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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
序幕
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八話 お金を下さい

 ロックライノスは魔物の中ではEランクに分類される比較的戦闘能力の低い種族である。

 …………が、倒す面倒臭さは中々侮れないものがある。

 まず、パッと見はアルマジロであるこの魔物は背中が鉱物で覆われており、貫通属性か浸透属性がある攻撃以外がほとんど通らないのだ。

 しかも、鉱物背負ってるだけあって滅茶苦茶重い。

 この特徴のせいで腹は柔らかいのに攻撃は出来ないというウザさ。


「通称“漬物石”。」


「そんな子供でも知ってる説明はいいから手伝ってくれないか!?」


「はいはい。今掛けるよ。」


『巨熊の怒りを持ちて血を沸かし


 理性の楔を血潮で融かせ


 全てを失い一つを奪え


 ディープ・バーサク!!』


「待てそれちがガガガガガガアアアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!!!」






「フーッ……フーッ……フー……違うだろう? ……フー………な? 狂わせてどうするんだ? ん?」


「間違えた。」


「補助する魔術と狂わせる呪いをどうしたら間違えるんだ!!」


「ごめんなさい。」


 悪ふざけが過ぎたらしい。怒られちゃった。

 さて、仕切り直して真面目に狩りをしますか。すげぇ騒いだけど、今回は事前に辺り一帯を結界で覆ってるから逃げられないはずだ。

 五、六匹巻き込まれて木っ端微塵にされちゃったけど、まだまだ数はいるしな。


「じゃ、改めて。」


「これだこれーっ!!」


 あぁ、行ってしまわれた……。

 あいつ大丈夫かな? 主に首から上が。逃げ惑うロックライノスを片っ端からひっくり返して馬鹿笑いしてやがる。

 どう見ても狼の魔物にアルマジロが虐められてる絵ですね。

 まぁ、俺は俺で仕事しますか。


「シャー! キシャー! シュッ! シュッ!」


「はいはい。」


 威嚇してくる岩マジロの頭を杖で押さえつけてから、地面を隆起させる《アース・タワー》を使って尻の方を突き上げてやる。

 すると、こいつらはポーンと裏返るのだ。雄か。南無三……。

 一番弱い雷魔法で楽にしてやり、後で鉱石を回収するしかないから今は放置。


「フシャオー! プギュ……。」


「次はお前さんかね。どーどー。」


っぽーん! バチィッ!


「アンギャー! プギュ……。」


「よーしよし。」


っぽーん! バチィッ!


 何だかなぁ……。

 弱い者虐めしてるみたいで、心苦しい。一応こいつらも岩に化けて旅人の足を喰い千切る悪質な魔物なんだけど。


「リーブラ、二匹丸まってしまった……。」


「先に裏返すから……。」


 アッシュが丸いものをコロコロと蹴り転がして困ったように頭を掻いて助けを求めてる。

 そう、こいつらは一定のダメージを受けるか裏返ったまましばらく経つと丸まってしまうのだ。

 すると、硬い背中に腹が隠れて攻撃出来なくなる。こうなると貫通と浸透まで利かなくなるから手に負えない。

 経験上、こうなった岩マジロは炎魔法で蒸し焼きにするしかない。


「しょうがないなぁ……《ファいってぇっ!?」


「まずい! ライノスに噛まれてるぞ!!」


「死にさらせぇ!」


 俺の足首に噛み付いているロックライノスの首目掛けて杖の先端を振り下ろすと、ザクリと首に突き刺さった。

 装備と自前の防御のお陰で牙は刺さらずに思いっきり挟まれただけで済んだが、地味に痛かった。

 ビクビクと痙攣するロックライノスの首から杖を抜く。

 そうしたら、今度は顎の間に差し込んで梃子の原理で開いて足から外す。

 つい油断してしまった。こっちの世界に慣れ始めて緊張感が無くなってきたのかも知れない。気をつけよう。


「魔導師にしては頑丈なのだな……。てっきり足を持ってかれたかと心配したぞ。」


「まぁ、そこらの魔物に傷付けられることは無いさ。これでも始めて長いからな。」


「(…………見た目通りの年齢ではないのか? よもや不老の術を会得した賢者の類ではあるまいな……。)」


 取り敢えず、アッシュにはわらわらと寄って来てる奴らを始末するように言って、俺は丸くなった奴らをどうにかしよう。

 と言ってもやることは決まってるんだが。

 杖で小突き回して一所に集めると、詠唱を飛ばした《ファイア》で包んで待ち続ける。

 今思ったけど、こんなことしたら背中の素材が劣化すんじゃねぇの?


