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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
序幕
12/57

十二話 討伐デート

 ストーンツリーの群生地から西方に向かった場所にある山間地帯は魔物の宝庫だ。

 大した素材が採取できる訳でもないというのに、禿げあがった山には多くの魔物が生息している。

 こんなとこで何食って生きてんだ?

 岩か? 岩なのか?


「なぁ、ここいらの魔物は何食って生きてんだろうな?」


「はぁ……はぁ……し、知りませんっ……。」


 かなりバテてきたなぁ。

 王宮の書庫勤務だっただけあり、体力の方はかなりお粗末なものだ。

 それでもここまで着いてきた根性は凄いか。

 まぁ、初めて見る生きた魔物に興奮してたのもありそうだけど。

 流石に山を登り始めて一気に足腰にキたのかひぃひぃ言い始めた。


「そんなに辛いなら運んでやるって言ってるだろ?」


「結! 構! です! 未婚の淑女の誰がそんなはしたない真似するものですかっ……。

 ………………ただでさえあんな醜態を晒してしまったのに……これ以上何かあったら私の白馬の王子様に出会えなくなってしまうじゃない……。」


 いや、その年で白馬の王子様とか勘弁してくれ。腹筋が爆発するわ。

 そもそも滝の様に汗かいてる淑女とかどうなんだ。

 さらっと男を手の平で転がすくらいやってのけないと上流社会じゃ淘汰されんじゃね?

