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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
第一部
31/57

拾参話 運命の夜

 全員で食卓を囲んで賑やかに夕飯を済ませると、それぞれは自然と居間へ移っていった。

 やはり寛ぐならばそこだという意識があるのだろう。

 アッシュはブラックとウマが合ったらしく、出会って間もない割に話を弾ませていた。

 今は装備に関しての要望を色々と伝えている。

 ノノは暖炉の暖かさがいたくお気に召したようで、リコッテを座らせて膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしていた。

 いきなり倍の人数になっても互いにぎくしゃくせず、すんなり打ち解けられたのはリコッテの能天気さが上手く働いた点が大きい。

 ゴルドーの屋敷ではかなり浮いていたらしいが、家事を担当してくれる仲間という認識のリーブラたちの中では自然と馴染んだ。


「紅茶をお淹れ致しますか?」


「いや、居間の連中に持ってってやってくれ。俺たちは少し二人で話をする。」


「畏まりました。御用の際はなんなりとお申し付けください。」


 食堂に残っていたリーブラとクラリッサスについていたライカは頭を下げ、静かにその場を後にした。

 扉が閉まる音が響き、二人きりになった彼らはしばらく口を開かなかった。

 パチパチと暖炉の薪が爆ぜる音と、時折積もった雪が落下する鈍い音が部屋を満たす。

 穏やかな時間の中、上座に座っていたリーブラは右前にいるクラリッサスの手を握った。

 緊張しているのか、少し俯いた彼女の耳に朱が刺していく。

 少し冷たかった彼女の手が急激に熱を持ち出したことが、手のひらで分かる。


「……………………。」


「……………………。」


 彼は、昏睡から目覚めた後、ずっと彼女のことを考えていた。

 好意を、恋愛的な好意を彼女から向けられていることは考えるまでもなく分かっていたことだったが、それが自分しかいないからではないかと思っていた。

 今までの人生を失い、彼女が選べる選択肢の中で自分が一番マシだからなのではないか。

 もしくは、新しい世界に足を踏み入れた時の興奮を勘違いしただけではないか。

 焦っていた彼女の好意を信用できなかった彼は、今までのらりくらりと躱して誤魔化してきた。

 その内、どこかで好きな男を見つけて、自分はその相手に任せて去ればいいと。


 しかし、状況は変わった。


「暖炉の前で話そう。」


 小さく頷いた彼女に先んじて暖炉の前に椅子を動かすと、隣に彼女も腰を下ろした。

 ゆらゆらと不確かに揺れる炎を見詰めながら、彼は言葉を紡ぎ始める。


「分かってはいると思うけど、話というのは結婚についてだ。するかどうかは俺の話を聞いた後に決めて欲しい。」


「答えは変わりませんけど。」


「…………まず、俺はお前が好きだ。下衆な話でアレだが、最初は容姿が好みだった。性格は一緒に旅をして面白い奴だな、と思ったくらいで。」


「今は?」


「え? あー……うん。今は全部好きだ。絆されたというか、アッシュから昏睡してる間はずっと傍にいてくれたって聞いてから一挙手一投足全てが愛おしくて堪らなくて。ニヤニヤすんな。その顔はムカつくわ。」


 チラッチラッとわざとらしい流し目を送ってくる彼女の額に軽い平手打ちをくれ、彼は話を再び話し始めた。


「何か妙に色仕掛けにこだわりだしたのも、俺を振り向かせるためにノノから教えて貰ったんだってな。他にも頑張って平民の生活について勉強したり、一緒にいるために凄い努力したって聞いたよ。そういうとこ知って、本気なんだって分かった。」


「そんな赤裸々に言われると恥ずかしいからやめて下さいっ……。分かりましたから。」


「だから、俺はお前が好きだ。」


「じゃあ……。」


「でも、結婚しようって思ったのは打算かも知れない。あの時、お前が“妃”で、帰るために必要になる可能性を知ったから縛り付けるために利用しようとしてる……。そうじゃないとはっきり否定できないから。」


 床に視線を落とす彼の話を聞いて、クラリッサスは喜びつつも少し呆れていた。

 そもそも家族を見返すために結婚を利用しようと必死になっていた自分にそんな気遣いは無用だと思っていたのだ。

 彼女は政略結婚も知っているし、家の格が劣るからという理由で泣く泣く妾になった女も知っている。

 相手も自分も好きあっている上に利益まであって、彼女からすれば逆に結婚しない理由がないくらいだ。

 クスクスと笑いながら彼の頭を撫で、彼女は椅子の向きを正して正面に向き直った。


「こんな幸せな結婚ができる女性は何処を探してもそういないでしょう。つまらないことで悩んでいたのですね。」


「まだ全部言ってない。故郷に帰ったら俺は全く違う外見になるし、あっちは此処とは何もかも違う世界で苦労することに……。」


「もう……くどいですよ。外見で好きになったのではありませんし、苦労なら今までも散々してきました。でも、ちゃんと連れて行ってくれるつもりなのは嬉しいです。」


 まるで迷いのない彼女の笑みに脱力した彼は、深い息をしてから背筋を伸ばして彼女と向き合った。

 暖炉の火に照らされた二人の影が長く伸びる。



「貴方を心の底から愛してます。俺と結婚してくれますか?」



「喜んでお受けします。これからはクラリスと、お呼び下さい。」

























































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