0話
登場人物の名前等は、すべてフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切合切、何も関係ありません。
『三嶋学園 入学希望生徒… 』
ラジオ番組のDJが、淡々と名前を告げていく。
「…………」
だが、その告げられていく名前の中に、自分の名前は無い。
…でも、大丈夫。入学試験の手応えも悪くはなかったし、指名される上で最も大きなウエイトを占めると言われる、三嶋学園主催の大会でかなりの実績は残した。だから大丈夫、絶対に呼ばれる。
『……牧村大成……今宮悠……藤森……』
だが、そんな俺の気持ちとは裏腹に、アナウンサーの読み上げる名前の中に、俺の名前は入ってこない。
そして、そのまま何分か時間が経過して…。
『…以上をもちまして。三嶋学園は、選択を終了します』
プツリ、番組が終わる。結局、最後の最後まで、俺の名前は呼ばれる事はなかった。
「………」
ラジオの電源を切る。
「…っ!」
、俺は悔しさのあまり、それを床へ思いっきり叩きつけた。…何故? 何故、俺は呼ばれなかったんだ?
確かに、三嶋学園に指名へ向けての準備には不安があったものの。さっきも思った通り、学園の関係者が多く訪れる、三嶋主催の大会でも良い感じにアピール出来た筈だったし、入学試験の手応えも悪くはなかった。それなのに…。
「はあ…」
…もう、これ以上考えるのは止めだ。
そこまで柔らかくないベッドの上に、ドスッと、仰向けに飛び込んだ。
…名前が呼ばれなかったのは、紛れも無い事実なのだ。…その事について、一人あれこれとと悩んで居ても。
時間の無駄、その事実は揺るぎようがない。
「…」
…ここ最近。鍛練漬けでろくな睡眠を取ってないせいか…。目を閉じた途端、心地良い疲労が襲ってくる。
「……」
重い瞼は、もう俺の命令を聞きそうには無く。…俺はそのまま、こくり、こくりと眠り世界に墜ちて行くのであった。
「ん……」
日付は一日変わって次の日。
日課にしてた朝練の癖で、俺は早朝5時に目が覚めた。
「腹減った…」
…そういや、昨日は夕飯も食べずに寝てしまったんだっけ?
「……飯、食いに行くか」
二度寝する事も考えたが…。一度鳴きだした腹の虫は収まる気配も無い、こうなればもう何かを食べるまで、虫は鳴くのをやめないだろう。
ベッドから身を起こし、適当な服に着替えると。俺はまだ夜が明けて間もない街に繰り出した。
俺の住んでる街、能見は自然との共存をスローガンとした近未来型試作都市だ。数年前までは、街の中心にに颯爽とした森が生い茂るだけの、寂れた街であったが。
現職の市長、井納 圭吾によって再開発され、近未来型試作都市として、この街は以前とは見違える程の発展を遂げた…。 まあ、その再開発について、説明し出すとキリが無いので、ここらで終わり。 とりあえずは、自然との共存を目指した街、と認識して貰って良いだろう。
………と、そんな事を考えながら。商店街をブラついてるうちに、中華料理屋“南”に到着。此処へ初めて来た時、何気無く注文して食べた炒飯に一目惚れし、ここ数年は何度も何度も通い続けている。
俺の行きつけの店だ。
「おはよう!! まあ、城崎君じゃないの!?」
「…ども、おはようございます」
店に入った途端、俺に話しかけてきた、割烹着のおばさんは南 鈴さん。いつでも元気はつらつで、明るい雰囲気のおばさんで“南”の名物女将。
鈴さんと彼女の夫が、二人で店を営業しているのだ。