 いや、知らんけど。


 とは言え、ぶっ倒れても困る。

 せめて手くらいは引いてやらんと本当に死んじゃいそうだ。


「ほら、このくらいなら良いだろ?」


「…………まぁ、それなら……。」


 血が巡って桃色に色付いた手を取ると、向こうもキュッと握り返してきた。

 掌は小さくて指も細いクラリッサスの手は頼りない。

 少し力を入れたら折れそうだが、人差し指のたこが働き者なんだと主張している。


「うわ、汗でべちょべちょじゃねぇか。」


「デリカシーってものがないのかしら!? 本当に最低ね、貴方は!!」


「悪い悪い。まさかそんなに汗かいてるとは思わなくて。ほら、喉渇いただろ?」


「ふん!」


 あらら、飲み干しちゃいそうだな。

 そういえば、繋ぎに渡したのも干し肉だったか。可哀想に。

 俺はこの間に一帯の状況でも把握しとうこうかしらん。

 この地形だと面の探査は効率悪いだろうから、一気に《空間探査》で済ませるかね。


『内なる魔力を遍くものへ


 天地に触れる指先となる


   《空間探査》』


 詠唱は何節か破棄されたせいで意味が通じなくなっている。

 中級でも平均辺りのクラスになると完全破棄が出来なくなり、上級は最低の魔法でも殆ど全ての詠唱が必要になる。

 実は高位魔法職に転職していけばいくほどに《詠唱破棄》より《詠唱補助》の方が有用になっていく。

 リリース直後の情報がほとんど無かった頃の魔法職がこれに気付いた後。

 スキル上げのために魔法力が高かったり強い属性耐性があったりする魔物に初級魔法を撃ちまくって狩場が荒れる事件があった。


「(おー……おー、もう近いな。飛行型もちらほら。派手にやればタゲとれるか?)」


「な、何をしたのですか……? 凄まじい魔力の波動が突き抜けていきましたが……。」


「一帯の探査。魔物は直ぐ近くにいるし、歩かなくてよさそうだぞ。」


 隣の山の麓を迂回してノックアントラーが走ってきているのを感じた。

 あらかじめ中級範囲魔法を二つ詠唱して発動待ちさせておく。

 これは《術式保留》の効果で、今は炎の中級範囲魔法と重力の中級範囲魔法がストックしてある。

 正直、ノックアントラーに対しては少し強過ぎる二発。


「見えた。まずは挨拶代わりに一発。」


「一、二……十五はいる……。」


 詠唱を全破棄した炎の初級魔法を三発。

 進行方向を塞ぐように撃ち込まれた火の玉で俺を発見させる。

 狙い通り、進路がこっちに折れた。


「あぁぁ……何てことを……早く攻撃を!」


「まだまだ。射程ぴったりに引き付けてからよ。」


 縦に並んでいた巨大トナカイが左右に列を伸ばしていく。

 突撃体勢だ。

 剣山のような禍々しい角を向けて猛進してくる。

 もう少し……。

 もう少し……。

 発動ラグも考えて、後5秒。

 5、4、3、2、1


『《イービル・プレッシャー》』


 黒い球体が生まれて半秒後、ノックアントラーの群れが直下に入った。

 球体を中心に強力な重力が発生する。

 魔物の巨体が地響きを伴って山肌に叩き落とされた。

 耐えられたものは一頭もいない。

 中には打ち所が悪くて死んだ個体もあっただろう。

 そこへ追撃の、トドメの一撃をくれてる。


『パーガトリ』


 足払いをするように杖を振って攻撃方向を指定する。

 すると、杖が指した先の地面から火が吹き出した。

 更に先でもっと強く、大きい炎が。

 それは連鎖して地上を焼き尽くす煉獄の炎となる。

 這いつくばる魔物を飲み込んだ紅の壁は高くそびえ立った。

 まるで天上への階段にならんとする様に。


「…………何、なの……これは……。」


 断末魔さえ焼いた炎は込められた魔力を使い切ると同時に、ゆらゆらと揺れて霧散した。

 後には黒く焦げた大地とローストされたトナカイが残る。

 熱で気流が変わったのか、旋風が辺りを払っていく。

 しまったな。焼いちまったら肉とかが売れないじゃん。忘れてた。

 勿体無い。


「コンプリート。後はオマケが来るかどうか。」


 もう一度探査してみた俺の頭に辺りの状況が入ってくる。

 ああ、ちょっと離れ過ぎてたか……。

 タゲ取れなかった。

 まぁ、いいや。ちょうど焼肉ができたとこだし、飯にしよう。


「休憩にするか。ノックアントラーで飯にすればいい。どうせ角以外はダメになったしな。」


「え……? ええ、分かりました。」


 立ち尽くしていたクラリッサスの手を取ってまた歩き出した。

 やや下り坂になってるから少し楽かも知れないな。

 炭化した雑草を踏みくだいてるからか、足音がシャキシャキいってる。


「焼け野原を牧歌的な格好の女一人連れてく魔法使い、か。ホントいよいよって奴だな。」


「何を今更……王宮から人攫いした魔法使いの時点でダメでしょうに。」


 その事実は表に出ない予定なんですが……。

 一晩明けちゃったし、流石に無理かねぇ。

 まさか目隠しやら何やらする前にあんな熾烈な抵抗を受けるとは。

 ちゃんとした格好してりゃ普通の女なんだけど、中々どうして中身の方は、だし。

 ああ、ジロジロ見てすみませんね。






「きゃっ……。」


「っと……危ねぇな。そのまま掴まっとけ。」


「うぅ……勘違いしないでよね! 足場が悪いからなんだから!」


 何てことがある筈はない。


 淡々と歩き続けた俺達はノックアントラーの近くに火を起こし、解体した肉を炙って腹を満たしていた。

 味付けも何もないが、野外でする食事は何となく美味い。気がする。

 少し薄めに切った肉を頬張っているクラリッサスも同じように感じていると良いが。

 まぁ、最初は品がないとか散々説教されたがね。


 今はナイフに刺した肉をもきゅもきゅしている。


「なぁ、時間や空間を操る魔術について聞いたことないか? 術でも扱える人でもいい。」


「んー? んぐっ……んんっ! 時間や空間を操る魔術なんて神話や伝説の中のものでしょう? もし実在するなら、それは神の領域に踏み込んでいますね。」


「やっぱ知らないか。じゃあ、過去に違う世界から来たという人間がいたりは?」


「それも聞いたことありません。何です? 貴方はどこか違う世界に行きたいのですか?」


「まぁ、ざっくり言えば。」


 しばらく魔法や召喚士についても聞いてみたが、分かったのは手掛かりはないということだった。

 良くある勇者の召喚やらについても触れてみたが、逆にこっちが説明しなきゃいけなかった。

 俺はこの世界に来た理由も、方法も分からない。

 当然帰る方法も。


「(俺に何が起きたんだ……。)」


「質問は終わりですか?」


「ん? ああ、ありがとう。帰ったら解放する。勿論、俺のことは秘密にして貰いたい。」


「その前に私からも質問があります。」


 ま、ですよね。

 突然誘拐されて散々な目に遭わされた挙句に帰れじゃ、そりゃ納得いかないわな。

 理性的に話せる相手なら聞きたくもなる。

 よかろう。問うてみい。


「まず、貴方は何者ですか?」


「黙秘する。身元を明かせば手が伸びてくる。」


「もう冒険者のリーブラってことはバレてますが?」


「ぬぅ……分かった。名はリーブラ。魔法使いだ。」


 ゴタゴタしてる時にアッシュが呼んだ俺の名前を覚えてるとは。

 眼鏡に違わぬ優秀ぶりよ。

 褒美に肉をやろう。

 あ、もう要らない?

 そう……。


「魔法使い……御伽噺の中の存在ですが、あの魔術、魔法ですか? を見れば納得せざるを得ませんね。

 では、次です。貴方の目的は?」


「…………故郷へ帰ることだ。」


「そのために時間や空間を操る魔法が必要と? 違う時代から来たとでも言うのですか?」


「何が何だか俺も分かってないが、ここは俺の故郷じゃない。だから帰れそうな手段を探すんだ。」


「そんな魔法は存在しないと教えられてもですか。」


「なら、自力で帰るさ。ないなら新しく創ってでも可能にしてやる。」


「…………そう。分かりました。色々怒りたい気持ちもありますが、貴方が帰れることを願っています。」


「ありがとう。」

リーブラ所持金20G

アッシュ所持金90G

パーティ所持金680G


スキル紹介

新着

《空間探査》

リーブラ

広域探査の上位互換の魔法。位は中級。

《詠唱破棄》

リーブラ

魔法を発動する際に必要な呪文を省略するスキル。中級魔法の中位のものから完全には省略出来なくなる。デメリットは威力の減少。

《詠唱補助》

リーブラ

魔法発動を補助してくれるスキル。呪文の最初の単語を示し、一文節に一回のミスを補完してくれる。スキルレベルによって補助可能な文節の数が上昇。

《術式保留》

リーブラ

発動直前の段階で魔法を留めておくスキル。スキルレベルによってストック数が上昇する。

《イービル・プレッシャー》

リーブラ

重力属性の中級範囲攻撃魔法。空中に生み出した球体から強力な重力場を発生させる。

《パーガトリ》

リーブラ

炎属性の中級範囲攻撃魔法。指定した方向を放射状に広がる炎で焼き払う。

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