3話
俺の加入によって、仕切り直しとなった決闘。最初こそ、立ち会いの教師が、途中参加など認められない。と断られたが、山井と藤森のお情けにより、どうにかして参加が認められた。…まあ、向こうは雑魚が一匹増えたところで、まとめて蹴散らしてやろう、とでも思ってるのだろう。
「城崎…すまん。お前まで、こんな事に巻き込んでしまって…」
今宮が申し訳なさそうに、俺に謝ってくる。ちなみに、彼女の服装は体操着、女子の場合男子と違い、制服だと何かと不便だからな。下がズボンでは無くて、スカートだし。
「まあ、あんまり気にするなって。第一、食堂であの二人をなだめられなかったしな。俺にも、少し責任はある」
…思い返してみると。麻衣とのゴタゴタの後に行われたドベ合宿で、俺は今宮と牧村にかなり救われた、気がする。
もし、あの時、牧村と同じ部屋にならなかったら。もし、今宮と一緒の班にならなかったら。どちらが欠けても、今の俺はいなかっただろう。最悪、山井や藤森みたいに、性格が腐ってしまった、可能性だって…
「だが…」
「だがも、なにも無いって。困った時はお互い様だ。それに、お前らだけじゃ逆立ちしたって、あいつらには勝てないだろ」
ドベ合宿の時、俺は助けられたから、今度は俺が助ける番。
「…んっ。もう勝手にしろ! 私は白崎がどうなっても知らん! 責任持たん!」
半ば、逆ギレ気味にキレて、話を切り上げる。何と言うか…今宮らしいわな。
「…決闘を始める。各々、位置に付け」
立ち会いの先生の言葉に従い、俺らは位置に着く。位置に着いたと同時に、3名の学園の職員が、他の地面に赤いテープを貼って、直径20mの円を作る。この円内が決闘場、リングみたいなもので、当然、一歩でも出たら、その場で失格。
「それでは…」
「……」
始め! という言葉が続くまでの、インターバル。俺は、集中力を高め、意識を決闘モードに切、り換えていく。
「……始め!」
「…ッ!」
開始の合図と同時に、限界まで引き絞っていた弦から指を離し、木刀を構える藤森に向かって、第一射をお見舞いする。
「おわっ…」
ドベ組という事で油断していたのか。藤森は体勢を崩し、奇襲は見事成功した…が。「…」
遅い!
主力部隊である、今宮と牧村の動きが鈍い。 結局、レプリカのダガーナイフを操る、牧村が襲い掛かった時には、藤森は体勢を整えていた。
「このっ!」
今宮が気合い一閃。武器である木刀を横凪ぎに払うが、藤森は意図も簡単に、それを捌いてしまう。
「藤森よ。まさかと思うが、ドベ組ごときに、苦戦してるのか? 」
そして、リングアウトギリギリの所に位置する山井が、ボウガンで援護射撃。
「んな訳。…ねぇよ!」
今宮、牧村の攻撃を同時に捌きつつ、個々に反撃する藤森。冷静に状況を分析し、連射は出来ないものの、正確無比なコントロールで藤森を援護する山井。
佐久良の言った通り、確かにこいつらは強い…。
「オラオラ!」
「…ッ!」
防戦一方だった藤森が、攻撃に転換。
俺が援護射撃をしているものの、今宮と牧村は藤森の攻撃を捌ききれずに、じわりじわりと後退してくる。
圧倒的な戦力差。…やはり、始め! の合図の段階で、藤森を叩けなかったのが痛い。それと、今宮と牧村が思っていたより、弱かったこと。これが一番の誤算だった。
この状況を打破するとしたら、藤森か山井、どちらかを潰すしかない。
…さて、どちらを先に潰すか。
「はあっ!」
藤森が、木刀で牧村の脇腹を斬る。
「…ぬぐぅッ」
藤森の攻撃を、ダイレクトに貰った牧村。それほど痛かったのか、その場で膝をついて、斬られた所を手で押さえてうずくまる。
「…牧村!」
これで、牧村は戦力にならない。
「さあて…あと二匹」
「…ッ!」
牧村を倒した事で、藤森がギアを上げる。これでは、今宮も駄目になるのも時間の問題だろう。多分、2分もしない内にやられる。
もう…迷っている暇は無いみたいだ。
「今宮! 1分、1分で良いから何とか耐えてくれ!」
「え! おい! しろさ…」