「炒飯セット一つ、毎度!」
外にあった券売機で買った、炒飯セットの券を鈴さんに渡して、簡単に注文を済ましせる。 そして俺は、いつも居座る横一列に並ぶ、カウンター席の左から3つ目に向かう。
「………」
…けれど。俺が特等席と名付けるその席には、もう既に先客の姿があった。
「…もぐ」
「……」
その先客の姿を見て、俺は息を呑んだ。
腰まで伸びた、髪質の良いストレートの黒髪。横から見てもわかる端正な顔立ち。歳は…俺とあまり変わらないのでは無いだろうか。
「はぅ…」
上下とも臙脂色のジャージに身を包んだそいつ…いや少女は、南特製パラパラ炒飯をれんげで掬い、冷ましてから口へ運ぶ。
…たった。たったそれだけの、日常生活の何気ない動作に。…俺は目を奪われ、見とれてしまっていた。
「……何?」
俺の存在に気づいたのか。それを口へ運ぼうとしたする前に、少女は唐突に俺へと顔を向ける。
…どこか、けだるそうな雰囲気に、黒く澄み渡った大きな瞳。その瞳を見て…、俺は純粋に綺麗だと思った。
「私に何か用でも?」
低く、心に響くような少女の声。…少女は、探るようにして俺の顔を見る。
「えっ? …あぁ…」
少女に見とれていたため、声をかけられても、とっさに反応出来ない俺。
「日本語、わかる?」
「いや。流石に…わかる」
「…へえ。わかるの?」
そんな事はどうでもいい、という感じに。適当に相打ちを打つ少女。
「なら、もう一度言うわ。…どうして私を、見ていたのかしら? 何か用でも?」
「……」
少女の声は、どこか不機嫌そうで、目は、“返答次第では容赦しない”と目は語っているようである。…とは言え。正直に、そこ、俺がいつも使ってる席だから譲ってくれない? と言ったところで。彼女は納得してくれるだろうか?
「……」
「……」
両者何も喋らず、無言のまま、幾秒か時間が過ぎていく。…この空気、居心地悪いったらありゃしない。
…仕方ない。何を言われても大丈夫、心は折れない。
…目の前の少女に、本当の事を話そうと俺は覚悟を決めた時。
割烹着の救世主が現れた。
「嬢ちゃん、嬢ちゃん。君の座ってる席、その兄ちゃんのお気に入りなのよ」
渡りに船とは、まさにこの事。
俺の分であろう、お冷やを持って来た鈴さんが、この居心地悪い空気を簡単に打破してくれた。
「……馬鹿らし」
「…あ?」
パクっと、れんげで掬ったの炒飯を口の中に入れた少女。もぐもぐと何回か咀嚼して、炒飯を飲み込んだ後、無駄の無い動きで、今座っていた席から二つ横にズレた。
「あらあら…」
鈴さんは苦笑すると、お冷やをさっきまで奴が使っていたスペースに置いた。
二つ横にズレるという行為に、俺は少し傷付きつつ、俺は席に座ると、コップの中の水を一気に飲み干すのであった。
南で炒飯セットを食った後、その足で俺は今通っている学校、能見学園に向かった。三嶋学園からの指名が漏れた、昨日の今日という事で学園という付く名の施設には、勘弁して貰いたかったが…。
炒飯セットを食ってる最中に、携帯へ届いていたメールを見て、いやがおうでも能見学園に、行かなければならなくなってしまった。
校門の前に居る警備員に生徒証を見せ、学園内のメールで指定された場所へと向かう。
「おはよう、城崎君。随分と早いね」
「…おはようございます。三原先生」
メールで指定された場所…学校の敷地内の一角にある喫煙スペースに行くと、煙草をくわえた先生が居た。つか、生徒を喫煙スペースに呼び出して、大丈夫なのか…?
