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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
第二部
40/57

Ⅱ ロズリンの秘境

――……ロズリンの地下迷宮入口。

 巨大な扉を前にしたリーブラたち四人は吹雪から外套で身を守りながら、前情報とは違う扉の姿に双眸を鋭利なものした。

 見上げるほどの高さと広げた腕より厚い金属の扉が切り抜かれていたのだ。

 顔が映り込む滑らかな断面からどれほどの切断力でそれが行われたのか、想像を絶すると言っていい。


「……先客がいるとは思わなかったが、随分とキレた奴らしいな。」


「何にせよ、これを開く手間が省けたのは助かるではないか。」


 大穴から侵入した先は土中とは思えない明るさに驚いたリーブラはフードを外して空間を見渡した。

 彼の感覚では壁面から魔力が滲み出しているように捉えられている。

 詳しく調べていない彼には原理が分からないが、鉱物が魔力と反応して光源になっているらしく、正に星空を見ている気分にさせる嫋やかな輝きを放っていた。


 先頭に立って歩を進めるアッシュが辺りに散らばる魔物の死骸を検分して、棲息している種類が情報と違いないか確かめていた。

 特定の種類を狩るように特化している訳ではないが、あらかじめいると分かっていることは大きい。


「スモーバイトに相違ないな。」


「まだ一階だからな。折角ロールアウトしたんだ。試してみたらどうだ、ノノ?」


「そうねぇ。じゃあ、行こうかしら……って、冷たっ!? 床冷たァ!!」


 クラリッサスの胸の谷間から頭を出していたノノは外に出ると、凄まじく冷たい床に小踊りさせられながらも先頭に出た。

 まだ気付かれていないようだが、少し奥から魔物が歩き回る足音や気配が感じられるのだ。

 気を引き締めたノノは首から下げたプレートに魔力を流し込む。


『召喚・アンセスターレオン!!』


 刻まれた魔法陣が前方に投射され、彼女はそれを突き破らんばかりに跳躍した。

 深いブルーの魔力光を発して陣に突入し、先に抜けるかと思われたが、現れた姿はまるで違っていた。

 毛皮ではなく平坦で硬質的な鋼の肉体、揺らぎのない黄金のツインアイ。


 地響きを立てて姿を現した巨大な獅子は声帯も肺も持たないその躯体で、大気を震撼させる《咆哮》を上げた。

 それは正しく敵には畏怖を、味方には鼓舞を与える。


「改めて駆動してる姿を見ると圧巻だな。」


「私が最後に見た時と大きさが……。アッシュより大きくなってる。」


 ランクとしては中級のウーツ鋼とトルマリンの装甲だが、特筆すべき点として状態異常や呪術を始めとした魔法攻撃への抵抗力が高い。

 つまり、物理障壁さえ展開できれば防御力は補うことが可能で、逆に操り手は物理障壁に専念できるとも言える。

 もちろん、物理にしろ魔法にしろ防御力を超える攻撃には耐えられないが……。

 それでも中級攻撃魔導ならば直撃しても三発までは耐えられる設計はされているので、戦闘で壊されるとしたら相当な敵が相手だ。


 アンセスターレオンの胸部に設けられた操縦室にいるノノは平時より高い視点で奥の空間を注視した。

 瞳孔が散瞳したことで薄暗い空間を見通せている彼女には続々と集まってきている魔物の姿がはっきりと見えている。


「(初陣ねぇ。ふふっ! 行くわよ、レオオォォォン!!)」

『ーーーーーーーーーッッッ!!!!』


 風の様に走り出したアンセスターレオンは瞬く間に群れの中心に到達した。

 暗闇で視覚器官が退化した兎の魔物は無数の乱杭歯が見える顎を大きく開いて飛びかかってくるが、鋼の爪がそれらを阻む。


 《スモーバイト》という兎型の魔物は大きな口腔内に鋭い牙を持ち、唾液には毒がある。

 闇に適応したのか、目がなくなり、胴体に顎が直接生えたようなグロテスクな見た目は、狩り易くとも苦手にする冒険者が少なくない。


「(凄いじゃない! 寸分の遅れなく思考を追ってくる!)」


 飛びかかってくるスモーバイトを叩き落としたアンセスターレオンは脚を止めずに他の個体に食らいつく。

 無慈悲な牙が肉を引き裂き、強靭な四肢は駆ける度に走行先の魔物を踏み潰していくのだ。

 瞬く間に血の海が広がっていく。


 その光景を眺める三人は追い散らされたスモーバイトに止めを刺しながら、次の移動経路を探索していく。

 ここのように精巧な柱の造りや石床、各所から高度な文明の残滓を匂わせる秘境は多く、その文明の創造者については全てが謎に包まれている。


「それにしても随分ノノは張り切ってますね。そんなに自らも戦いたかったのでしょうか?」


「ああ。操縦席には調整したバーサクが発動するようになってるからな。」


「はい?」




「(昂るッ……昂るわッ!!)」




「大丈夫なんでしょうね……?」


「ぬかりは無い。」


 今なお暴れ回るアンセスターレオンを一瞥したクラリッサスの頬が引き攣り、リーブラに咎める視線が向けられる。

 何処吹く風といった様子で見渡す彼が仕掛けたものが何なのかは分からなかったが、夫の性格からしてろくでもない所業だろうと当たりを付けた彼女は溜め息を吐いた。

 真面目に研究してはいたらしいが、副産物で意味不明なものを作り出していたことも知っている。

 実験に巻き込まれて数日間の記憶がなくなったり、精神と肉体が入れ替わったり、とんでもない目に合わされても来た。

 流石の彼女もそういったことでは全く信用していない。


「む? あそこは何処かに通じていそうだな。」


「魔力の流れもある。そこから入るぞ。印をつけ忘れんなよ?」


「ノ……。」


 グチャリと水気の多い炸裂音を立てて足元に赤い花を咲かせた鋼の獅子が死体しかない辺りを見渡した。

 しかし、もう動く魔物は一匹も残っていないのだ。


「丁度終わったな。」


「何てモノを作り出してしまったの……。」

リーブラ所持金16820G

アッシュ所持金9430G

クラリス所持金54920G

パーティ所持金535170G

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