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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
第一部
28/57

拾話 扉は静かに開閉しましょう

「旦那様は私共に任せてお寛ぎ下さい!」


「ご、ごめんなさい。」


「尻尾が埃を散らかしてしまいます! 歩き回らないようお願いします!」


「うぬ……面目次第もない……。」


「お召し物に泥が跳ねますから下がっていて下さいまし!」


「えっ、あっ? そうなの、ね?」


 鬼気迫る使用人たちに追い出された役立たず三人組は庭から掃除風景を眺めて立ち尽くした。

 ゴルドーからは二人の使用人を譲ってもらったが、更に四人は今日限りでサービスされている。

 屋敷とは言えないまでも、大きな家とは充分に評価できるため、二人では手が足りないだろうとの気遣いだった。

 六人の使用人たちが家を見て絶句した後、今日中に住めるように凄まじい勢いで掃除に取り掛かると、見る見る内に綺麗になっていく。


「任せておけば必ず綺麗にしてくれますよ。私たちはその間に職人の所へ行きましょう。」


「そうだな。俺たちがいても邪魔にしかならなそうだ……。」


 ゴルドーの馬車は荷台がなく、人だけを乗せるタイプのものだ。

 自ら商品を運ぶ商人と違い、都市内で商談を主にする彼はそれで充分なのだとか。

 全面板張りの馬車と違って、クッションの効いたシートがあるそれをクラリッサスとノノは羨ましそうにしていたが、リーブラとしてはすぐに飛び出て戦えないそれは不便に見えた。

 勿論、それも商人には関係ないため、需要の問題でしかないのだが……。


「少し二人で話をさせていただけませんか、リーブラさん。」


「……ええ、構いませんとも。」


 問題ない、と仲間を目で制したリーブラは少し車高が高い馬車にひらりと乗り込んだ。

 御者が扉を閉め、室内は花の香が淡く漂う静かな空間として完成する。

 斜向かいにリーブラが腰掛けたことを確認したゴルドーが御者に合図を出すと、馬が鳴いて馬車が動き出した。


「さて、ようやく腹を割って話せそうですな。」


「互いに語ることができれば、ですが。何やら私に聞きたいことでもありましたか?」


「それはもう、山程。」


 和気藹々とした空気は何処へやら。

 ピリピリとした挑発的な視線をぶつけ合う二人は柔和な笑みを凄絶なものへと変えていた。

 耐性のない者なら縮み上がってしまうこと間違いなしだ。


「南の要塞都市で貴方がたがワイヴァーンを討伐した日……。要塞都市の近くで天まで届く青い柱が現れたことが帝都でも確認されています。

 市井ではワイヴァーンを倒した魔導だとか言われていますが、アレがそんなものであるはずかない。一体何なのですか?」


「さぁ? 私たちも見ましたし、驚きましたが……。流石に理解の範疇を超えていますよ。」


「…………白を切りますか。まぁ、今はそれでもいいでしょう。しかし、アレの正体をについて調べている者がいると良く耳にします。

 気をつけた方がいいと思いますよ? 何でも魔力を使い果たして昏睡していたそうじゃあないですか。」


「中々世俗に詳しいようで。しかし、幸運にも命を拾いましたから、いきなり竜に襲われたりしないよう祈っていますよ。」


「北方の守りには陛下も力を注いでいますからな。よほど高位の竜でもなければ抜けられますまい。」


 ニマァ、と唇を吊り上げた二人の顔は上半分が真顔でピクリともしない。

 時折揺れる馬車の中、歪な笑顔を突き合わせた二人の気味の悪さと言ったら鮮血に塗れた墓地にも匹敵しかねないだろう。

 先に動いた方が負けと言わんばかりに動かない彼らは根本的に同種の類だと気づいているのかどうか。

 もしくは気づいていて認めたくないのかも知れないが。


 どう見ても二人揃って変人だった。











「(くっそ……目が渇いちまったじゃねぇか。)」


「(癇に障る若造め。一端に張り合ってきおって。)」


 目を瞬かせて馬車から降りてきた二人に奇異の視線が突き刺さるが、自然に無視しながら笑顔が取り繕われた。

 後ろを追ってきた馬車からはノノを抱いたクラリッサスと大きい木箱を二つ担いだアッシュが降りて、彼らの前にそびえる石の壁を見上げている。


 アッシュより五割増しの高さの壁からは何故か剣が生えていた。

 中にはそれとなく赤い跡がついたものも見受けられ、禍々しい様相を呈している。

 それが敷地を囲って延々と続き、訪問者を拒んでいるのだ。

 唯一、出入り可能と思われるのは、覗き窓が付いた分厚い金属の扉。


「この目がイカレてなきゃこの扉は凄まじく強化された上に高度な刻印を付与されたダマスカス鋼で、Bランクの魔物にすら通用する逸品なんだが。」


「慧眼ですな。」


「扉になってんすけど。」


「扉になってますな。」


 木目のような模様の茶色い鋼をゴンゴン叩いたリーブラは密かに鑑定を使って愕然とした。

 とてもではないが、扉になっていていいものではない。

 本来なら武器なり防具なりにされて、プレイヤーたちの憧れの的になっているようなレベルだ。

 勿論、この世界の鍛冶師が作れるはずもない。

 彼の心臓が五月蝿く鐘を打ち始めた。


「(まさか……いや、でも……あいつだったら? ダメだ。望むな。違ってなきゃいけない。)」


「誰だぁ? 人様の家の戸をガンガン殴りやがるのは。ぶっ殺されてぇかァ?」


 唐突に押し開かれた扉。

 ダマスカス鋼の扉は正面に立っていたリーブラの額へ吸い込まれるように迫り、重く鈍い響きを立てて強かに打ち抜いた。


「お、悪いな。大丈夫だっ……た………た…………?」


「…………ヨォ、マタ会エテ嬉シイゼ。ブチ殺サレテェカ?」


「すいません。調子こいてました……。」

リーブラ所持金6020G

アッシュ所持金510G

クラリス所持金16230G

パーティ所持金4947119G

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