「まぁ、いっか。沢山倒したし、レア物なら熱したくらいじゃどうこうならないもんな。」


 良い匂いがしてきた。多分こいつらはレアになった頃だろう。俺の好きな焼き加減はミディアムだ。

 初見の肉は焼き加減を見るのが難しい。匂いと肉汁の爆ぜる音を頼りにジャストな一瞬を感じ取る。


「……燃焼終了!!」


 背中の鉱石がブスブスと黒煙を上げている。球体を維持する力が足りなくなったのか、すぅっとロックライノスが開いた。

 こんがりと焦げ茶色になっている。間違いなく完璧なミディアムだ。

 俺すげぇ。


「な、なぁ、凄い美味そうな匂いがするんだが……何やってるんだ、リーブラ?」


「俺も聞きたいんだが、お前はもっとスマートに戦えないのか?」


 ロックライノスの倒し方から仕方ないのかも知れんが……。

 裏返して丸見えの腹に手を突っ込んで内臓を抉っているから、腹から噴水みたいに血が流れてる。

 それがそこかしこに転がってるんだ。此処は地獄か何かかよ。

 流石に気持ち悪くて目を逸らした。

 両手を真っ赤に染めた巨大な人狼。どう贔屓目に見ても魔物の仲間だな。


「やれやれ……。」


 ちょっとした小技だが、《鑑定》は生き物には使えなくとも死骸には使用可能になる。

 これを知っているとロックライノスの鉱物を選別でき、知らないと石ころしか背負ってないこいつらを全て掘らないといけなくなるのだ。

 何でそうしたのか不明だが、ゲームでもロックライノスの牙やらの素材とは別扱いで採取しなければいけなかったな。

 知らない奴は死骸を放置して帰っちゃうんだよ。可哀そうに。


「こいつは鉄か。こっちは……も鉄。これは石……ゴミめ。おっ、銀だ! 次は……石。」


 まぁ、所詮はEランクの魔物だから大半は石ころ背負った奴なんだ。四段階くらい上位派生した奴はミスリルとかくっ付けてるけど、流石に二人じゃ無理だしな。

 攻撃も怪光線とか撃ってきたし。

 アッシュが二人か三人増えたら倒せるかも分からんが。


「ハハッ、冒険者って魔物に対する追い剥ぎだよな。」


「…………言い得て妙だが、滅多なことは言うものではない。」


 俺が《鑑定》で選別し、アッシュがそれを表に返して分かり易いようにしておく作業を終えると今度は背中の鉱物を取る作業だ。

 鉄の臭いに包まれた中、防具屋から貸し出しされたハンマーとノミで甲羅から削ぎ落とす。

 飽きた。バフで楽出来るかな。


『ロイヤル・ブースト』


「うっ……相変わらずキくぅっ……。」


 全ステータス増幅の魔法を掛けると魔法力が増えすぎて何でも出来そうな充足した気分になるんだよな……。

 実を言うと、俺はこの感覚が何か苦手で、自分にバフを使うのが好きじゃない。

 まぁ、依存性も無いし、必要なら使うんだけどさ。




 てってれー!

