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僕は犬だ

作者: 遠野夏妃

僕は犬だ。


生まれてすぐこの家に連れて来られた。

お母さんのお乳を吸った記憶は数えるほどしかない。

僕がこの家に来た時、君はまだ小さな子供だった。

君は僕に興味心身だったね。

僕のその頃の楽しみは、君のお母さんと君と一緒に散歩に行くことだったよ。

君のお父さんは仕事で忙しかったけれど、暇なときはお酒を飲みながら僕にいっぱい構ってくれる良い人だったよ。

君たちは僕に家族として、優しく接してくれたね。

山にも行ったし、川にも行ったね。

君と一緒に水遊びをするのは楽しかったなあ。

君は大きくなるに連れて、毎日がとても忙しそうだったね。

僕の散歩はお母さんとの日課になったね。

君は朝早くから家を出て、夕方に帰ってくるとすぐにまた出かけていって、夜の遅くに帰ってきたね。

君が僕に構ってくれる時間はだんだん少なくなっていったね。

けど僕はお母さんと散歩に行ったり、お父さんの晩酌に付き合ったりして楽しかったよ。

だんだん君は家にいることが多くなっていったね。

けれど君はずっと机に向かって一生懸命勉強していたね。

僕がたまに君に構って欲しくなったとき、ワンと吠えたら君は嫌な顔せず僕と一緒に遊んでくれたね。

君が大人になった頃には、お母さんもお婆さんになって、お父さんはお爺さんになっていたね。

僕ももちろん年をとる。

だんだん楽しみな散歩に行くこともできなくなってきたよ。

お父さんとの晩酌は相変わらずだったなあ。

君は家を出ていったね。

たまに帰ってきたときはたくさん遊んでくれたね。

とっても嬉しかったよ。

時が経ち、僕の身体は思うように動かなくなってきた。

散歩にはもうずっと行っていない。

お父さんとお母さんはよく僕のそばに寄り添ってくれるようなった。

今日は君が帰ってくる日だったね。

君は帰ってくるとすぐに涙目になりながら、僕の方に来てくれた。

どうしたの? 何か悲しいことでもあったのかな……

僕は君の伸ばした手を精一杯の力を使って舐めてあげた。

大丈夫だよ。僕がいるから安心して。

お父さんとお母さんも僕のそばにやってきた。

三人ともどうしたんだい? 僕は精一杯の力を使って声を出した。

三人は涙を流しながら僕の身体をさすってくれる。

ああ、気持ちいいなあ。

意識が遠くなっていく。

三人の声が耳に響いてくる。

そして僕は死んだ。


僕は犬だ。

人の言葉はわからない。

けれど気持ちはなんとなくわかる。

僕は犬だ。

人の言葉を話せない。

けれど気持ちは表現できる。

僕は犬だ。

人の言葉を話したい。

人の言葉を理解したい。


もし、もう一度生きられるなら。

人として、君たちの家族として……

同じ時間を生きたい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 犬が出てくる話は個人的に涙腺がたいへんなことになるんですよう……とても泣けました。純粋だった頃に戻りたいです
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