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深夜の都市内に非常事態を知らせるサイレンの音が鳴り響いていた。あちこちから悲鳴や困惑する声がする中、何かが都市上空を縦横無尽に飛び回っていた。
大きな翼を広げた全長五メートル近い手足のある人型のソレは赤黒い表皮、血のような赤い瞳、鋭く尖った牙を持っていた。口元からヨダレを垂らしいるソレに知能と呼べるようなものなく、あるのは人間を喰らうという欲求のみだった。
「……やっと見つけた」
飛行する化け物を睨む影が一つ。
都市の中でも比較的高いビルの屋上に、強風が吹き荒れるのもおかまいなしに一人の少年は立っていた。
いつの時代からか、人類から食物連鎖の頂点の座を奪い去った生物。旧約聖書などにも記され、人々を恐怖の底へと誘う異形の輩。名を《悪魔》という。
生命が生きるには厳しすぎる、荒野と化してしまった世界を支配する彼等の目的は、地上に生きる全人類の捕食。ただそれのみ。
目の前の悪魔も同じで、すでに都市民の数人を腹に納めている。
「ヴアアアアアアアアアアアアアア‼︎」
鼓膜を揺さぶる咆哮を上げた悪魔は、本能が赴くままに欲を満たすため、少年のいるビルの屋上めがけて一直線に降下してきた。
「顕現せよ《封魔の剣》」
少年が呟くと、手に持っていた十字架のアクセサリーがその姿を変化させ一振りの銀色の剣に変わった。
人類が悪魔に対抗するために古代の錬金術師たちによって確立された技術。悪魔の苦手とする聖銀といわれる素材を使った武器を、十字架をモチーフにしたアクセサリーにすることで、携帯しやすくしたもの。登録された肉声言語によって武器としての形を顕現させる。
そんな技術を用いた剣を、少年は襲いかかる悪魔に振り下ろした。剣先は硬い表皮をいとも簡単に通過し、頭から股下までを斬り裂いた。
「ヴァア?」
悪魔は自分の身に何が起きたかわからないまま情けない声を出して絶命した。
二つに裂けた悪魔が落下するのを見届けながら、少年は憎しみを込めて呟く。
「僕はこの世からお前たち悪魔を一匹残らず滅ぼしてやる」
少年がその場を去ると、警報のサイレンが鳴り止み危機が消え去ったことを知らせるアナウンスが流れた。悪魔がいなくなったことで都市を包んでいた嫌な空気が晴れていくのだった。
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学生なので、連載は不定期になる恐れがあります。