十五話 戦闘訓練・目標物防衛
いきなり現れた黒猫は聖域の魔力を与えられた霊獣のような存在らしい。
森の魔力を扱うために生み出されたとか何とか。
そんなことより、俺はこの猫を使い魔にしたいんだが。
やっぱ魔法使いの使い魔といったら喋る黒猫だと思うんだよね。
ゲームじゃ幾ら探しても見つからなかったロマン装備最後の一つ。
何としても欲しい。
「…………何かいけないことを考えてないかしらぁ。」
「さぁ? それより聖域の防衛って何から守ればいいんだ?」
「森の魔物全てからよ。聖域の魔力を欲しがる魔物は力の弱まったここへやって来るわぁ。既に魔石を三つ奪われてしまって……。」
口ぶりから察するに、強力になった魔物が出てくるんだろうな。
平均Eランクのエリアなら強くなってもCの下っ端くらいかね。
防衛自体はさほど難しい訳じゃないからいいわ。
むしろ、ガッツリ稼げるいい機会。
「聖域の回復はできるのか? 永遠に守り続けるなんて無理だぞ。」
「あらぁ、大丈夫よ。御柱が魔川の魔力を汲み上げて魔石を直すの。そうなれば魔物なんか近寄れなくなるわぁ。」
「魔川から魔力を汲み上げる技術は筆頭魔導師が挑んでは夢破れていった難題なのですが……。」
要は一定期間援護なしで防衛しろ的なクエストね。
余裕でしょ。
強化された魔物対策に幾つか強いのストックしとけば後は的当てみたいなもんだ。
一面はアッシュに任せればいいし、撃ち漏らしを何匹か使ってクラリッサスを鍛えられる。
問題はこの黒猫をどう引き抜くか、なんだけど……。
最悪の場合は勝手に連れてくしかないかね。
「よし引き受けた。アッシュは俺の背面を任せるぞ。クラリッサスは正面で死にきれない奴にトドメを刺してればいい。」
「任された。」
「ええ、分かりました。」
「敵はいつ来るんだ? 今は聖域の力で遠ざけてると思ってたが……。」
「もう直ぐよー。今聖域の力を解いて魔力を溜め始めたから。」
そういうことするなら先に言ってからやれよ。
どれどれ……? ああ、確かにこっちに向かってきてるか。
とは言え、そんな上級のフィールドじゃないから魔物は纏まってこないな。
精々が四、五匹重なるくらい。
その数なら練習になるから、俺は雷属性の初級魔法でスタン稼ぐ仕事しよう。
ついでに雷属性の中級魔法を手早く四つストックしておく。
「(ふーん……森中の魔物が来てるのか。)」
来るまでにバフでもかけてやるか。
久しぶりに全詠唱で……あんまり暴れられても困るし、防御だけでも充分だよな。
一撃必殺じゃスキルも上がらないし。
最悪、攻撃受けそうなら障壁で止めちまえ。
「そいじゃ、撃ち易いとこ……そこにするか。よっ! しょっと……うわ、ちょっと高いな。」
「どどどどこに乗ってんのよ、無礼者ぉっ!! 御柱を踏ん付けるなんて不敬も不敬っ……貴方が先に死ぬべきよ!!」
『紫電よ、血脈を巡れ
我が敵に見えぬ束縛を与えよ
パラライズ』
「だが、効かん!!」
「うにゃーーっ!! 無効化するんじゃないわよ!!」
踏み台にするくらい、別にいいじゃねぇか。
ゲームじゃ破壊不能をいいことに聖堂の像に向かって魔物ぶん投げる前衛もいたんだぞ。
てか、御柱は魔力溜めてるからって自前で撃ったのか。
初級デバフの呪文なんか久しぶり……いや、初めてかな、聞いたの。
初級とか丸裸でも無効化できるわ。
「ここが一番高くて狙い易いんだよ。あ、クラリッサスは魔石の影から魔法撃つんだぞ!!」
