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  ある街が燃えていた。

 ボウボウと燃え盛る火は勢いを止めることなく建物を燃やす。黒煙が上がり、生き物が燃えるような臭いが漂う。

 住み慣れた家が形を失って炭になる光景が視界の端に写ったが、幼子は手を引っ張られていたので、止まることなくその場を通り過ぎた。

  都市民の悲鳴が入り交じる中を進むと、商売のために都市から都市へと渡り歩くキャラバンのバスや都市が所有する都市バスにこれでもかと大勢の人が乗り込んでいた。明らかに定員オーバーだ。

  皆、我先にとバスに乗ろうとしている。中には乗っている人間を力強くで降ろそうとしている者さえいる始末だった。

  そんな混乱の中にある一台のバスに幼子は無理矢理乗せられた。

  幼子の手を引っ張っていた男は無事に幼子を乗せるその場を去ろうとした。 しかし、その袖を涙をポロポロと溢しながらバスの中から手を出している幼子が離すまいと力強く掴んでいた。

  どうしたものかと悩んだあと、男は優しい手つきで幼子の頭を撫でた。


「いつか君が大きくなったらもう一度会えるさ。だから今は我慢してくれ。きっとまたいつか災いが、災禍の種が人々を苦しめる時が来る。そしてその時、誰でもない君が人類の希望となるんだ。だから、今は泣かないでおくれ」


  幼子は連れの男が言っていることの意味がよく分からなかったが、泣いてはいけないことだけは分かった。なので、必死に嗚咽を堪えながら握っていた連れの袖を放した。


「いい子だ。君はきっと素晴らしい***になれる。私のような***に」


  周りの声で肝心な所が聞こえなかったのだが、連れの男はそれだけ言うと幼子の頭から手を放し、身を翻すと断続的に破壊音が響く都市中心へと走って行った。

  バスの中から小さくなっていく都市を見ていた。バスの中は雰囲気が重く、嗚咽や子供の泣き声が聞こえ、絶望の渦が出来上がっていたので、外に目を向けていた。

  ついさっきまで自分がいた都市の上空で力の限り暴れている規格外の巨大な悪魔の姿。幼子はそれを睨み付けた。






 ◆






  どうして、またあの時のことを思い出したのだろうか。既に失われてしまった故郷での最後の記憶を。


「多分、悪魔を昨日見たせいかなぁ」


  朝日が部屋に射し込み、鳥のさえずりが聞こえるベッドの上で少年は呟いた。

  昨日現れた悪魔を倒した後に色々と処理をしてから部屋に戻ってきたので、疲れが溜まっていて久々にぐっすりと眠れた。

  重い目蓋を擦り、窓を開けて朝の稽古の用意に取りかかる。

  着替えが完了すると、少年は一人暮らしをしている借家を後にした。



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