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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
第一部
32/57

拾肆話 御利用は計画的に(図面から)

 明くる日の朝、リーブラとクラリッサスの口から結婚の話をされ、食卓が静かな驚きに包まれたこと以外何事もなく。

 今日は休みにする、とリーブラが決めてからはまったりとした休日を楽しんでいるようだった。

 そして、リーブラはブラックと装備について相談があるらしく、食堂に図面を広げて話し込んでいた。


「完全自由に図面を引けるってのも厄介なもんだな。」


「だね。ホントに腕次第でどんなものでも作れちゃうから。」


「取り敢えず脚部はこれでいいだろう。甲に鱗を使ってヒールは牙を削り出す。」


 妙に手馴れた手付きで設計図を書き出し、細かい数字を記入していく彼らは手甲の図面を引き出した。

 が、そちらは二種類あり、片方は防御力を重視した大きいもので、もう一方は腕に沿った細いフォルムで取り回しのいいタイプのものだ。

 ああだこうだと議論していた彼らは一先ず後回しするつもりなのか、脇によけて紅茶を口にした。

 クラリッサスのような魔法職の装備というのはどこまで鎧の類にするか難しい。

 基本は強力な布で衣類を作る。


「胴は尾の先の方を使って、上に弓の胸当てみたいのを合わせたらどうだろう?」


「なるほど。肩はいずれ動作詠唱の邪魔になるからいいアイディアだと思う。肩で吊ることになるなら……。」


 腹部を一周して覆う上に革を何枚か重ねたもので胸当てにすることが絵にされ、留め金の位置や防御範囲の調整がされていく。

 結果的に背中を大きな鱗を一枚使って鎧代わりとすることになった。

 言うまでもないが、ワイヴァーンの革や鱗というのは物理・魔法のどちらにも強い耐性を持つ素材である。

 更に付け加えると、炎属性特化・耐性と風属性耐性を持った個体の加護も付く。


「頭はどうしようか? 兜は無理だろうし、フードもつけるとこがなぁ。」


「あれはどうだ。ケープじゃなくて……あの、頭にフワッとしとくの。」


「あぁー……あの、アレか。でも、それこそ飛んでっちゃうから、何か髪飾りみたいの作っとくよ。僕からの結婚祝いってことで。」


「む、じゃあ、任すわ。」


 ここから実際に作り、諸々の調整まで終わるには相当な期間が必要になるのが常識だ。

 しかし、ブラックは工房に入って二日で仕上げてしまうらしい。

 それでも以前はその場で作ってしまうことができたのだから大変な方だと本人は語っているのだが。

 ちなみに、アッシュの装備は要望を聞いてから昨晩の内に設計図を引き終わっているそうだ。


「あのさ、試したいことがあるんだけど、協力してくれないかな?」


「内容は?」


「装備を魔法職のゴーレムみたいに召喚して装着できないかなって。魔法使いがいないから試しようがなかったんだけど、今ならリーブラいるし。」


「面白そうじゃん。俺もいつか召喚の研究はしようと思ってたし、繰り上げてそっちの研究進めるか。」


 羽ペンの先で首をくすぐっていたリーブラは引いた椅子に深く腰掛けて長い溜め息を吐き出し、魔力を循環させ始めた。

 彼の目の前に顕現させられた魔法陣は赤の魔力光を放つ。

 それを見たブラックは少し首を捻って腕を組んだ。

 魔法陣を消したリーブラは羽ペンにインクを着け直して魔法陣をサラサラと描き出すと、それに線を引いて説明を書き入れていく。


「魔法陣は大きく分けて三つに分けられる。術式の名前や属性などが記されている外縁部、詠唱された文言が入ってくる中間、未だ未解読の恐らく制御コマンドの謎の記号が記される中心部。」


「…………そんな長い時間あったわけじゃないだろうに良くもまぁ。相変わらず“中身”に強いね。」


「まぁな。で、心当たりあるか? 恐らく古代言語か魔法言語ってのがセオリーじゃないかと思ってるけど。」


「ごめん。生憎とほぼ引きこもりだったから全く分かんないわ。」


 ブラックの答えも予想していたのか、肩を竦めて見せたリーブラは落胆した様子もなく背もたれに体を預けた。

 元より自力で解読するつもりだったものなのだ。

 予定通り資料を集めて知識を集めた後にじっくりと研究して、魔法を丸裸にしてやればいいだけ。

 魔法陣の研究さえ終わってしまえば、後は魔法の開発や改造が自由にできるようになるはずだというのが研究してきた彼の見解だ。


「入るわよぉ?」


「ん? ああ、お前か。」


「ノノさんだっけ? 獣人でもないのに喋る猫なんているんだね。」


「私は特別。それでリーブラ、ゴーレムを教えてくれるって話はどうしたのよぅ?」


 早足に膝の上に乗った彼女は前足でグイグイとリーブラの顔を押しやって不満を伝えた。

 それから顔を背けて逃げる彼は記憶を遡り、そういえば要塞都市にいた頃そんな話があったな、と得心する。

 如何せんワイヴァーンと戦う前の話で、すっかり忘れてしまっていた。


「…………そんな話もあったな。んーむ、ちょうど一段落ついたことだし、休憩がてらノノにゴーレム技術を教えるか。」


「刻印については協力できるよ。当然傀儡も教えるんだよね?」


「ああ。じゃあ、先に頼むわ。夜には帰るんだろ?」


「やっぱ自分ん家が一番リラックスできるからね。やりかけのも工房に置いてきたし。」











「あ……まぁ、いいや。紅茶と甘いものを持ってきてくれ。俺とブラックの分だ。ノノは……ミルクでいいだろ。」」


「 畏 ま り ま し た っ ! ! 」


「そんな声張らなくていい。もっと静かに。」


「畏まりましたっ!」


「うん……うん…………。」


 流石のリーブラもニコニコと愛嬌のある笑顔を浮かべるリコッテに五月蝿いとは言いづらかったのか、何も言わずに引き下がった彼は居間へと踵を返した。

 何がそんなに楽しいのか、上機嫌で鼻歌を歌いながら薪の火を煽った彼女は汲み置きの龜からケトルに水を汲む。

 暖炉の中にケトルを掛け、干した果物を混ぜて焼いたスコーンを取り出して茶葉の用意も手際がいい。

 よく阿呆だと思われる彼女だが、仕事に関しては人並み以上に熟す面もある。


「えーと、リーブラ様がストレートで、ブラック様がミルクと砂糖だから……。」


 それぞれに適した紅茶の淹れ方があり、彼女はそれを思い出しながらミルクを用意する。

 勿論、ノノのために少し温めたものも作っておく。


「リコッテ。」


「はいっ? ああ、ライカちゃんですかっ!」


「私は洗濯をしてきます。屋内のことはしばらく任せていいですか?」


「平気ですっ! お洗濯お願いしますねっ!」


「ええ。」


 笑ったままケトルを見詰める彼女は適当な頃合を見てミルクを引き上げる。

 続いてケトルも引き上げてカップに熱湯を注いでおき、高い身長を活かしたジャンピングでポットに注いでいく。

 ちなみに、ライカはポットを手に持って下げるか、椅子に乗らないとあまり高さは出ない。

 素早くポットに蓋をしておき、カップの温まり具合を見て熱湯を捨てる。

 後は渋くなる前に素早く主人の元へ運んで淹れるだけだ。


「 紅 茶 が 入 り ま し た よ ー っ ! ! 」


 今日もリコッテはビュンビュン歩く。

リーブラ所持金140G

アッシュ所持金510G

クラリス所持金16230G

パーティ所持金4857119G

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