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それは都市の人気の少ない路地から辺りの様子を伺っていた。まだ太陽は地平線に沈んでいないが、それが活動するには十分な時間帯だ。
活動を始めて一刻も経たないうちに食事を済ませることもできたが足りない。まだ足りない。もっと必要だ。血が、肉が、人間が。
「そんなに殺気丸出しだとすぐ見つかるぞクソ悪魔」
声は後ろから聞こえた。悪魔が振り返ると、そこには長髪でロングコートを羽織った男が立っていた。何よりも特徴的だったのは、男の右目にされた革製の眼帯だった。
「昨日倒したばっかりなのに、また湧いてくるとはいい度胸じゃねぇか」
やれやれといった様子で悪魔に暴言を吐く男の腕には銀の十字架が握られていた。
その事に気づいた悪魔は低い唸り声をあげて飛び退いた。
「こちとら二日酔いなのにお仕事してんだ。手をわずらわせないでくれよ」
男の凄まじい殺気を感じた悪魔はすぐさま戦闘状態に入り、一瞬で男との距離を詰める。
「顕現せよ《滅却の銃》」
男の言葉に十字架が反応して現れた一丁の黒い小銃を男は悪魔に向け、連続して引き金を引く。
「ガアッ!?」
放たれた弾丸はひとつ残らず悪魔の頭部に命中し、悪魔は短い悲鳴を上げた。通常の弾であればここまでのダメージは与えられないが、黒い小銃に装填されているのは対悪魔用の銀の弾丸である。
悪魔もその事に気付いたのだろう。しかし、回避しようとしても現在いる場所があまり広くない路地なので、思うように動けない。
「観念しな。っても、わかんないか。まぁいいや」
男は目の前の悪魔に止めを指すために引き金を引く。
しかし、銃弾は放たれなかった。男が怪訝な顔をして引き金を引くが弾が出ない。
「ちっ、弾詰まりか。最近手入れしてなかったせいだなこれ」
悪魔はそれを逃げる好機と考え、地面を蹴って民家の屋根に飛び乗った。
「おいこら!待ちやがれクソ悪魔!!」
下から男の怒号が聞こえるが、悪魔はそれを無視しながら太陽が完全に沈んだ都市の夜道に消えていった。
「クソ。逃げられちまった」
一人取り残された男は髪を掻きながら地面に座り込んだ。
本来の自分だったらあれくらいの悪魔に逃げられるようなヘマはしないのにと男は思った。
「何でだ?昨日は行きつけの酒場で酒飲んで朝まで女の子と遊んで二日酔いになったってだけのに」
決して自分に非があると考えないこの男はしばらく不調の原因を探したが、結果的に悪魔の何かしらの能力では?ということに落ち着いた。
そして、路地を後にして仲間の通う学校に向かうことにした。