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太陽が真上にある頃、建物から建物へとレイジは跳び移っていた。
行き先はメルヴィルの目玉観光地であり、都市の重要施設でもある場所だった。
その途中、あまり人が住んでいない旧市街を通っていると、男の悲鳴が聞こえた。その場で方向転換をしてレイジは声がある方へと跳ぶ。声が聞こえた方には森林公園があった。
建物から地面に降り立つと今度は地面を蹴る。回りの風景がどんどん流れていった。
あっという間にレイジは森林公園にたどり着いた。辺りを警戒しながら公園の中を進んでいくと、制服を着た警察官がいた。
あの警官がさっきの悲鳴をあげた人物なのだろうかと思いつつ、更に近づくと、警官の足下に何かが転がっている。
ぼろぼろな服を着た痩せこけた人間のようなものだったが、その姿を見てレイジはある重大なことに気づいた。それは、警官の足下に倒れている男に厚みが無いことだった。厚みと言っても胸板が薄いなどということではなく、人間が誰しも持っている骨や筋肉が無かった。
簡単にいうと、洋服を着た人間の皮のようなものが転がっていた。
(―――っ!?あんなの人間が出来ることじゃない!!)
警戒のレベルを最大にして、警官にゆっくりと近づく。そして、間合いに入った瞬間に十字架を手に持って一気に距離を詰める。
「顕現せよ《退魔の剣》!!」
銀の剣を強く握り降り下ろす。
生身の人間が受ければ肉片へと変わるその斬撃は警官の男を切り裂かなかった。いや、切り裂けなかった。
「くっ、硬い!」
警官の皮膚が裂け、その下から人のものではない、見覚えのある黒い表皮が姿を覗かせた。
間違いない。悪魔である。
悪魔の方も襲われたのに気づいたのか、唸り声をあげた。真っ赤な瞳を輝かせながら悪魔は襲い掛かってきた。
人間のよりも二回りほど大きな腕が降り下ろされるが、レイジは剣でそれをいなし、斬り上げる。
狙うは悪魔の首。人間を遥かにしのぐ回復力を持つ悪魔を倒すには首を切り落とすか、体のどこかにある核を破壊するしかない。
しかし、この悪魔はよほど硬いらしく、浅い傷しかつけることが出来ない。
(この硬さ的にレベル2ってところか)
肩を、足を、腕を。一撃でももらえば危険な攻撃を紙一重でいなしながら、レベルは悪魔の強度を測っていく。
悪魔の強さは五段階に評価され、レベル1なら一個小隊が出動。レベル2は中隊が出動。レベル3は都市軍が全出動。レベル4と5は天災クラスで、最悪の場合には都市を捨ててでも逃げるしかない。過去にレイジの故郷を襲ったのはレベル5の悪魔と判断されている。
昨日、都市に侵入してレイジに倒された悪魔のレベルは1。それよりも遥かに強いが、レイジにはまだ余裕があった。
(レベル2だったら、まだ、どうにかなる。斬れないなら力を込めるだけだ)
後ろに跳んで、剣を握る手に更に力を込める。
悪魔を退治するための力″魔力″上乗せした斬撃は人間の姿をした悪魔の右腕を切り落とした。
「ギャアアアアアッ!?」
片腕を失った悪魔は悲鳴をあげると、口の中から炎を吐いた。
「くっ!!」
レイジは魔力の壁を張って火炎攻撃を防ぐ。皮膚が焼けるように熱いが、しばらくすると、炎は勢いを失い鎮火した。
しかし、レイジの目の前に悪魔の姿はなかった。
「くそ、逃げられたか」