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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
第一部
22/57

肆話 不吉な羽撃き

「ゴーレムを会得したい?」


「ええ、それができれば私も戦闘に参加できるようになるじゃなぁい。だめかしらぁ?」


「いいんじゃね? 属性魔術覚えたいとかぬかすよりは遥かに。」


 睡魔を払って機嫌が良くなったのか、リーブラは朗らかな表情で麺料理を胃に収めながらノノをわしゃわしゃと撫でた。

 対面して座るクラリッサスも魔術には興味津々といった様子で話を聞いている。

 ゴーレムを使役するには二通りの方法があり、それぞれ会得できるのは魔法職と生産職だ。

 魔法職は《召喚》。

 生産職は《傀儡》。

 それぞれ長所と短所があるが、一流のゴーレム使いはどちらも会得する。


「俺は《召喚》しか使えない。物にしたいなら何処かで刻印師にも習わないとな。」


「そうねぇ。腕のいい刻印師がいるといいわぁ。」


「あの!」


「お前はダメだ。まずは魔術を修めろ。」


 ぴしゃりと言い付けたリーブラは浅く溜め息を吐いて頬杖を突いた。

 以前なら、彼には優れた刻印師の知り合いが何人もいたが、今は目の前の三人のみが知り合いだ。

 自然と拠点が近い名前をピックアップしていた彼の胸に重苦しい不安が広がる。


「ところで、言いにくいことなのだが、つい先程から群れとの繋がりが切れているように感じる。逃げたか、乗っ取られたか、どちらにせよ今度は馬を買わなければならぬやも知れん。」


「あぁ……ま、使い始めたばっかにしちゃ保った方だろ。適当に実入りのいい仕事受けるか……。」


「帝国領内で実入りのいい仕事……ですか?」


 帝国で高収入の仕事と言われて、誰もが思いつくのは《ドラゴンスレイヤー》だろう。

 危険度・収入が比例する世界一死亡率の高い仕事である。

 竜災で有名な帝国にいる一流の冒険者でさえ可能な限り避け、掲示板の依頼書は“装飾”と揶揄される代物。


 三対の瞳が不安げにリーブラを見詰める。


「……ん? 何だ、その目は。」


「リーブラ、まさかドラゴンを狩ろうなんて言い出すつもりでは……。」


「馬鹿言え! いいか? まずドラゴンは空を飛ぶ。その上、高位魔法級のブレスをバカスカ吐きやがるし、半端な攻撃は通らないくらいクソ硬ぇ。今のアッシュの速度なら余裕で反応するだろう。」


「「「…………。」」」


「ドラゴン殺るなら限界まで仕上がった面子が五人以上。敵の“位”次第じゃ二十人を超すか……。」


 二人と一匹がポカンと顎を開いて固まった。

 肝心のリーブラがどこ吹く風で食事を進める姿を見て、我に帰ったら料理を口にするが、一口根菜を食べたクラリッサスがフォークを置いた。

 モゴモゴと咀嚼する犬猫コンビは不思議そうに彼女へ視線を移す。


「何でそんなにサラッと流しているのですか!? 明らかにドラゴンと戦ったことがある口ぶりですよ! ドラゴンと戦えるほどの冒険者と言えば間違いなくAランク以上のはず……おかしいじゃないですか!!」


