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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
序幕
6/57

六話 アッシュの実力

 もしかしたら、俺は前世での行いが悪かったのかも知れない。金の力に任せて人の幸せを壊したり、貧しい人の姿を見て嘲け笑ったりしていたのかも。

 その報いで今世は金が寄り付かないのだろう。でなきゃ納得出来ん。

 何で半裸の人狼とオーク狩りに行かなきゃいかんのだ。そりゃ毛むくじゃらだから卑猥にはならんだろうさ。

 しかし、幾ら格下の敵だからって防具無しとかおかしい。


「本当に申し訳ないな……。」


「良い。ただし、これからパーティの財布は俺持ちだ。」


「頼む。私は金を持つとどうしても食事に使ってしまう。」


 尋問の結果。こいつは稼いだ金を宿代以外全て飯に注ぎ込んでいたと分かった。空腹な訳でも回復に必要な訳でも無いのにだ。

 思わずぶん殴ってしまった。

 しかも、初めて会った時の豪放磊落な態度は他の冒険者と上手くやるための演技だったらしい。何の冗談だ。

 本性は時間の短縮になるからと言って目的地まで俺を肩車して走っていくようなお人好し、お犬好し?だった。


「アッシュ、ストーンツリーの群生地にはどんな魔物がいる?」


「ロックライノスとヘビーモンキー、コカトリスに……眉唾ものだが、噂でバジリスクが出るとか聞いた。」


「無いな。バジリスクは暗い場所に出現する。幾ら岩場でも太陽の下には出てこない。ヘビーヴァイパーを勘違いしたんだろう。」


「詳しいな……。」


「一時期、石化魔術に熱中した時に眼球を杖に使いたくて狩りまくったからな。」


「…………バジリスクを狩りまくった?」


「…………ジョークだ。」


 駄目だ。ゲーム時代と同じ感覚で話してると周りからおかしな目で見られる。今一つプレイヤーじゃない連中の常識が分からん。

 アッシュなら石化対策さえすればバジリスクくらい単独で倒せるはずなんだけどな。

 あれか、これが命懸けのリスク背負ってるか背負ってないかの違いか。


「見えてきた。」


「え、何処?」


「正面だ。ストーツリーの群生地があるだろう?」


「地平線に見える黒い点のことか? こちとら視力は普通の人間だぞ。見えるか。」


 とはいえ、アッシュの脚力ならそう時間が経たずとも見えるようになるはずだ。何か大型自動二輪に乗ってる気分。

 前傾して走る彼の更に前に頭を出さないと馬力で後ろに持ってかれる。

 こりゃ馬なんか要らんわ。AGI上昇のバフとか掛けたらどうなるかな……。


「少し身体を暖めたいから速度を上げていいか?」


「まだ上がるだとっ!?」






 凄い速さだった。俺の感覚が確かならあれは時速100kmは出ていたと思う。

 チーターの様な軽やかな走りならともかく、生き物があんな力強い100kmに達するとは。VITも高いから持続力あるし、捕食動物としてはこんな凶悪な奴いないんじゃね?

 アッシュは舌を出して息をしているが体力を消費した様には見えない。正にウォームアップだったのだろう。


「さて、さくっと依頼熟してやろうじゃないか。ついでにお前の防具に使えそうな素材を集めてな。」


「な、なぁ、リーブラ? 別にお前は戦闘しなくても構わないぞ? その……私が焦って二つもランクが上の依頼を受けてしまったんだから……。」


「? ……何言ってるんだ? お前のスキルを育てるんだ。お前が戦うに決まってるだろ。てか、お前前衛、俺後衛。」


「あ……そうだった。」


 さて、《広域探査》っと。

 んー……どれがそうだ? 障害物が多くて煩わしいな。この反応がヘビーモンキーで、こっちがロックライノス。ああ、居た居た。

 東に900mってとこか。

 ハイ・ゴブリンが九匹にオークが二頭ね。オークは耐久だけ高いからそこそこスキル上げになるでしょ。


「オークと戦う時は《硬化》と《斬撃付加》を使って、ハイ・ゴブリンは《大狼の牙》と《咆哮》の組み合わせで倒すと効率良いからな。」


「こうか? ざんげき? 何のことだ? 咆哮は……吠えることか?」


「……スキルって分かるか?」


「技とか能力だろう?」


 これは……分かってない感じか? もしやステータスの概念が無い?