「その…、指名されなかったのは残念だったね」
「まあ……」
「でも、安心したよ。思ったより落ち込んではいないようで」
「……」
いや先生、これでもかなり落ち込んでるんですけどね…。
俺のクラスの担任を努めている、黒縁眼鏡かトレードマークの三原先生は、俺を見て小さく笑うと、くわえてた煙草を吸い殻にほうり込んだ。
「それで。こんな時間に呼び出して、大事な話しってのは、何なんですか?」
三嶋からの指名に漏れた昨日の今日だ。イライラからか、ついつい口調が荒くなってしまう、…自制しないと。
「ああ、それについてだね。…立ち話はなんだし座って話そうか」
三原先生は、喫煙室にあるイスに腰掛け向かいの席を俺に勧める。
…どうやらここは、煙草を吸う先生達のちょっとした雑談スペースになっているらしい
「単刀直入に言うよ。君が三嶋学園からの指名に漏れたのには、理由があるんだ」
先生に勧められるがまま、俺は向かいの席に座ると、先生はいきなり爆弾を投じた。「……え?」
三原先生から言われた事が飲み込めず、素っ頓狂な声をあげてしまう。
「…まあ、詳しくは僕に聞くより、この資料を見て貰った方が良いね」
そう言って、先生は“城崎貴久に関する調査報告書”という紙束を渡す。
「……」
パラパラとめくってざっと読み進めると…。
そこには、俺の学校での成績や日常生活におけ行動パターン、交友関係などがきめ細かに書かれていた。
「…これ? 先生が書いたんですか?」
…にしてもまあ、本人に内緒で、よくもここまで調べてくれたもんだ。これをもし、先生が一人で書いたというのなら、…軽く身震いするレベルである。
「まさかまさか。僕には男をストーカーする趣味なんて無いよ」
「じゃあ……。女だったら、ストーカーするんですか?」
「……」
先生は肩をすくめ、降参するポーズを取った。
「それを書いたのは誰なのか、確かに気になるところだろうけど。一番大事なのはそこじゃない」
「いや……。大事でしょうが…」
これからは外出する時は、今まで以上に後ろを警戒して歩く必要があるのか…。
「まあまあ、そう言わずに。ほら…その資料の、一番最後のページを見てごらん」
「……」
先生に言われた通り。紙をペラペラとめくり、最後のページを開く。
「これ、って…」
「…そう」
そこのページの見だしに、書かれている文字に、俺は唖然とした。
「“De粒子、能力者の可能性あり”。…いやあ、僕も初めてその資料を見せられた時は、ビックリしたよ」
De粒子とは、数十年前に突然として発生した、謎の素粒子の事である。…名前の由来などはよく知らんが、この粒子が発見された当時、世界は大混乱に陥ったらしい。
「“De粒子”こ粒子の最大の特徴として挙げられるのは、粒子と粒子が共鳴反応を起こす事。そして、その共鳴反応によって、拳銃や機関銃、ダイナマイトやクラスター爆弾といった道具の、暴発事故が後を絶たなくなってしまった。
“De粒子”の登場により、世の中に出回っていた武器が使い物にならなくなってしまったのは、今世紀最大の出来事と言っても良いだろうね」
「…はあ」
「…もちろん。人類最強の兵器と名高かった核爆弾もDe粒子によって、ただの後始末に困る汚染廃棄物になったのは、傑作だったよ。
そして、この粒子の発見によって、機関銃だの爆弾だのが使えなくなってしまった今、各国の軍事力は著しくダウン。
各国は若者達を、一騎当千の戦士に育て上げようと、躍起になって育成機関を設立して…っとゴメン。話がそれてしまったようだ」
誰も頼んでもないのに、スラスラと解説をしてくれる辺りは、さすが社会科の先生といったところ。
「要約しよう。このレポートの内容を見た三嶋学園の関係者が言うには。能力者としての可能性があるのなら、仮に君を受け入れたとしても…もしもの事が起きてしまった場合に、君の安全について保障しかねない。…という事だそうだ」
「もしも…の事?」
「そう。例えば、城崎君が能力者であるという事が、皆にばれてしまう、とか」
「……」
…このご時世。能力者への風当たりは厳しい。どの時代でも、周りと違った特徴や力を持つ奴は、羨望や嫉妬の的になるからな。…出る杭は打たれとは、よく言ったものだ。
「ですが…先生。この報告書、少し間違いがありますよ」
「ん? どの辺りが間違ってるのかな?」
先生が矢継ぎ早に繰り出す言葉に、混乱しながらも、何とか俺は頭を回転させて、こな一言を紡いだ。
「…俺。いきなり、お前が能力者だと言われても…自分にどんな力があるなんて、さっぱりわからないです」
「君は能力者」と言われた事自体、初めてである。…当然、俺にどんな能力が宿っているかなんて、わかったものではない。というより、本当に俺は能力者なのか?
「うーん…。本当に、わからないのかい?」
先生は顎に手を置くと、うーんと何かを考えるように小さく唸る
「はい……」
もしかしすると、何者かが、わざと俺が能力者という嘘の情報を、でっちあげた可能性があるかもしれない。
そんな事をして、何のメリットがある? とも思えるかもしれないが…。残念ながら、俺を能力者とでっちあげて、メリットがある奴を…俺は幾らか知っている。
「とりあえず。城崎君が本当に能力者かどうかは置いといて…。
今の君には二つの道がある。一つは、当初の目的通り、三嶋学園に入学する道。もう一つは、環境も設備も一流の、国立の能力者育成機関に入学する道」
「三嶋学園、一択で」
即決だった。むしろ悩む要素が見当たらない。機関って何だよ? 怪し過ぎ、ブラック過ぎるだろ…?