俺は、今宮の言葉を、最後まで聞かずに山井に向かって、走り出す。
「…無駄だぁ! 城崎!」
山井が、俺に向かってボウガンを構える。
「ドベはおとなしく、地面にはいつくばってらぁ!」
そして、山井は矢を放つ。
「…ッ!」
矢は見事に、俺の左肩に直撃。痛い…、たしかにこれは痛い。
あまりの痛さに数十分間は、弓を構えれなさそうなくらいだ。…だが、逆を言えば、ただそれだけ。
決闘用の弓矢やボウガンは、万が一の事態を考え、威力が制限されていて、矢の先に神経毒が塗ってあるとか、矢が皮膚に突き刺さると、いう事はないのだ。
ただ。痛みを我慢すれば、それで済む。
「っ…はああっ!」
矢を受けた時に、あまりの痛さに、少しぐらついてしまった。しかし、すぐに持ち直すと、その後は速度を一切落とさず、山井に向かって、駆ける。
「…なっ!」
俺を仕留めたと思い、第二射の準備すらしせず、気を抜いていた山井。
「…くっ。こいつ…!」
慌ててボウガンを構え、第二射を用意しようと山井。だ、が…。
「…はぁッ!」
右手で拳を作り、勢いそのまま、山井の右頬めがけて、思いっきり殴りつけた。
「ぁっ…」
山井の体は少し宙に浮く。そして、程なくして、赤いテープの外で、仰向きに倒れ込んだ。
「今宮。…無事か!?」
山井を倒した、勝利の余韻に浸ることなく、俺は今宮の方を向く。
「大丈夫だ! 私は…まだやれる!」
「今宮…」
なんと。今宮は藤森の猛攻に、身体がボロボロになりながらも、なんとか耐えていた。
「こいつら…ドベ組の癖に!」
率直に言うと、俺はすぐに、今宮が駄目になると思っていた。今宮が、藤森に敵うなんて事は無い。そう思っていた。
…だが。それなのに、今宮がへたばらなかったのは。今宮の負けん気が、藤森より強いからだろう。 …この決闘。なんとしてでも、勝たないとな。頑張った、今宮の為にも。
「…」
俺は、痛む左肩を奮起させ、再び弓を持ち、弦を引き絞る。
先程、俺は、決闘用の矢なんて。ただ、痛いだけだ、と言った。痛いのを我慢すれば、決闘用の弓なんて怖くないと。
…しかしだ。もし、その決闘用の矢を、絶対に痛さを我慢出来ない所に向けて放ったら。一体、どうなる? 例えば、股間とか。
「…ぐうッ!」
ついに、藤森の猛攻に耐えられなくなって、今宮が地面に膝をつける。
「…あと。一匹!」
今宮も倒し、最後に残った俺を、ギロッと睨みつける藤森。
「…」
俺は藤森の眼光に全く怯ない。
「終わりだ! 藤森!」
そして、限界まで引き絞っていた弦から、指を離した。
「…ッ!」
しかし、左肩の痛みを我慢出来ず、手先が狂い。矢は、全く見当違いの所へ飛んでいく。
「…城崎!」
藤森は、木刀を縦横無尽に振り回す。一見、無茶苦茶に見える太刀筋も、ある程度はちゃんとしている。
「っと…ほっ」
藤森の怒涛の攻撃が、当たらぬ様。一つ一つ丁寧に避ける。
「…ちょこまかと!」
避ける事しかしない俺に、いらついたのか、集中力が鈍ったのか、太刀筋がだぶつく。
「…これで…終わりだ!」
これで決めてやると、言わんばかりに、藤森は木刀を振り上げ、俺に向かって振り下ろしてくる。
…だが、勝負を決める事しか、頭になかったのか、振り下ろす動作動作にスピードもキレも無い。
「…残念」
「…あ?」
俺は、振り下ろされた木刀を、体を右に翻して難無く避ける。そしてその、体を翻した時のエネルギーを残したまま、右足を軸に回し蹴りの要領で、左足で藤森の股間を強く蹴った。
「ぬお…ぬぉぉ!!」
蹴りは見事命中。蹴った時に変な感覚がした。藤森はその場に倒れ込み、ジタバタとその場でのたうちまわる。…この痛がりようだと、もう決闘どころじゃあ、ないわな。
「…」
牧村、今宮に周りのやじ馬、それに、立ち会いの先生ですら、のたうちまわる藤森を唖然とした表情で見つめていた。
「先生」
「あ…っと。ん、っほん!」
俺が声をかけると、立ち会いの先生が我に返った。そして、厳かにこう宣言した。
「今のを持って。この決闘…牧村、今宮、白崎組の勝ちとする」
