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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
12/105

第12話 嵐は一級フラグ建築士

※書式を修正しました。


 おーい、と。手を振る2人に走り寄る。



「らんらーん、おはよー」



 紀伊きいちゃんはほぼ閉じた目で俺を見ながら言う。朝は弱いのだろうか、俺と同じだ。



「蘭くん!昨日も遅刻ギリギリでしたけど、今日も中々危ない時間ですよ!」



 一方、紗江さえは朝からハキハキしている。



「わるい、ちょっと遅れた」



 謝りつつ。ちょっと言い訳。



「いやぁ寝るのはそんなに遅くないんだけどな。自分では起きられないのに目覚まし時計も無いし。いつも瑞樹みずき……妹に起こされてるんだ」



 歩きながら言うと。



「ああ。瑞樹っち、今何歳だっけ?」



 そう紀伊ちゃんに尋ねられる。……そうか。紀伊ちゃんは俺の幼馴染み、ということだから。無論瑞樹を知っているのか。



「14歳。中2だよ。大きくなっちゃってさぁ。もう一緒にお風呂入ってくれないんだよなぁ」


「当たり前でしょ」


「本当に可愛いんだよ。瑞樹。妹じゃなかったらなぁって思うときもあるんだけど、でもやっぱり妹じゃなきゃやだなぁ、とも思う」


「おぅ。瑞樹っちが心配だぜ」



 紀伊ちゃんは的確なところをついてくるな。おかげで何か言うこちら側が気持ちいい。


 なるほどぉ、と。唐突に紗江が。



「蘭くんは、妹さんが大好きなんですね」



 と、言ったので。



「ああ。妹、大好きだ!妹ならもうなんでもいい!」



 とか言ってみると。案の定紗江はアホだった。



「ほほう、小野妹子おののいもこちゃんとか、ですね!」


「小野妹子は妹じゃねぇよ!てか男だし!」


「それはともかくらんらん。らんらんは妹なら誰でもいいのかい?ひどいなぁ」


「冗談だよ。俺が大好きなのは妹じゃなくて、瑞樹だからな」


「らんらん、問題点がシフトしただけだよそれ。やばい奴のままだよ」



 いやぁ、それにしても、だ。友達っていいなぁ。まさか俺が、登校というある種の義務的行動の最中。友達と言える子たちと、とりとめもないお話ができるなんて考えてもみなかった。



 ……あえて言及していなかった点に今、自ら。踏み込むけれど。


 友達ができた、とか。自分はラノベ主人公だから、周りの女子に好かれてしまう、とか。当たり前のように言ったり考えたりしていましたが。


 僕。20歳なんですよね。はい。


 20歳の大人が女子高生と友達になれた、とか。20歳の大人が初対面で女子高生のスカートの中に頭を突っ込んだ、とか。20歳の大人が女子中生のおっぱいを揉んだ、とか。


 ……わぁお。事と次第によっては、各方面のしかるべき機関の偉い人たちに注意勧告及び正当な制裁を受けてしまう。それはまずい。



「まぁ瑞樹が可愛いという話で盛り上がるのは後にして。そうだなぁ、俺1人で遅れるならばまだしも。2人を待たせることになるのは忸怩じくじたる思いにならざるを得ないな、俺なりに何か改善に向けて対処しなくちゃあならないな」


「瑞樹っちが可愛いという話で盛り上がってなどいなかったけど。確かに、朝起きられないのは将来的にも良くないね。如何いかんともしがたいとは言ってられない事態だね」


「しかし紀伊ちゃん。妹に起こしてもらえる、なんて。そんな夢みたいなこと、やめるには惜しすぎやしないだろうか?大いなるメリットと喜びを捨ててまで瑞樹との朝一あさいちコミュニケーションをやめる理由が果たしてあるだろうか?いやない!!」


「もうらんらんは救えないかもしれない」


「まぁ妹さんと仲が良いのは素晴らしいですし、これからも続けて欲しいですけれど、蘭くん。さすがに1人で起きられないまま大人になると、恥ずかしいですよ?」



 紗江にそう言われて。思わず目をそらす。いやだって、中身大人だし。しかもその大人になってからの生活状態が尾を引いて、この世界でも朝起きられないなんてこと、言えたものじゃない。



