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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
序幕
9/57

九話 皆さん、変質者が出たようなので、注意して(ry

 翌日は休みを取ることにした。依頼の無限ループ云々とのたまったが、こっちではしっかり疲労が溜まるため時には休息も必要である。

 アッシュは平原の方へ散歩に行った。まんま犬の散歩だろ、とか思わないでもないが、気にしないことにした。

 斯く言う俺は王宮に来ている。別に王族に何かしようとかそんな大それたことは思っていない。

 ただ、こっちについての情報が足りな過ぎるため、王宮の書庫を利用しに来たのだ。


「(まぁ、一般開放なんてされてないからこうして忍び込むことになってる訳ですが……。)」


 帽子の《隠蔽》と自分を透明にする魔法を併用することで割りとあっさり入れた。最初は冷や汗流しまくってたが、そろそろ慣れてきた。

 美人のメイドさんのスカート覗けるくらいには余裕が出来たとも。

 しかし、王宮が無駄に広くて、道も聞けないから書庫が何処なのか……。


「(参ったな。案内図なんて無いだろうし……うわ、顔に見合わず大胆だな、この子……。)」


 書庫って普通何処にあるのかね。イメージでは地下とかにありそうなんだけど。

 一階を隈なく調べても無かった。一番惹かれたのはダンスホールだった。

 いつか踊りたい。

 やっぱ真ん中の一番上の方が王の執務室とか謁見の部屋だろ。それなら中央には客間とかそんなんが沢山あるんだろ。

 隅っこの方だよな。下じゃないなら左右?


「(右の方へ行ってみるか。)」


 そういえば、入る前にチラッと見た外観だと中央と左右で微妙に分離してた気がするな。

 片方は書庫とか……宝物庫!


「ぐへへ……あっ、やべっ……。」


 メイドさん振り返った。だが、俺は見えまい。まだ《隠蔽》も利いてるはず。

 首傾げて?

 気のせい?