一瞬の間を置いて、おおいに沸き上がる、周りのやじ馬。
「すげぇ! すげぇよ白崎、姐御! 俺達…本当に、勝っちまった!」
さっきまで、うずくまってたのが演技かの様に、牧村もはしゃぐ。
「お疲れさん。藤森を相手に、よくもまああれだけ粘ったもんだ」
俺は円の中心に駆けより、その場に座り込んでいる今宮を労った。
「…正直な所。今まで私は、白崎を、だらしの無い奴としか思ってなかったが…。評価を改める必要がある様だ」
「? いきなりどうした?」
「…いや、ただの独り言だ。それより城崎。一緒に闘ってくれて、ありがとう、感謝する。お前がいなければ、この勝利はなかったよ」
「…おだてても何も出ないぞ」
少し苦笑いを浮かべ、俺は今宮と拳を合わせる。
「一人で立てるか?」
「いや…」
「ならほら。捕まれ」
今宮に手を伸ばす。だが、彼女は戸惑っているのか、俺の手と自分の手を交互に見つめている。
「でも…」
「いいから」
有無を言わせず。俺は今宮を、よいしょっと、引っ張り上げた。
「…っと」
「…あ、ありがとう…な。助かった」
気恥ずかしそうに手を離し、上目遣いで俺を見る今宮。
「…あ、ああ」
不意打ちだった。そういえば、今宮はれっきとした女の子だったな。
いつも、男らしい口調で喋っているせいか、今宮が見せた女の子らしい仕草に、少しどぎまぎしてしまった。
まあ、そんなこんなで。決闘は、俺らドベ組の勝利という、最高の形で幕を引いたのだった。
「城崎君。昨日の決闘勝ったんだってね。藤森、山井を二人一辺に相手して、勝つなんて…。流石です」
「…ああ。まあな」
決闘が終わった翌日。今日一日の授業が全て終わり、例の如く空き教室でノンビリとしてた俺。最近は、佐久良と会話する事によって、暇を潰していた。
本当は、特別訓練に参加したいのだが…。三原先生が許可してくれないので、参加したくても出来ない。
「…そうだ」
何かを思いついた佐久良。ゴソゴソとブレザーのポケットを漁り。そこから、幾つか飴玉を取り出した。
「よかったら、いかがですか?」
「…貰うわ」
素直に、3つ程飴をわけて貰う。
「橘さんも、いかが―」
「いいわ。遠慮しとく」
橘は。週刊べースなんとかとかかれてる雑誌から、目線を離さずに言った。相変わらず、今日もドライだ。
こうして見ると、昨日話し掛けられた事自体が奇跡じゃないかと思えてくる。
「…美味い」
試しに一つ。飴を口の中に放り込むと、味が、じゅわっと広がるていく。これは…サイダー味か?
「あの…」
「…?」
飴を、咥内でコロコロ転がしていると、空き教室のドアが、突然開いた。
「お前…ッ!! ごほっ、がはっ…!」
「え、ちょっと。大丈夫ですか!? 城崎君?」
予定外の来客に驚き、飴玉が喉の方に転がり、むせてしまう。それを見た佐久良が、慌てて、俺の背中をさすってくれた。あ…危なかった。ありがと佐久良、助かった。
「…久留米さん? お久しぶり。こんな所に何の用かしら?」
珍しい事もあるもんだ。あの橘が、自ら進んで、人に話しかけた。
「…えっと。由姫ちゃんと、城崎君が二人一緒に、毎日特別訓練サボってると聞いたから、何してるのかな? って、不思議に思って」
教室の中に入って来たのは、俺の元カノこと久留米麻衣。こうして、ちゃんと会うのは久しぶりな気がする。
「お前ら、面識あったのか…」
この二人に接点があったとは、ちょっと意外。どう転んでも、交わりそうに無いのにな。
「ええ。その昔、ちょっとした事から知り合ってね。それ以来仲良しなの」
…仲良しなら。雑誌を置いて、ちゃんと麻衣の目を見て話したらどうだ、橘よ。
「えっとそれで…。そちらの方は?」
麻衣が、俺の背中をさすっていた、佐久良を見て、首を傾げる。久留米は、橘と面識はあっても、佐久良とは面識が無いらしい。
「私は、1年D組の佐久良葵です。よろしく」
「えっと、1年A組の久留米麻衣です。こちらこそ…よろしく」
初々しいしく挨拶を交わした二人。この二人、雰囲気が似ているから、案外すぐに馴染む気がした。