「せ、せやな。あははは」



 上手く(?)誤魔化して話を続ける。



「そういや、さ。2組に、まだ来てない子いるよな」



 俺がそう言うと、思いついたように。握りこぶしをぽんっと手のひらに置いて、紗江が言う。



「ああ、蘭くんの右隣、5列目の1番後ろの席、ですよね?」


「そうそう」



 すると紀伊ちゃんが。



「女の子かなぁ、男の子かなぁ。女の子だったらいいなぁ」



 とか言って。



「……子供ができた、みたいな言い方ですね」



 みたいな返しを紗江がして。



「今日確認すればいいだろ。俺はな〜。可愛い女の子がいいなぁ〜」



 俺が素直にそう言って。予想通り。



「蘭くんっ!不潔です!」


「らんらんはこんなに可愛い女の子2人に挟まれてるのにまだ満足できないのかい?」



 2人がつっこんでくる。……不潔ですってなんだよ。


 ……そんなこんなで。もう学校が目と鼻の先。初めてこの世界に来た日、といっても2日前だけれど。あの日、俺は紗江を抱えて登校したわけだが。そのときは感じたんだ、遠いなって。まぁまぁ距離あるよなぁって。


 でも、その日の帰り道も、昨日の行き帰りも。時間は驚くほど早く過ぎ去って。光陰矢の如し、とまでいかないけど、それにしても体感時間が短く感じる。

心の満足度とかで変動するのだろうか、体感時間って。


 “うそだよ、2人だけでも俺にはもったいないくらいだって。”みたいなこと言って2人に謝りながら校門を通る。下駄箱で履き替えて、階段を上る。


 上を見て上っていると、紀伊ちゃんに。



「……らんらん。紗江っちのパンツ見てるでしょ」



 ジト目で指摘されて。油性ペンくらいの濃さで顔に“図星”と書かれている俺は。



「まさか、証拠もないのに何を言うかね、証拠を出したまえ」



 と、絶対犯人しか言わない台詞せりふを言い放ち。顔を赤らめて、スカートの後ろを抑えながら振り返る紗江に。



「見てないよ。てか見えないし。純白のパンツなんて見るわけないじゃないか。言いがかりはやめてくれよ?」



 と、弁解してみたら。



「ほっ……よかった……見てないんですね、安心しました」



 なんて紗江が言うもんだから。すかさず紀伊ちゃんが。



「そんなわけないでしょ!純白とか言ってるし、嘘だって見え見えだし」



 真実を告げる。えっ!?とまた真っ赤な顔で振り返った紗江が。



「う、嘘ついたんですか!?」



 って言うので、もちろん俺は。



「いや、見え見えの嘘をついた俺よりも。パンツ見え見えだった紗江が悪い」



 機転を利かせて言い返す。



「あ、確かに……。す、すみませんでした」



 紗江はバカだなぁと思いながら階段を上り終わると。



「らんらぁ〜ん……!いつからこんな悪い子になったのかなぁ〜!」



 俺のほっぺをつねりながらの紀伊ちゃんに怒られた。



「そんなわけで、別に紗江っちのパンツは見え見えじゃなかったし、頭を低くして目を凝らしていたらんらんが悪いから、これ。騙されないで」



 ついでに紗江にフォローもいれつつ。紀伊ちゃんは紗江の手を握る。……おお。いいな、とは思ったが。


 女子って、別に普通に手を繋いだりするんだよな。いや全然それでもいいけどさ、なんていうか。うん。

 百合豚ゆりぶた(女性同士の恋愛を好む男。みたいな感じ)である俺としては、手を握るならついでに頰も赤らめてほしい、なんて思うわけです。



 ……で。教室に入る。席に着くと、少ししてからチャイムが鳴った。そこで気がつく。



「なぁ、今日も来てないよ、俺の隣」



 紗江と紀伊ちゃんに言う。



「本当ですね、どうしたんでしょう」


「まぁいいでしょ」



 それぞれそんな反応。もしかして、俺ほど興味ないのかな?


