大好きだよ
いつもならお日さまが現れて、みんなを明るく照らしてくれる。けれども今日はお日さまがいないから、とても寒くなっていた。
お空は暗くて、元気がない。黒い雲が泣きそうで、私は心配になる。
「もうすぐ雨が降るんじゃない?」
みっちゃんが言った。
「そうだね」
私は返事をした。
お空から小さな粒が見えてきた。二人で大きな木のかげに隠れる。そこでしばらく待つことにした。
けれどもザアザアという雨の音は聞こえない。みっちゃんは両目をぱちくりさせていた。
お空からやってきたのは、綿のように舞う白い雪だった。
冷たい風の中で遊ぶ、ちいさなちいさな妖精さんたちだ。そういえば、おじいちゃんとお別れした日も舞っていた。
「こっちにおいで」
木のかげから出て、私はそっと手を伸ばす。ひとり、ふたりと妖精さんは乗っかってくれる。けれどすぐに消えてしまう。
「雪がてのひらに残るはずないでしょ」
みっちゃんも木のかげから出てきた。私は聞きかえす。
「どうして?」
「人の手は温かすぎるの」
本当?
私はみっちゃんの手を握ってみた。なるほど、温かい。
みっちゃんは、ヒャッと言ってとびのいた。
「かなちゃんの手はすごく冷たい! まるで雪の妖精だよ!」
「雪の妖精? どうやったらなれるの?」
「知らないよ!」
ちょっとがっかり。私はため息を吐く。
すると白いもやもやが生まれた。これは妖精さんのお友達かな?
「いっしょにお話をしようよ!」
私はさそってみた。けれど、もやもやは逃げていく。つかもうとしても、すりぬける。ついには消えてしまった。
「かなちゃん、何しているの?」
「妖精さんとお話をしたいの」
「なんで?」
「おじいちゃんをさがしているの」
おじいちゃんは優しかった。いつでも笑顔だった。お誕生日には、ぬいぐるみをプレゼントしてくれたの。
ある日、お父さんから黒いお洋服を着るように言われた。お別れをするためだからって。
「きっと妖精さんもおじいちゃんのことが大好きで、連れていっちゃったの。だから、妖精さんに会ったらいつも聞くの。『おじいちゃんはどこにいますか?』って」
でも教えてくれなかった。私はなんだかくやしくて、ぬいぐるみに向かって泣いた日もあった。
「そんな時、お母さんから『もう泣かないで』と言われたの。なんで? て聞いたら、おじいちゃんは幸せだからって」
私が悲しんだら、おじいちゃんは妖精さんと楽しく遊べなくなっちゃうんだって。
みっちゃんは何も言わなかった。私の手を握ってくれる。温かくて。熱いくらいだ。
「……泣いてもいいよ」
みっちゃんは声をふるわせていた。とても弱々しい声だった。でも、ちゃんと聞こえた。『泣かないで』というお母さんの言葉とぶつかるようで。私の胸が痛くなる。
「かなちゃんのおじいちゃんは本当に幸せだよ。だって大好きな、かなちゃんの心の中で、いつまでも生きていられるから」
みっちゃんは何を言っているのか時々分からなくなる。おじいちゃんとはもう会えない。なのに、私の心に生き続けるってどういうことだろう?
「おじいちゃんはね、きっとかなちゃんの事が大好きだよ」
あたりは、冷たくてきれいな白に染まっていく。
「ありがとう」
よくわからないけど、涙があふれそうになる。
「なにが?」
みっちゃんの返事はそっけない。でも温かい声だった。
今日の雪は、お日さまが現れたら消えてしまうだろう。それでも、きっと私達の心で生き続ける。
みっちゃん、本当にありがとう。