「でさ、城崎君。…3人はこの教室で、何をしているの?」
「…何をしていると、言われても…」
…なぁ。
実際の所、こうして集まっているのは、9割方俺のせいだ。
本当なら、今頃俺らは、三嶋が用意した、能力者育成の特別プログラムで、バンバン鍛えられていた、のだが…。
俺が未だに自分の能力に目覚めていない為、その特別プログラムが使えないらしい。…そのため、学園は、俺が能力に目覚めるまで、やむを得ず、俺ら能力者3人をこの空き教室で待機させる事にしたそうだ。
ちなみに。牧村と今宮にも、特別訓練をサボってる事について、久留米と同じ様なことを聞かれた。二人とも、わざわざこの教室にまで足を運んで。
もちろん、能力の事を、今宮や牧村には一切、喋ることは出来ない。だから俺は、二人に、こう答えてやった。
「こう見えても、俺らは3人共、問題児なんだ。だから、変な問題を起こさない様、みんなとは隔離して、別の場所で訓練を受けさせられてる」
「えと…」
俺の言葉に戸惑う久留米。まさか、橘や佐久良が問題児だったとは、思わなかったのだろう。
…あともう一押し、もう一押しだ。そうすれば彼女も、今宮や牧村と同じ様に、俺の考えた嘘を信じ込ませる事が出来るはず。
「俺は普段の授業態度が最悪。橘は、人とコミュニケーションをとる能力が致命的。そして佐久良は、寝坊と遅刻の常習犯。規律の厳しい、三嶋でこれだけ悪さをすれば、自然と問題児扱いされる様になる」
補足させて貰うと、佐久良は入学式を寝坊してすっぽかすという、創立以来の快挙を成し遂げた程の逸材である。
「…由姫ちゃんの、コミュニケーション能力については、無関係な気が…」
「麻衣。何か言ったかしら?」
「…いえ! 何でも! 何でも…無いです」
俺には、こいつらが本当に仲が良いとは思えないのだが…。まあ良いや、話を進めよう。早く、久留米には帰って貰おう。これ以上此処に居られると、俺の決意が…揺らぐ。
「という訳だ。わかってくれたか? 久留米?」
「…」
しかし、彼女は首を縦に振ろうとしない。まだ、納得いかない事でもあるのだろうか?
「麻衣。あなたは、この事が引き金になって、もし城崎君が、私か佐久良さんと付き合い出したら…。と考えているのでしょう?」
「…えっ!」
どうしてわかったの? という様に目を大きく開く久留米。
「私とあなた、何年の付き合いと思ってるの? それに、麻衣の行動原理はワンパターンで読みやすいのよ」
ここでやっと橘は、雑誌から目を離し、久留米を見た。そして彼女は、右手で腰まで伸びる、艶の良い黒髪をスッと凪いだ。
…こいつの場合。ほんの些細な、何気ない動作が一々様になるから、腹が立つ。それだけ、スタイルが良いという訳なのだが。
…でも。久留米はどうして、そんな事を心配するんだ? 俺と久留米は…もう…。
「安心しなさい。私が、城崎君と付き合うだなんて、絶対に有り得ないから。佐久良さんも…私の見る限りだと、城崎君には気がないみたいだし」
「え…? そうなのか? 佐久良」
何故だが。俺は急に悲しくなって、佐久良を見た。
「…ごめんね。城崎君」
はは、と力無く笑う佐久良。どうしよう…俺。泣きたくなってきた。
「…由姫ちゃんには。やっぱり敵わないや…」
落ち着きを取り戻した久留米は、真っ直ぐな目でこっちを見た。
「何はともあれ、久しぶりに由姫ちゃんと話せて面白かったよ」
「そうね。私も同じ意見だわ」
「…それじゃあ。私はそろそろ帰るね。…じゃあね、由姫ちゃん。佐久良さん。…城崎君」
左手で手を振って、この教室を出ていった久留米。
「…」
俺は…また。彼女の、後ろ姿に、何も声をかけられなかった。
「…この…根性なしが」
「あ? 何か言ったか、橘」
ふと、橘に何か言われた気がした。
俺はあえて、彼女に聞き返す。
「いえ…何でも」
橘はまた、目線を雑誌に戻した。
ふと、甘い物が食べたくなって、俺は飴玉をもう一つ、口に放り込む。
「…甘い」
飴の味は、濃厚なミルク味だった。