 いや、俺はさ。自分がラノベ主人公だと自覚、というより気持ち的には“自負”なんだけど、そう分かっているから。分かるんだ。


 俺の隣の子は、新しいキャラクター。新しいヒロイン。よしんば男だったとしても、ストーリー的には俺の邪魔をする嫌なやつとかじゃあ、ないだろう。


 ていうかそうであってほしい。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 結局、その日、途中からその子が来たりすることもなく。普通に授業が全部終了。気づけば放課後。


 ……なんかさ。ラノベとか漫画とかの学校って、授業終わるの早いよね。漫画なら一コマ、ラノベなら一行いちぎょう


 いや、それはページ数とか文字数の問題だとはわかっているけれど、羨ましいよね。



 部活や委員会に属しているわけでもないので普通に帰る。もちろん3人で。


 帰り道もとりとめのない会話をして、いつも通り十字路に着くと。



「それじゃあ、今日は用事あるから、お先に失礼するぜぇっ」



 と言って紀伊ちゃんが走り去っていった。紗江と2人きりになると。



「あ、あの、蘭くん。じゃ、私も──」



 紗江が言いかけたところで。



「お兄ちゃーん!!」



 我が最高にして最強にして最愛の妹。瑞樹が駆けてくる。


 両手には剣……じゃなくて、傘、だろうか。そうだな。傘を持っている。


 はぁ、はぁ。と。これまた疲れたときも可愛い瑞樹は。



「お兄ちゃん、……今日、雨降るんだって。しかも急に。でっかい雨雲が猛スピードで来てるから、早く帰ろう!」



 と、教えてくれた。可愛い。



「えっ雨?」



 見上げる。


 ──あ。すげぇ。


 どす黒い雲が、見上げた視界を覆い尽くしている。随分と雲が低く感じる。確かに、明らかにやばそうな雲が真上で。いくぞ?いくぞ?降らすぞ?と言っているように見えたので。



「ああ、急ごう。……あ、紗江、傘あるか?」


「いえ、持ってないですけど、大丈夫──」



 またまた紗江は言いかけたところで。


 ──ピシャァーーン!!!ゴロゴロ……


 という雷の音に掻き消された。



「きゃあっ!!」


「ぎゃぁー!」


「うをぉっ」



 きゃあっ!!という可愛い悲鳴を上げたのは可愛い瑞樹。頭を抱えてしゃがんでいる。可愛い。


 ぎゃぁー!と叫んで俺に抱きついてきたのが紗江。胸が凄いことになっている。ありがとう。ありがとう。


 うをぉっ。……うん、なんか、ダサいね、俺。


 とかやってる間に。途端。叩きつけるような土砂降りの雨が俺ら3人を襲う。



「か、傘っ!」



 と言って、片方の傘を差し、もう片方を俺に渡してくれたのは。何を隠そう、可愛いの到達点、瑞樹。


 俺はもちろん受け取った傘を、紗江の真上で広げる。ちょっと男らしいことやってやったぜ、なんて思っていたら。


 ビュオオオーーーン!というとんでもない勢いの横殴りの風が吹き抜けて。



「ぎゃぁぁぁあ!!」


「きゃっ!」


「ぉうふっ!」



 紗江がぎゃぁぁぁあと叫びながら転ぶ。


 可愛いのその先を歩く瑞樹はきゃっ、っと言って転びそうになるが瑞樹が怪我でもしたら一大事なので俺が抱きしめる。抱きしめる必要は別になかったけど、抱きしめる。


 ぉうふっ。俺です。もうちょっとかっこいい感じのリアクションをしたい。


 当然、傘は吹っ飛ばされて。ぎゃあー、とか叫びながら3人でとりあえず俺の家まで走った。


 玄関に倒れこむ3人。……いかん!紗江と瑞樹の制服が透けている!


 今のが、声に出てしまったようで、瑞樹に腹を殴られた。あぁん、怒る瑞樹もまた一興!



 ……この展開はもう、決まりだろう。俺はすっと立ち上がり。キメ顔で。



「紗江。雨が落ち着くまで家にいろよ。寒いだろうし、服貸すから──」



 ──シャワー。浴びてこいよ。



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