 アッシュとノノは困った様子で首を傾げ、当事者のリーブラはぴくりと眉を上げたきり食事を再開した。

 さしたる反応も返さない仲間に気を害したのか、机の下で彼女の脚が動いた。


「キャインッ!?」


「蹴られたか。」


 飛び上がったアッシュに哀れみの目を向けたリーブラは椅子の上にあぐらで座り直した。

 アッシュは届かない位置に遠ざかって逃げる。

 剣呑な視線が追いかけていくと、彼は頭を掻いて微妙な表情を見せた。

 今更言うまでもなく彼は頭を使うことが苦手であり、変だと思っても気にしないからだ。

 答えが期待できないアッシュを諦めた彼女はテーブルの上を見るが、ノノが消えていた。

 しかし、視界の端、リーブラの膝の上辺りだろう。

 縁からひょこりと黒い耳が覗いている。


「ノノ、貴女はどう思いますか?」


「! さぁ……そもそも私は人族の文化を知らないからぁ。」


「…………本当にドラゴンと戦ったことがあるのですか?」


「あるけど、別に功績は残ってないし、俺の経験が蓄積されてるだけだ。」


 変な話だが、ギルドも知らない様子で、クラリッサス自身もそんな冒険者がいるなどと聞いたことはなかった。

 ドラゴンと戦ったこと自体が嘘なのか、その戦いが誰にも知られないものだったのか……。


 結局、真実でも嘘でもリーブラの力が変わることはない。

 彼はいつでも圧倒的な力を見せていたのだから、見たままを信じて戦っていくことが最善である上、彼が勇者の一行に混じってドラゴンと戦う姿が何故か想像できた。

 クラリッサスは眉間を揉みほぐしてジロジロと彼を眺める。


 相変わらず、作り物のように整っていて、どこか無機質な顔だった。


「さ、そんなことより仕事だ、仕事。明日からは馬買うために馬車馬のように働くぞ。」











「遭遇したら余計な傷をつけるなよ? 肉と毛皮の売価も稼ぎに入れてるんだからな。」


「魔物と遭遇したらそんなことまで気を遣っていられませんよ。」


「遣え。漫然と狩ってるだけじゃ大した経験にならねぇぞ。」


 深夜の間に馬を借りて馬車を走らせ、早朝から狩りに入る強行スケジュールになっている彼らだったが、それにも慣れたのか疲れの色は見えない。

 先頭を歩くアッシュは風を嗅ぎながら、臭いが濃い方へと歩いていく。

 彼らが標的にしているスティールゴートは魔力に極めて敏感であり、一定距離より外で感知すると一目散に逃げ出す厄介な習性がある。

 その代わり鋼の毛皮やそれを支える骨、守られてきた肉も非常に高値で取引されるのだ。


「ぬぅ……何なのだ? 残り香ばかりで生きた臭いがまるで感じられん……。」


「あっちにバレたのか?」


「いや、それならば尚更濃く残る。これは大分前に去った残滓で間違いない。しかも、スティールゴートだけじゃない……。あらゆる魔物、生物が消えている。」


「…………おい、嘘だろ……? 収入なしで帰るなんて冗談じゃない。どうなってやがる。」


 魔力の波が放出された。

 赤茶の地肌を舐める様に走る魔力が瞬時に辺り一帯を隈無く走査していく。

 リーブラの脳裏にグリッド状マップが作り出されるが、そこには魔力を持つものの存在はない。

 彼の眉間に深い皺が寄った。

 明らかに苛立っている彼からさり気なく距離を取ったクラリッサスは余剰魔力がスパークする様を見て笑みが強張った。

 幸先の悪い仕事に嫌な予感がし始める。

 帰ろう、と提案するために意を決すると同時に、アッシュの緊張著しい唸り声が響いた。


「かえ―――。」




「ドラゴンだッ!!」




「「ーーッ!?」」


 敵を知らせる怒号すら掻き消す突風を引き連れて、巨大な影が通り過ぎた。

 空を振り返った三人の視線の先で、ひらりと反転したそれは鉄を引き裂いたような鳴き声を上げた。

 《看破》を発動したリーブラの瞳が紅く発光する。


「あれはワイヴァーンだ! 弱ブレ斬乱炎炎耐風!」


「何っ? 何だって!?」


「じ、弱ブレ……。えっ?」


「ああ、くそ……。通じねぇのか。弱ブレス・斬撃の風・乱気流・炎属性特化耐性・風属性耐性のスキル持ちだ!」


 獲物を見定めていたのか、一時浮揚していたワイヴァーンは荒々しく羽ばたいて飛来した。

 あっという間に接近してくるワイヴァーンの顎から朱の炎が噴き出す。

 萎縮した二人を背にしたリーブラは大地を焼き払いながら迫るブレスに杖を突き出した。

リーブラ所持金6020G

アッシュ所持金510G

クラリス所持金16980G

パーティ所持金59409G

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