12
夜。日が沈み、悪魔たちが活発に動き始める時間になったが、レイジは都市内部に潜入した悪魔を見つけることが出来なかった。そして、ラウルが自前の力を使って悪魔を捜索する時刻になった頃。
「お母さん、遅い」
店番としてレジにいたリナリィは仁王立ちをしていた。
どんなに遅くても夕方くらいには帰ってくると言っていたのにまだ帰ってきていないのだ。
「どうしよう。流石にもう、お客さんは来ないだろうからお店、閉めようかな?」
今日の業務を早めに切り上げて、母と幼なじみの分の夕飯を作ろうかなと考えていると、カランコロンと入口に取り付けられたベルが鳴った。
「あっ、いらっしゃいませ―――って、お母さんか」
リナリィの視線の先にいたのは、いつも通りの見慣れた母の姿だった。
「ただいま」
「まったく、遅いよもう。心配したんだからね」
「ごめんね」
「今から夕飯の準備するから今日はもう、お店は閉めようよ」
そう言ってリナリィが外に出してあった看板を中に入れて、ドアノブにかかったプレートを『open』から『close』に代えたとき、
ーーーー店内の明かりが消えた。
同時刻。レイジたちは高層ビルの屋上にいた。
「よし、そろそろ始めるカ」
「どーでもいいけど早くしてくれ。軍の連中が慌ただしく働いてるぞ。早く見つけろってガナリアス将軍がお怒りだ。おー恐いね。で、どうだ?見つかったか、例の悪魔」
「おイ。お前わざとだロ!?わざと集中出来ないようにべらべら喋ってるだロ!!」
「二人とも、ふざけてないで真面目にしてください。一日で50人近く喰われてます」
いつも通りのジルとラウルの絡みにイラつき気味に口を挟むレイジ。
言われた二人は「さーて、仕事でもするか」といった様子で周囲を見渡す。
「じゃあ、始めるゾ」
ラウルはポケットから銀の十字架を取り出した。
「顕現せよ《鎧硬の双牙》」
光輝いた十字架はラウルの両腕を包むとその姿を手甲へと変えた。
そして、変化はそれだけではない。めきめき。骨や筋肉が軋む音が響き、膨れ上がった筋肉に耐えきれずに上着が裂ける。破けた服の下からは肌色の肌ではなく、赤黒い剛毛が生えていた。口は大きく広がり、鋭い牙が生え揃った。
全ての変化が終わったとき、そこにいたのは一匹の人狼だった。
「いつみてもおっかないな。犬コロ」
「ふっ、何とでも言エ」
どうしてこのような姿になるのか、詳しい理由はラウル自身も分かっていない。たが、何となく思う。悪魔を見ると全身の血が沸騰するように熱くなる。悪魔に対して特別な恨みや憎しみを持っていないのに視界が燃えるように熱を持つ。
これは本能なのだと感じた。自分の先祖か何かから受け継がれてきた獣の血がそうさせるのだと。
「よし、行くゾ」
本能が赴くままに臭いを嗅ぐ。人に紛れた悪魔をかぎ分けるために。
屋根から屋根へと飛び移り、軽快に走る。レイジとジルも少し遅れながら後に続く。
数十分ほど捜索を続けた頃、ラウルの動きが止まった。
「……見つけタ」
「どこですか」
レイジが懐から都市の地図を引っ張り出す。悪魔との戦闘時に避難誘導をしやすくするために区画整理し、番号が振ってある。
「この先の東区、31、住宅地の外れだ」
「東区の31?おい、それってレイジん家の近くじゃ―――ってあれ?」
ジルが振り向いたとき、すでにレイジはいなかった。
「なんだあいつ?」