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「なるほど、人間に擬態する悪魔か」
悪魔に逃げられたあと、レイジはジルの住んでいるバーを訪ねていた。
「はい。それに、レベルは2でした」
「厄介この上ないな」
グラスに水を注ぎながらジルは答えた。
レイジはもらった水を飲み干すと、自分より戦闘経験の多い先輩に質問した。
「ジルさんは何か知ってますか?人に擬態する悪魔について」
グラスに口をあてながらジルは答えた。
「いや。人に擬態っていうのは知らないな。俺が知ってるのは回りの景色に同化する悪魔だ。全然参考にならないがな」
「そうですか。ありがとうございました。それじゃあ、僕は塔の方に行ってみます」
レイジはイスから立ち上がると、扉のノブを握った。
「あぁ、わかった。ただ、悪魔の方を捜すのは夜になるまで待て。日が沈む前に奴らを捜すのは骨が折れるからな」
「はい。わかりました」
バタンとドアが閉まった。
その頃、こっそり家を出た子供が消えた。
「リナリィ!ちょっとお母さん、配達に行ってくるから店番よろしく頼んだよ!!」
「お母さん!今は外出を控えるようにって指示がでてるよ」
レイジが暮らす二階建ての建物は一階が惣菜屋になっていて、リナリィはこの店の一人娘である。
メルヴィル気鋭軍が出した警報には悪魔が都市内に潜伏している恐れがあるので、都市住民は外出を控えるようにと言われていた。
当然、リナリィは働き者の母でも今日は店を休むだろうと思っていたが、隣の地区に住むお得意様のおじいさんに弁当を届けに行くと言い始めたのだ。
「危ないからやめた方がいいよ。お客さんには連絡いれとくから」
電話をかけようとするリナリィに対して母が指を振る。
「ダメだよリナリィ。フロイトさんは最近、病気を再発して寝たきりなんだから。軍の連中から外出は控えるように言われてるだけで、禁止はされていないだろ?」
「確かにそうだけど、でも……」
屁理屈に戸惑う娘に向かって、母は言う。
「それに、惣菜屋がお腹空いてる人にお弁当を届けるのは義務、いや使命みたいなもんじゃないのさ」
ニコッと笑う親にとうとう折れたのか、リナリィは頷いた。
「そうだね、わかった。でも、あまり無茶しないでよね?」
「ありがとう。大好きだよリナリィ!それじゃあ、行ってくるから店番よろしく頼んだよ」
いってきます。と言って店を出ていった母を見送りながら、リナリィはお腹を空かせて帰ってくる二階の住人のためにご飯を作ってあげようと思った。
どこかで、子供に声をかけた男性が消えた。