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73話

鏡から、メルトと一緒に男が鏡世界に入ってきた。部屋には重い空気が流れている。


「どうしたんですか?…」


「ここは?」


鏡子がメルトを見ると、安心したような表情になったが、すぐ後ろから来た男をみて一瞬で表情を一変させた。男は若く血色の良くない真っ白な顔だ。服装は、紳士服にマントという極普通の商人の恰好だが、その場にいる全員が男の正体が理解できた。魔族だ。

男から発する気配が一切なく、感じるのは冷たさのみ。鏡子は立ち上がり、メルトに叫ぶ。


「メルトっ!その男から離れなさい!」


「な、なんですか!いきなり!鏡子ちゃん!失礼ですよ!…すいません。フォカロルさん…」


「いえ、慣れていますから大丈夫ですよ。どうやら、私のことが分かったようですね。早く、同族を治療して去ります」


「そ、そんな!ゆっくりしてください!あ!えーと…この人です!」


メルトは、机の上で倒れているアムドゥスギアスに近寄る。メルトは、アムドゥスギアスを抱え仰向けに寝かせる。フォカロルはゆっくりと、うつぶせになったアムドゥスギアスに近寄ろうとするが、それはさせないといったように、鏡子が前に出てくる。


「何をする気なの」


「治療ですよ。メルトちゃんに頼まれましてね」


両手をあげ、肩をすくめるお道化たフォカロルに、鏡子は切れ気味に声をあらがえる。


「ふざけてるのっ!私たちの幸せを…いきなりつぶしたくせに!悪魔のくせに!」


鏡子はフォカロルに感情のまま殴りかかる。勝てるわけがない。鏡子も理解しているが、感情を抑えることができない。しかし、フォカロルはよけようとせず、そのまま鏡子の拳を受ける。無抵抗のまま。


「くそくそくそ!!!!」


「………」


「何してるの!鏡子ちゃん!」


すぐに、メルトが鏡子の腕をつかんで押さえつける。それでも、鏡子は殴ろうと暴れる。

すると、フォカロルは鏡子に近づくとそっと頭を下げた。


「なによ…」


「申し訳ない。魔族がなにかやらかしたのでしょう。」


「なによ!謝ればいいと思ってんの!絶対に許さない!!」


「わかっています。許されるとは思っていない。しかし、これだけは理解してほしいことがある」


まっすぐ、鏡子の目をみるフォカロルに鏡子も落ち着いてきたようだ。


「なによ……」


「今回の問題を起こしたのは、地獄の魔族だ。我々、魔界の魔族は人族に危害を加えていない。魔族だからと言って一緒にしないでもらいたい」


「そんなこと知らないわ!私に関係あると?」


「いえ、なにも関係ないですね。変なことを言ってすいません。もう一つ、もうすぐ、地獄と魔界で戦争が起こります。」


「なっ!同族同士でしょ!」


「そうですね。ですが、それは人族もそうではないでしょうか」


「そ、それは…」


「治療をさせてください」


「……」


フォカロルは鏡子を避けると、仰向けに寝かされたアムドゥスギアスに近寄る。そっと、腕をまくりアムドゥスギアスのフードを外し顔を確認する。


「なっ!アムドゥスギアス…これは…」


「どうかしましたか?…お知り合いでしたか?」


フォカロルの驚いた顔に、メルトが声をかける。フォカロルは優しい笑みを作りメルトに微笑む


「そうでしたが、治りそうです。少し離れていてください」


アムドゥスギアスの角のそっと触れると、フォカロルの腕から青いオーラが出て角から順にアムドゥスギアスを包み込む。全身が包まれると、徐々に青が霧散していく。

よく見れば血は止まり、顔色もよくなっていた。


「おわりました。この子はどうするので?」


「そうですね…ハジメ様が居ないと…」


「そうですか…では、私はこれで…」


フォカロルは入ってきた鏡に触れるが、先ほどのように戻ることができなかった。


「だめよ…もう少し聞かせなさい…戦争について」


「ふふふ。では、まずここを片しませんか?」


「そうね…」


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