五話 独りぼっちの二人
――……翌日。
またゴブリンのお世話になろうとしたら依頼書が撤去されていた。
仕方ないから朝から哀れな兎を追い回し、出来た金で干し肉を買い込むことに。
済ませた後に良く考えたら、肉を買うために肉を追い回してるなんて間抜けな話だと思う。
結局、都合良く出発する隊商があるはずもなく、一所にじっと留まっているのが苦手な俺は徒歩で旅を始めてしまった。
国の中央に行きたく、情報を集めた結果、俺は王国の領土にいたことが判明。
王国の名はガラテン。記憶が確かなら向こうでは数百年前に魔王が滅ぼした国だったはずである。
「道理で似てる訳だ。時代が違ってもベースは同じだったってオチなんだから。」
そうと分かって一番気になったのは魔王の存在だ。ゲームでは既に昔の勇者に討伐された存在で、魔王がいなくなって無軌道に暴れる魔物を狩るのがプレイヤーの役目だった。
良く仲間内で魔王とも戦ってみたいとは話していたが、リアルに命懸けっぽい状況で親しくもない連中と戦うのはご免こうむる。
いつ現れるか、そもそも本当に現れるのかすら分からないが、情報の集まる中央なら何か分かるかも知れない。
いくら王国が滅ぼされたと言っても、王都に突然魔王が湧いて滅んだとかは無いだろう。
情報集めたら逃げる。
「幸い勇者が討ってくれるらしいし。俺は帰る方法を探さないと。」
危険なのは勇者一味に関わることだ。
こういうとんでもない目に遭った奴が物語の主軸に巻き込まれるのはお決まりと言っていい。
俺なんか魔法使いとして勇者一味の日陰者にされかねん。
「王都に行っても王族には関わらない。お姫様も助けない。やたら気品のある街娘も無視。主人公っぽい男にも近付かないし、近付かせない。依頼も質素に。」
これでフラグは回避出来るさ。
フラグと言えば、宿屋の娘と軽戦士の娘に建ったと思ったかも知れないが、そんな簡単な話は世の中に無いんだぜ。
もっと積極的に行かないと恋愛は発展しないもんだ。何もしなくても佳い女の方から擦り寄ってくるなんて馬鹿なことは無い。
従って俺がアクションを起こさなければ女が関わってくるフラグは折れる。
勝った。
「あー、喉渇く。」
水筒を出して水分を補給しながら、カラッと晴れた空に恨みがましい目をやる。
俺が装備している自慢の魔法使いセットは性能面は良い。しかし、現実に引っ張ってくると真っ黒なこれらは凄い暑い。
意味も無く我慢していたけど、次の都市まで二日は掛かるし、途中で倒れそうだ。
『クールゾーン』
本来火山とかの炎熱系フィールドを乗り切るための魔法だけど、初級魔法なら自然回復が上回って魔力減らないし。
あー、極楽極楽。
雨降ったら対物障壁張れば防げそうだ。魔法使いで良かった。
前衛職とか自分の体一つで何でもやんなきゃいけないんだもんな。マゾだろ。
と言う訳で、無事王都に着きましたー。わーぱちぱち。十日も歩いてしまった。
え? 旅路? 《隠蔽》でずっと魔物も人もスルーして経由した都市では小遣い稼ぎの依頼をしながら魔具探し。
実に詰まらない旅路でしたが、何か?
唯一、変化したことはギルドランクがEに上昇したことか。後一つか二つ依頼を完遂させればDに上がるそうだ。
そして、D以降は昇格に試験が必要になる。そこはゲームの設定と変わっていなくて、少し懐かしくなった。泣いてないからな。
これからまた宿代を稼ぐために依頼を受けないといけない。何時になったら俺は貧乏から抜け出せるんだ……。
分かってます。ギルドランクが上がったら、ですね。
王都のギルドは賑わっていて依頼書の掲示板も順番待ちだ。日本人としては横入りがし辛いんだが、さっきから前に進んでない気がする。
……日本か。
「さて、王都アヴァロン。現実に帰る方法を知る者がいるといいんだけど。」
「お前、“ゲンジツ”って所から来たのか?」
「…………? ……ん? ……はァ!?!?」
何だ!? 帽子被ってんだぞ? 俺に話し掛けてんのか、コイツは?
「ハッハー! 驚いたか?俺みてぇな獣人族と初めてあった奴は大抵そうなるぜ。」
「……俺の《隠蔽》をよくもまぁ。」
「獣人族に気配消しても効かないぜ? それぞれの種族で破り方は違うが、まず効かない。まぁ、お前のはかなり迷ったがな。正直スゲェよ。」
んな、馬鹿な。スキルを無効化する種族特性があるかよ。チートじゃあるまいし。これが現実に即した状態なのか?