 だとしたら、だ。スキルの強化とか取得って無理なんじゃないだろうか。いや、しかし、意識して使えないってことは単純な能力値の殴り合いになるはず。

 なら、アッシュのスキルの成長は逆に変だ。


「戦闘の時に何か特別な技をどうやって使ってるんだ?」


「特別な技? もしかして、リーブラが言ってるのは天から授かったもののことだろうか。」


「天から授かる?」


「ああ、例えば私は生まれた時に他の物より優れた喰い付く力と吠え声を授かった。もう一つ授かったのだが、恥ずかしながらまだそれが何かは分かっていない。

 一族には人の姿になれる力や一時的に膂力を得る力を授かった者がいる。授かりものは数も力自体もそれぞれでまちまちだが。喰い付く力と吠え声は大抵授かるな。」


 なるほど。種族の固有スキルや特殊なスキルを最初に授かって、後から共通のスキルを覚えていく点は同じだな。

 要はデータとして完全に把握出来るか出来ないかの違いと見た。

 それなら俺がいるから問題無さそうだ。新しいスキルの取得は難しそうだけど。


「大丈夫だ。分かったぞ。つまり、お前は“肉体を硬くする力”と“攻撃を斬れるようにする力”、“喰い付い力”、“吠える力”を持っているから、前の二つでオークを倒して、後の二つでハイゴブリンを倒せばいいんだ。」


「なるほど。そういう意味か。

 …………………って他人の授かった力が分かるのか!?」


「(また面倒なことに気付きやがって……。)」


 どうしたものか。やっぱり他人の力が分かるってのは不味いんだろうな。プレイヤーも《看破》はあんまり使わないのがマナーだったし。

 ちょっと新しいやり甲斐に夢中になり過ぎたわ。


「勝手にお前を覗いたのは悪かったよ。秘密にするから、誰にも言わないでくれないか?」


「勿論だ。その代わり、教えてくれないか? 私が授かったものが何なのかを。」


「そのくらい良いけど、先ずは依頼を終わらせてからだな。」


「ああ。」


 表面が鉱物で出来た木々の中をオークを中心にハイゴブリンが駆けて来ていた。

 オークは全長3から4mの豚頭の魔物だ。ハイゴブリンは貧相だった体がガッチリ筋肉で覆われただけで、ゴブリンと変わりない。

 臨戦態勢になって昂った気合に当てられたアッシュの毛がぶわりと逆立った。彼が飛び出す前に敏捷上昇と防御上昇のバフをかける。

 青と緑の燐光を放つアッシュが一直線に突っ込んだ。燐光の軌跡が残るほど速い体当たりは、80kgはありそうなハイゴブリンをいとも容易く吹き飛ばす。

 ストーンツリーに叩きつけられた個体は全身から骨の砕ける音を鳴らして崩れ落ちた。

 関節の概念が無いかの如く、ぐにゃりと地面に転がったきり動かない。


「幾ら何でも雑過ぎるだろ……。もっとスマートに戦えよ。」


「凄い! 凄過ぎるぞ、リーブラ! 魔導の補助がこれ程とは知らなかった!!」


 まぁ、これでも魔法使いですから? 補助魔法の効果だって飛び抜けてますとも。攻撃上昇もやるつもりだったけど、何か危なそうだから辞めとくか。

 ハイになったらしいアッシュは胸が膨らむほど深く息を吸い込み、空に向かって雄叫びを上げた。

 そこそこ離れた俺の全身をビリビリと衝撃が叩いて痛くなるクラスの《咆哮》が森を揺らす。

 俺も塞がなかったら鼓膜がやられただろう。


 クロスレンジで浴びせられたオーク達のダメージたるや。


 奴らの体内で何が起こったのか、医学に疎い俺には分からない。

 しかし、ダメージの深刻さは顔面の全ての穴から血を噴いてひっくり返った姿を見て分かった。一匹残らず地に伏した。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


「分かった!! わーったから!! もういい!! やめろ!! うるっせぇっ!!」


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 聞いちゃいねぇ! こんなん続けられたら俺まで参っちまうだろうが!