 アッシュは新たな装備を手に入れた。


 リーブラとアッシュは48000G失った。


「手に入れたっつっても完成するのは二週間後だがな。」


「本当に良かったのか? ほとんど私の装備に使ってしまったが……私は装備が無くとも良いのだぞ?」


「良いんだよ。金は使うもんだし、また稼げばいい。」


 この間の特急クエストで稼いだ金と今回の報酬と素材で軽銀製の兜と鎧、鋼鉄の籠手を鍛えて貰うことになった。

 脛当ても考えたが走行の邪魔になると本人の意見があったから止めた。籠手は格闘戦と走行を考慮した特殊な物を職人が造ってみるとか。

 狼人種の中でも一際大きいアッシュに合わせてオーダーメイドになったから、素材以上の値段になってしまった。


 まぁ、その分無茶な注文してきたが。


「完成が楽しみだな、アッシュ。」


「ああ、そうだな。」


「人来ないな。」


「来ないな。」


 治癒魔法で一稼ぎする計画は初日から危機を迎えているようだ。誰も治癒魔法を受けに来ない……。

 帽子の《隠蔽》はノンアクティブにしてあるんだけど。

 やっぱりいきなり出てきた上手い話に飛びつくような奴はいないのかね。一人でも体験者が居れば噂が広がってくれそうなんだが。

 割りと健康そうな奴らしかこの公園にはいないんだよな。


「へぇっくしょい!!」


「「おや?」」


 くしゃみではないかな? 今のは。どいつだ? あのおっさん? マジか……。

 こういう時は小汚いけど将来有望な女の子が現れて、もっと重病な姉とか母を治してムフフなことになるんじゃないのかよ。

 気が乗らねー。小汚いおっさんとか治しても満足感ねぇじゃんか。


「まぁ、しょうがないか。お前でいいや。」


『グレイプニル』


「うわああっ!? 何だ!? 誰か助けてくれ!」


「任せろ。俺が助けてやるぞ。」


 ジタバタすんな、このっ。魔法の巻き取りに敵うわけないだろ。

 よしよし、汚っさんの一本釣り成功ー。ふむふむ、うわ、こいつ風邪の他にも幾つか患ってんな。こんな世界でこれは死ぬんじゃねぇの?


「何なんだ、お前らは!!」


「どうもー、えー……名前考えてなかった。……どうする?」


「治療屋でいいんじゃないか?」


「どうもー、治療屋でぇーす。怪我と病気を何でも治します。お代は超格安であちこちに俺達の噂してくれるだけでオーケー!

 あ、おっさんは善意の協力者だから金は要らんよ。」


 治療屋だっつってんだろ。何か逃げようとするからアッシュが首根っこ掴んで捕まえた。

 ひぃひぃ言うなよ。情けない。

 何か唱えとかないとカッコつかないか。取り敢えずモニョモニョ言っとこう。


「モニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ。」


『クリア』


 杖をおっさんにかざして何か掛けてるように見えるポーズをしてから、状態異常解除の魔法を使ってみる。

 緑色の光がおっさんに降り注いでいくと、目に見えて顔色が良くなっていった。看破を使ってみると、病名が減っている。

 あれ、胃潰瘍が消えないな……。

 治癒魔法の方かな?


「モニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ。」


『キュア』


 今回は青い光がおっさんを包んで消えると、胃潰瘍が消えた。マジで全ての病気を治せるなら白魔術系の職就いたら神じゃん。

 幾ら何でも万能過ぎじゃ……あぁ、スキルレベルの壁か。

 魔術の研究って凄い時間かかるイメージあるもんな。かと言って剣術とかみたいに体に覚える系でも無さそうだし。


「体の調子はどうだ、おっさん?」


「すげぇ……。」


 目に見える変化は無いと思うんだけど、おっさんはあちこち体を見渡している。すこぶる調子は良さそうだな。


「おっさん。さっきも言ったけど、俺達はなるべく沢山の客に来て欲しい。あんたは噂を力の限り広めてくるんだ。

 いいか? 超褒め称えて聞いた奴が直ぐにも行きたくなるように話せよ。もし客が増えなかったり悪評が広まったら………分かるな?」


 然りげ無くアッシュに視線をやって囁くと、おっさんは病気に掛かったみたいに真っ青な顔して頷きまくった。

 俺が一歩離れると、空気を読んだアッシュに解放されたおっさんが猛ダッシュで去っていく。

 尋常じゃない様子に驚いたアッシュが、何したんだお前、みたいな顔で見てきたが、俺は肩を竦めて宿の方へ歩き出した。

リーブラ所持金20G

アッシュ所持金90G

パーティ所持金3550G


スキル紹介

共通&新規

《隠蔽》

共通

敵のタゲにかかり難くなるスキル。レベルによって距離が近くても効きやすくなり、レベルが低い敵の感知スキルを無効化する。スキルと別物であるが、装備品にも同じ効果が付与できる。

リーブラは帽子にこの効果がついている。アッシュは自前。

《ボイス・バスター》

リーブラ

状態異常“沈黙”を引き起こす最上級呪文。沈黙完全耐性を持っている相手ですら10%の確率で黙らせる。

使えるのはスキル狂人リーブラくらいなもの。

《キュア》

リーブラ

体力回復魔法。一番基礎。

《クリア》

リーブラ

状態異常解除魔法。一番基礎。

《ディープ・バーサク》

リーブラ

状態異常“狂化”を引き起こす中級呪文。厨二な呪文はGMが用意した正式なもの。破棄できるけどノリで詠った。

《アースタワー》

リーブラ

地面から円柱を隆起させる土属性の下級魔法。一時期、男性プレイヤーに辻アースタワーをするオレンジプレイヤーがいたとか。

《ロイヤル・ブースト》

リーブラ

全ステータスを一定時間強化する補助系の最上級魔法。ただし、対象は一人だけ。

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