「なるほど。心得ました!!」
「ちょっ……本当は守る気なんかさらさらないわねぇ!?」
それは言いがかりだ。これでも相互の利益を守りつつ損害を最小限に抑えようとだな。
あんまり考えてないけど、思ってる。
にしても、ここは涼しいのに陽射しが良い具合に暖かいな。
「…………何て、滅茶苦茶な……。」
突然、幻惑の魔力を跳ね除けて聖域に踏み込んできた三人組。
やたらと巨躯な狼人族は個人的な感情抜きにすれば悪くないわ。聖域に畏れを持っているから。
ヒューマンの女は学術的な興味以外は特に思うことはないようで、よろしくはないわねぇ。
だけど、魔導師。アンタは決定的にダメよ。
神聖な御柱に登ったり、魔石を盾に使うよう指示したり、畏れどころか最低限の礼儀も持ってないじゃない。
頼ったのは間違いだったわぁ……。
と思ったのだけど、私は正しかったかも知れない。
「クラリッサス、次行くぞ!」
「は、はいっ!!」
私が御柱の加護を最大限に使っても何とか追い返すのが限界だったけれど……。
さっきから聖域に群がる魔物はそのほとんどが雷で死んでいく。
絶え間なく降り注ぐ雷を抜けられるのは、人族の女に与えられた贄なのよねぇ。
麻痺して碌に動けない魔物は炎か土属性の初級魔術の餌食。
手にしたナイフで動けない魔物を刺し殺すのだって実に安全。
「初級魔術で腕も上がらないほど麻痺させるって……どんな魔法力よ……。」
私が必死に防いできた魔物の群れを訓練の相手って……泣きなくなるわぁ。
あんなに魔術を行使して何で魔力切れないのかしら?
あれ、人族よねぇ……。
「キターッ! アッシュ、そっちに強化された魔物が一体行くぞ!!」
「ガァウッ!!」
あっちの狼人族も大概だわ。
石の林にいる魔物ほどじゃないけれど……森の魔物もそこそこ頑丈なのよ?
そんな紙切れみたいに……。
これじゃどっちが魔物なんだか分かったもんじゃないわねぇ。
よく見たらあの狼人族……。
ほぼ裸じゃない。
「ガゥルルルルル!!」
「シャアァァァア!!」
あれはっ!? 魔石を砕いたフォレストヴァイパー!!
幾らあの狼人族でも一人で勝てる相手じゃっ……。
『テトラ・サンダー』
「ッ……ッ!?!?」
嘘ぉ……。
一瞬の隙を突いた強力な雷属性の魔術……いえ、魔導かしら。
何て馬鹿げた威力なのよ。当たった時点で終わりじゃない。
四方を囲む位置に出現した雷球が増幅しあった雷が大蛇を灼いてのたうち回らせた。
麻痺した大蛇はもう狼人族にボロボロにされている。
というか食べられてる。
「ん? んん!? 何しれっと食ってやがる!! 革は高いんだぞ!?」
「あぐっ、うむ……はぐはぐ、んぎぎ!!」
「千切るな!! 聞けよ!? あぁー、クソ。次が来やがる……。」
何て緊張感のない戦場なのかしらねぇ。
さっきと同じ雷の魔導が反対側で二発炸裂した。
魔導師の追撃と女の初級魔術が動けない魔物を一瞬で火達磨にしてしまう。
気のせいか女の放つ魔術が洗練されている様な……。
「そっちのリスは気合で削り切っちまえ!!」
もう倒れ伏して何とか息をしているだけのジャイアントスクィルを女に任せるらしい。
魔導師の方は小声で詠唱しながらやたらと長い杖を振りかぶっている。
彼の狙いはフォレストベアーなのね。
ベアー系は耐久力が優れた種族だから、まだそこそこ動けているし、荷が勝つと判断したのかしら?