 

『ボイス・バスタァーッ!!』


「――――ッッ!! ――? ――――!? ――――! ――――――!?」


 “沈黙”の最強デバフがこんなに有難いと思ったのはこれで二回目だわ。趣味だったけど育てといて良かった。

 急に声が出せなくなってあたふたしているアッシュに、自由に操作可能な鎖を出す《グレイプニル》で口輪と首輪を使って拘束してやった。

 これは破壊されるまで永続するタイプの魔法だから、俺の意思以外では先ず消えない。杖の宝玉から伸びる鎖を縮めながらアッシュのとこへ歩いていく。


「自分が何で拘束されてるかお分かり?」


「…………――。」


 申し訳なさそうに頷いたアッシュの頭を杖でコツンとやり、血の泡を吐いて死んでいるオークを顎で指して、自分で処分しろと伝える。

 このくらい使っても罰は当たらないだろう。仕留めたのもこいつな訳だし。

 大分遠慮しつつも鎖を指差してこちらを見てくる彼にじとっとした視線をくれてやると、すごすごと証明部位を回収しに行った。

 リアルに犬を飼い始めた気分だ。


「(大して収穫は無かったかな、今回の戦闘。スキルは……ん? 妙だな。《咆哮》が二つも上がってる。あ、《突攻》増えてる。)」


 どうやら向こうとスキルの法則が完全に異なるらしい。スキルの成長は回数重ねる他に無かったが、どうも此処では“コツを覚える”ことでも成長するのか。その効果は絶大に見える。

 新規取得も専用クエストを熟さずとも同様に増えるようだ。

 しかし、逆に言えば回数使っても成長しない可能性がある。まぁ、何回も使えば自然と“コツ”は分かってくるんものだが。

 ベットとリターンが大きいと云う訳か。


「(厄介だな。アップシフトもクエストじゃなくて本人次第か? 威力も気合で上下するなら戦闘がシビアになるだろうな。)」


 色々と推測から理論的に情報を整理しておき、習慣から《広域探査》を使って魔物を探すが、アッシュのせいで散り散りに逃げてしまっている。

 これじゃ素材集めは到底無理だ。

 臨時収入は無しか。


「集めたら今日は帰ろう、アッシュ!」

リーブラ所持金520G

アッシュ所持金2090G


スキル紹介

リーブラ

《ファイア》

最初級の炎魔法。リーブラの所有するスキルのレベルなら念じるだけで発動させられるが、音声入力の有無を確かめるために名前を使われた。杖から噴射するタイプと指定した空間を燃やすタイプが選択可。

《広域探査》エリア・サーチ

ソナーの様に魔力を放って周囲の障害物や生命体を感知する魔法系の感知スキル。

《透視》クレアボヤンス

障害物の向こう側を見られるスキル。レベルによって透かせられる障害物の数が増える。《遠視》と一緒に極めると別のスキルに融合する。GMの指定した壁は透けない。

《ファイアウォール》

炎魔法の初級障壁。解除するまで魔力を消費しながら炎の壁を出し続ける。

《鑑定》

アイテムの詳細情報を読み取る。対象は非生命体に限り、生命体には《看破》がひつようになる。

《対物障壁》

魔法職の基本スキル。魔法力によって硬さが変動し、レベルによって自身との距離や位置の自由度が上がる。魔法系スキルに弱い。

《看破》

生命体の能力情報を読み取るスキル。非生命体には効果が無い。

《クールゾーン》

外部からの高熱を遮断し、範囲内を適温に保つ。冷気は防げない。

《グレイプニル》

無属性の最上級魔法。使用者の自由に扱える鎖を出し、対象を拘束する。脱け出すにはスキルレベルの補正を受けた使用者の魔法力を上回るステータスが必要。

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