帽子のレベルでも効かないとなると、プレイヤースキルでも熟練値は折り返してないと無効化されそうだな。
これはヤバイ。実は俺最強なんじゃね?とか思ってたけど、とんだ落とし穴があった。
「そんな警戒するな。俺は森林狼の狼人族だ。名はアッシュ。」
「…………種族は人間。名は……リーブラでいい。」
現実の名前とアバターの名前と、どちらを名乗るか迷ったが、気分的に現実の名前はこの体で使いたくないし、アバターの名前はとある理由で嫌いだから伏せた。
この狼男だが、どうやら血が濃いのか、先祖帰りなのか……。
頭が狼そのものなのだ。
ゲームでもキャラメイクで使えたが、一部の狂人以外使わなかったネタヘッドである。
が、匂いも熱も表情筋の動きも完全再現されると威圧感がヤバイ。
つーか、良く見たら手も足も狼じゃねぇか。人間の手足が生えてるのも気持ち悪いが、これじゃただの二足歩行する灰色狼だ。
「仲良くやろう。」
「……………………。」
「皆怖がって組んでくれないんだ。頼む。」
「(……取敢えず《看破》。)」
アッシュ
Lv.72
ロード・ウルフェン
Cランク
МP 1170
VIT 375
ATK 412
DEF 339
MGI 131
AGI 563
DEX 218
LUK 102
CHR 88
【スキル】
《大狼の牙》Lv.3
《咆哮》Lv.2
《野生の感》Lv.8
《硬化》Lv.3
《嗅覚感知》Lv.8
《斬撃付加》Lv.4
《隠蔽》Lv.7
《群体統率》Lv.1
《四脚走行》Lv.MAX
《格闘技能》Lv.MAX
……三次職までいってやがる。コイツはこっからステの伸びに壁が出来るからスキルの強化に入る時期だな。
高いのでも二段階目の派生までだからスキルは割りと疎かにしてきたのか?
最後の二つは派生条件満たしてないから一段階目で止まってる感じかね。
「(強いな。俺とは比べ物にならんが、組む分には充分イケてる。)」
「やっぱりお前も駄目か……?」
「いや、組もう。超前衛型のお前と俺なら相性も良いしな。」
それに、スキル狂いと呼ばれた俺としてはこんな逸材がスキルを適当にしてるなんて我慢ならん!
しっかりがっつり最強の犬にしてやろうじゃないか。
俺は電気鼠で有名なゲームでも一番最初の街の雑魚モンスター狩りでレベリングする完璧主義者だからな。
この世界でやらなきゃいかんことが増えたぞ。
「本当か!? 良し。先にパーティ登録しよう! もう逃がさんからな!?」
「ぐぇっ……おいっ! 放せっ! ……足が付いてない…………苦しいっ……。」
「言い訳を聞こうじゃないか。」
「すまない。嬉しくてつい……。」
「黙らっしゃい、ぼっち狼!」
「えぇー……。」
襟で掴み上げられた挙句にぶんぶん振り回される恐怖なんか知りたくなかった。
しかも、ハッスルしたこいつは俺を引っ提げたまま受付嬢に詰め寄っていったのだ。頭を抱えてカウンターの下に隠れた彼女は悪くない。
泣きじゃくる彼女を宥めすかして何とかパーティ登録した頃には、ギルド内から悪魔でも見るかのような目を向けられていた。
でも、他の受付嬢もさっさと逃げだしちゃったんだから仕方ないじゃないか。
ま、依頼書を取りに行く時、モーセの伝説の様にいかつい顔した冒険者が左右にザーッと割れたのは爽快だったけど。
「もう大体分かったが、お前は勢いで行動して失敗するタイプだな。」
「うっ……。」
受注した依頼もCランクの討伐クエストだ。確かに俺はそんなレベルの仕事くらい簡単にクリア出来るが、まず相談するべきだろう。
大人しく“おすわり”したアッシュが耳を伏せてしょぼーんとしてる姿を見てると、正に犬を虐めてるみたいで気分が悪い。
仕方あるまい。
「もう良いさ。終わったことはどうにもならん訳だし、受注した依頼も【特急】だ。」
「ああ、内容は見たか?」
「王都特産のストーンツリーが生える山に侵入したハイゴブリンとオークの討伐。報酬は良い額だな。」
「もう犠牲者が出て、今も困っている人々が大勢いる。」
まぁ、そこは良いんだが。
ハイゴブリンもオークも群れる習性からCにされてるけど、単体は精々DとD+程度だし。
まぁ、ささっと片して今日の宿代にすればいい。
問題は、だ。
「お前、装備は?」
「着ているじゃないか。」
「獣人用のレザーアーマーを腰回りだけな。」
股隠すためだけに着てるだろ。服と装備の違いくらい分かってんだろうな?
これは依頼に行く前にアッシュの装備を整えないといけなそうだな。Cランクで装備を整えてないなら、さぞかし金が余ってるだろう。
軽銀クラスの装備で一式くらいがレベル相応だな。
「先ずはお前の装備からだ。お前ならオーク相手に装備は要らんが、こういうのは出来る時にきっちりするもんだ。金は幾ら持ってる?」
「2090G。」
「全財産だ。」
「だから、2090G。」
……どうしてっ……どうしてなんだっ!! こっち来てから貧乏ばっか!!
リーブラ所持金520G
アッシュ所持金2090G
なんか深夜のテンションで書いた四話が気に入らなかったので最後の方を修正。
読み専の方でも感想書けるようにしました。