「って、魔石を狙ってるわ!! 回復するつもりよ!?」
「にゃーにゃーうるせぇな。見りゃ分かるって。」
『ブレード・スワロー』
硬い金物を擦り合わせた様な音と一緒に風が飛んだ。
あれも魔導かしら?
薄緑の風が弧を画いてベアーを襲い、スパッと斬ってしまった。
ただでさえ攻撃を通さない毛皮と筋肉を持ち、さらに魔力を得て強くなったベアーを。
我が目を疑うとはこのことねぇ。
「危なくなったら助けるつもりだったけど……何もできないわ。うふふふ……。」
何十体倒したかね。
もう聖域が血の池地獄だわ。
次の波が来てもよさそうな頃なんだが、どこまで来てるかね。
ちょっと《広域探査》で……。
あ、ヤバイ。いつの間にか囲まれてる。
種族はエイプか。
「バフやるぞ!! 猿に囲まれた!!」
「背中は任せろ。」
俺達を囲んだし、知恵が回るのか。
こっちが気付いたと察したのか飛び出してきやがった。
着地前に二匹仕留めた。後ろでも叩き付けたっぽい音がする。
クラリッサスは後退してる。流石に身の危険を感じたかね。
背中越しに撃ってる魔術が魔石に当たってますよー?
「近付かれても《バレット》でぶっ飛ばせるぞ! どうせあいつらの攻撃じゃマントを通せないから戦え!」
ああ、流石に三方向同時は目が疲れるな。誘導弾使うか。
『ファイアバグ』
『ファイアバグ』
『ファイアバグ』
あっ! これ爆発系だった……。
あっち行け! あっち!
ふぃー、あぶねーあぶねー。無事に猿だけ吹っ飛ばしてくれたか。
魔石に当たったらどうなるかなんて分かったもんじゃないからな。
「群れならリーダーがいるはずなんだけど……。」
それっぽいのが見当たらないな。
生きてる二匹は……今アッシュが一匹にしちゃったけど、普通の奴だしな。
どさくさに紛れて逃げたのか?
いいけど、情けない奴だ。
「きゃあ!! ちょっと……どこ掴んでるのですか!? やめっ……不埒な手を離しなさい!!」
「何遊んでんだよ……。」
『サンダー・バード』
どうやら倒れてる猿がまだ生きてて、不用意に近付いたクラリッサスに掴みかかったらしい。
何に当たったのか知らんが腰から下がない。
それでスカートにぶら下がってるのか。
隙だらけの彼女を狙った奴を始末して、再度探査してみる。
「…………反応なしっ。クエスト達成だ!!」
「うぐぐぐ、離しなさいよーっ……こんのエロ猿ッ!!」
メキィッ!
「うおっ……蹴り折ったぞ?」
「人族にしては良い脚力だな。」
生足見えた。
俺の見間違えじゃなきゃスキルのエフェクトが出た気がするんだけど……。
後で見てみるか。
アッシュのスキルもどんなもんか確認しとかないとな。
思わぬ成長を遂げてそうだし。
《看破》も節度を守ればトラブルになるまいよ。
「ハァ……ハァ……全くっ! 何で私がこんな目に……。」
「乙。無事に初依頼達成だ。」
「そう……私達はやり遂げたのですね。」
「ありがとう。これから聖域に。」
「ほいじゃ、チャキチャキ素材回収すんぞ!! 大漁……大猟だからって雑にやって収入減らすなよ。」
「ああ。」
「やり方が分からないので教えて欲しいのですが。」
「あー、そうか。これも初めてか……。」
「では、私は自分の倒したものから始末しておくぞ。」
「頼むわ。このナイフを使ってだな。」
「このナイフではダメなのですか?」
「それは戦闘用で……。」
わいのわいの
きゃっきゃっ
ぺちゃくちゃ
「(完璧に忘れられたわ……。)」
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