 気のせい。

 セーフ……。

 中々やるじゃないか、君。危うく何もしてないのに大罪人になるとこだった。危ねぇ危ねぇ。

 またな、ピンクちゃん。


「(しっかし、流石は王宮。調度品の価値が馬鹿にならない。今の俺からしたらマジで天文学的数字。)」


 良く分からんピカピカの壺が十桁とかするんだぜ。特殊効果も無いくせに生意気過ぎる。

 つか、王宮広いな。渡り廊下的な通路があんだろ。どこだよ……。


 俺が通路を見つけたのは一時間後だった。


 結果だけ云うと、右側の方は使用人の生活空間とか諸々の雑事の詰め込まれた空間だった。

 時間を無駄にした。

 まぁ、俺の胃袋とポケットは膨らんだが。

 左こそは正解だと信じている。左右対称の建築様式だったらしく、今度はすんなり左側に移ることが出来た。


「(お、当たりだ。)」


 大きめの扉の向こうから大量の本がある場所独特の香りがしている。問題はどうやってこの扉を開けるかだ。

 どう見ても年季の入りまくった扉だ。五月蝿い音を立てるに違いない。

 先ずは《透視》で壁の向こうの状況を確認する。

 人影はない。

 俺のスキルレベルだと本棚までは透けないから不安が残るが、仕方ない。


「(ぬぉぉ……中々軋みやがる。)」


 ギィーッと鳴る扉を押し開けて隙間から中へ忍び込んだ。まだ人影は見当たらない。

 《広域探査》を試したいが、万が一感知されたらアウトだ。

 足音を立てないように気を付けながら、早歩きで本棚に近付く。

 とんでもない高さの棚だ。


「(一番上のなんか取れねぇだろ……。)」


 探してる本が一番上にあったりしたら最悪だ。もう魔法なしじゃ取れない。

 取り敢えず、目の前の棚から目を走らせる。

 最近気付いたのだが、俺はこの世界の文字を《解読》スキルで読んでいるらしい。

 だから、ギルドカードが不自然にカタカナばかりだったりしたのだろう。

 まだ時折、翻訳が可笑しい時がある。


「(この辺は関係なさそうだな。地理関連に、いくつか特産品についてか。)」


 背表紙を流し読みしていれば意外に本棚をチェックするのは容易い。

 次の棚へ移る。

 まだ地理関連。次へ。


 こんな作業をしている内にスキルレベルが二つも上がって漢字と平仮名が交じるようになった。

 目的の歴史書や教養の本も見つかった。

 周囲を警戒しつつ、本棚の前で開いてみる。まだ翻訳が今一な部分もあるが、自分なりに噛み砕いて理解していく。


「(魔王や勇者についての記録はやっぱりないか。異世界についてもまるで掠らない。)」


 何冊か紐解いてみたものの、収穫はないも同然だった。

 唯一目を引いたのが“魔川”の存在についてである。

 大地の中に高次な魔力の川があり、その上は肥沃な土地になるという。そして、その土地は動植物が豊かになるが、魔物も惹かれるために危険だと書かれていた。

 これはゲームの設定には無かった情報だ。


「(龍脈の様なものか。道理で栽培されているものでも、採取してきたら高く売れるはずだ。)」


 しかし、帰る方法には結びつかない。

 静かに閉じて棚に戻すと、次は魔法について書かれた本を探して回る。

 時間や空間を操る魔法があるなら、それらを使って帰ることが出来るかも知れない。

 幸いにも俺は魔法使いだ。使えない魔法なんてありはしないだろう。


「(げ……。)」


 何度も棚から棚へ移る内に人と出くわしてしまった。少し背が高く、華奢な若者だ。

 後ろからだと身体が隠れるローブに短髪なせいもあって性別が判断出来ない。

 睡眠状態にさせる魔法を背後から使って待つと、ふらりとたたらを踏んで後ろに傾いた。

 眠ってしまった若者を抱き止め、顔を見て女だと判る。


「(…………ちょっとくらいなら……いやいや、寝ている女の子にそんなことは……。)」


 一回だけ。一回だけおっぱいを触らせて頂きました。誘惑に勝てない俺をどうかお許し下さい。


 とても柔らかかったです。


 本棚に寄り掛からせておき、取り敢えず入門書の中でも厚いのを開く。

 魔法云々に関係無く、入門書ならどういった系統の何があるかは説明しているページがあるはずだ。

 ペラペラと捲っていく。


「(…………これだ! 魔術の属性について。)」


 探査系を含む非属性魔術。

 地水火風の四大属性魔術。

 雷や光など応用属性魔術。

 他者の強化など付与魔術。

 エトセトラ。

 最後まで読んだが、時間や空間に関係ある魔術は載っていなかった。

 次は魔導についてだ。これについても特に記述は変わらない。

 魔法についての本はそもそも見当たらない。他に、自身で魔術を開発する方法を取り上げた本があった。

 これは興味深いため拝借することにした。


「(結局、手掛かりはなしか。こうなったら《召喚士》への転職も考慮しないとな。)」


 それより他に異世界と行き来するのに関わりそうなものがない。

 現状で分かったのは、この世界に俺を元いた場所へ還すことが出来る人間がいなそうだという点だけだ。

 魔法にしても、召喚士にしても、御伽噺レベルを除いて大成した人物の記録がない。

 それだけ、この世界の“ヒューマン”が極めるには魔法系の道は幅が広すぎるのだろう。


「(……エルフ等の亜人種には突出して優れ、魔導の領域に達する者が……ダメだ。魔法の記述がない。)」


 素養が元から高く、寿命も長いエルフは魔の道において先を行くとあるけど、魔導止まりじゃ役不足だ。

 それなら自分で何とかできる。

 召喚士に関しては、自らの力が優れたエルフに、なろうとする者が極めて少ないらしい。


「(手詰まりだ。すぐにどうにかできる手札が見付からない。)」


 何冊目になったか。読み終わった本を棚の隙間に押し込んだ。もしかしたらまだ新たな情報が載った本もあるかも知れないが……。

 読んだ本は全体の何千、いや何万分の一にも満たないだろう。個人で隠密活動しながら選び抜いて読むのは無理だ。

 堂々と長時間篭るか、詳しい人間に選んで貰うかしないと見つけられん。

 どうしたものか。


「う……ん……?」


 …………詳しそうな人いた。






「ん゛ーーっ!! ゥン゛ゥン!!」


「まままままマズイ!! 幾ら何でもこれはマズイと思うぞ、リーブラ!?」


 図書館で眠らせた女性から情報を聞き出す方法についての脳内会議の結果。

 苦肉の策として一時的に同行頂くことにした。

 アウェーでごちゃごちゃやるよりホームに帰って後始末をキッチリやる方が安牌な気がするからな。

 今は猿轡して手足縛ったままベッドに座らせてる。

 かなり気が病むが、眠らせて王宮に転がしとけば保護されるだろ。

 俺達はその間に高飛びだ。


「ングゥアッ!!」


「あ痛っ。いつまで喚いてんだよ。何てヒステリックな女だ。」


「ィン゛ゥェン゛ィンェンェ!?

(ヒステリックですってぇ!?)」


 …………参ったなぁ。

 俺は大人しい女性からすんなり情報を貰って紳士的に帰してあげるつもりだったんだが。

 これは思ったより時間が掛かっちゃいそうだ。人選ミスっぽい。

 見た目は知的な眼鏡美人なのに……。

 アッシュなんかビビって部屋の隅で丸くなっちまったよ。


「まぁまぁ、手荒な真似は絶対しないから。ちょっと幾つか教えて欲しいことが……。」


「ングァァゥァァゥゥ!!」


「ダメだ、こりゃ。」


 届かないの見りゃ分かるだろうにめっちゃ蹴りまくってくるから。

 もう色々とね。

 主にタイトスカートとか。


「お姉さん、話を聞い……。」


「ほおいあはいッ!! ンン゛ッ! ンン゛ン゛ッ!!!!」


 お手上げだわ。

 しばらく拝借してきた本でも読んで待つとするかね。

 アッシュには悪いけど、ここで逃がしたら全部おじゃんになっちゃうし。

 まさか、こんな人だと思わなかったなぁ。

 《看破》じゃ白魔術師らしいけど、ファイターの方が向いてるんじゃないかね。

 あー、《解読》スキル上がるわ。

 この本、内容は中々ハードだ。魔法陣の中身がプログラミングに似てるのは気のせいかね?

 前知識あるおかげで理解はできるが。


 これって既存の魔法の改良方法なんじゃ……。

 タイトル詐欺だろ。


「ん゛ーっ……ん゛んっ!」


「え?ああ、はいはい。何だ?」


 まだ怒っているようだが、幾分落ち着いて視線で猿轡を外すように言っている。

 会話に応じる気になったということだろう。


 騙されるもんか。どうせ猿轡外したら叫びまくんだろ?

 分かってんよ。


「んんっ!? んーんー!!」

リーブラ所持金20G

アッシュ所持金90G

パーティ所持金1050G


スキル紹介

新着

《エアロ・リッパー》

カマイタチを発生させる風属性の初級魔法。スキルレベルによって威力と撃てる数が増える。

《サンク・クレイ》

指定した地点を中心に地面を陥没させる地属性の中級魔法。スキルレベルで範囲が広がる。

《ファン・エッジ》

指定した起点を中心に周囲を風で切り刻む風属性の中級範囲魔法。スキルレベルで範囲、威力が上がっていく。

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