないことは起きたんだね!?にゃぁああ!ずるい!」


「いやいやほんとにっ、ちょ、ひっ掻くな!わかった、今度紀伊ちゃんも泊まりにくればいいだろ?」


「……それなら許す」



 ちょっと嬉しそうに紀伊ちゃんは前を向いて歩き出す。こういうところ、紀伊ちゃん可愛いなぁと思う。言わないけど。



「……むぅ」



 紗江は納得いかないようだ。



 そうこう話しているうちに学校到着。いつも通り下駄箱で履き替えて階段へ。


 紗江は昨日パンツを覗かれたのを覚えていたのか、俺の後ろにいる。しかし俺の前には、今日は紀伊ちゃんがいた。

 紀伊ちゃん、歩くのは遅いのに階段を上るのは早いんだなぁとか思っていたが、偶然。いや、必然か。


 紀伊ちゃんのパンツがあとほんの数センチで見えそうだ。

 いやぁ、なんだかんだで、紀伊ちゃんも可愛いからな。紀伊ちゃんは金髪ショートカットで、綺麗な髪と同じくらい綺麗な金色の目をしている。


 少なくとも、紗江や瑞樹とはタイプの違う可愛さ、って感じだ。元気発剌(はつらつ)って感じの可愛さ。


 タイプが違うからといっても。パンツが見たいという欲求に変わりはない。今日は朝から良いエネルギーをもらったし、さらに幸福度を積むとしましょう。


 俺は少しかがんで、しかし頭はしっかりと斜め上を向いて。


 眼を凝らす。腕を引っ張られる。



「……蘭くん、なんで紀伊ちゃんのパンツを覗いてるんですか?」



 紀伊ちゃんがバッと振り返ると同時に階段が終わる。上りきる。



「なんでって。見たいから以外に理由なんてないけど……」



 2人に足を踏まれた。


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