13
視界に映る建物や木々を置き去りにするスピードでレイジは走っていた。
ラウルの言葉を聞いた瞬間、何だか嫌な予感がした。こういう時のレイジの嫌な直感は恐ろしいくらい当たる。
あの夜もそうだった。都市が火に包まれたあの時もレイジは子供ながらに嫌な予感がしていたのだ。
いてもたってもいられなくて、こうして自分が下宿している店へと向かった。
「何も起きてくれるなよ……」
あっという間に見慣れた総菜屋に辿り着いた。
この店は営業時間がきっちり決まっているというわけではない。時間的に店が閉まっていてもおかしくないが、店に一つも明かりがついていないというのは不自然だった。
警戒しながら慎重にドアノブに手を置き、一気に開け放つ。鍵はかかっていなかった。
「誰かいますか……」
暗い店内には人影がなかった。聞こえるのは流し台に水滴が落ちる音だけ。
「おばさん、リナリィ。居たら返事してください」
もう一度呼び掛けるが、返事は帰ってこなかった。
それが余計に不気味で、首にかけていた十字架を手で握った。壁にかけてある振り子時計の時を刻む音だけが聞こえた。
この近辺に悪魔が潜伏している以上二人の安否が心配だ。
とりあえず店を出て近くを捜索しようかと思っていた矢先、レイジの目の前に突如、何かが落下してきた。
ダンッッ!!!!
赤黒い体躯に鋭く生えた牙、対なる角を持った悪魔がそこにいた。
昼間に見たときよりも、一回りも大きく成長していたそれは、レイジのよく知った少女を脇に抱えていた。
「顕現せよ《退魔の剣》!!」
手に握られた十字架が光に包まれ、銀の剣へと姿を変える。
「リナリィを離せ悪魔。さもないと―――――僕はお前を殺す」