「…なるほど。つまり君は、何としてでも三嶋学園に行きたいと。…そういう事だね?」
先生の言葉に俺は、うんと頷く。
「まあ僕も、城崎君は三嶋の方を選ぶと思っていた。
…ここだけの話、三嶋の方々も、君の事をとても高く評価していたよ」
「…はぁ」
「で…そこでだ。
昨日の夜、ラジオで合格が発表が終わった後。一度は君の入学を拒否した、三嶋の関係者が、この封筒を携えて此処にやって来たんだ。
…この学校に居る。城崎 貴久を、特別枠入学生として、我が校に迎え入れたいとね」
「……特別枠、入学…?」
三原先生は、そこまで話すとA4サイズの茶封筒を俺に手渡した。
中に入ってたのは、三嶋学園の入学案内と、“特別枠に関するお知らせ”と書かれた一枚の紙。
「君が三嶋学園に入学するためにやる事はたった一つ。
“特別枠に関するお知らせ”、に書かれている制約全てに同意した上で、入学案内に付随されてる契約書にサインすること。これだけ」
「…」
~特別枠に関するお知らせ~
・衣食住は学園の寮内で済ませ、外出する時は学園の許可を必ず取ること
・午後から行われる、特別鍛練への参加を禁ずる
・自分が能力者であることを、むやみに拡散しないこと
・2月末に行われる、“成績劣等者強化合宿”に必ず参加すること。
・この取引については無かった事にし、他人には一切口外しないこと。
万が一、漏らしてしまった場合、この契約は無効となる。
「………」
「どうしたんだい? 随分怖い顔してるけど…。不満でもあるのかな?」
「…いえ。何でも無いです」
…不満は無いが、不自然な点はある。何と言うか…、最後の文だけ、…この文章だけ、ボールペンで手書き。
取って付けたかの様な当てつけ感があるのだ。
「そう? 不満は無いかい…?」
「ええ…。それより先生、俺にボールペンを貸して貰えますか?」
半ば、ぶん取る形で先生からボールペンを借り、俺は入学案内に付随されてた契約書に、サラっと自分の名前を書き入れた。
「期限は3日後だから、もう少し時間に余裕はあったのだけれど…ね。でも、何はともあれ、これで君も入学が決まった訳だ。おめでとう、城崎君」
「…どうも」
借りたペンを返すのと同時に、契約書を先生に渡した。
「朝早くからご苦労さん。これで、僕からの呼び出しは終わりだ。
…それで、これから合格を祝って朝ご飯でも一緒にどうかな? 美味しい定食がある店を知ってるんだけど…」
「…いえ、気持ちだけ貰っときます。もう朝飯は済ませてるんで」
「…そう」
俺は椅子から立ち上がると、今住むアパートへ帰る為、この場所を離れようとする。
「……」
「……」
あの…、三原先生…。俺が先生の誘いを断ったからって、そんなに残念そうな顔しないでください。
「では失礼し」
「城崎君、ちょっと待って!」
「…」
先生に背を向け、帰ろうと、数歩歩いたところで、いきなり呼び止められた。
「呼び止めてしまって済まない。…でもね、最後に一つだけ、君にどうしても聞いておきたい事があったんだ」
「…何でしょう?」
「何故君は、それほどまでに三嶋学園に固執するんだい?
君なら、能力に目覚めていないその状態でも、国立の育成機関で充分にやって行けると思うのに」
「まあ…別に、たいした理由はないですよ」
またいちいち振り返るのも面倒なので、俺は先生に背中を向けたまま答える。
「…ただ。仲の良い友達が、三嶋に行きたいって言ってたから。俺も一緒に、そいつと三嶋に行けたらいいなって、そう思ったから目指しただけ。それだけです」
「なるほど…ね。
…それで、その肝心な友達は三嶋に合格したのかな?」
「どうですかね…。わからないですけど、でも多分受かってると思いますよ」
「そう…」
数秒間、沈黙が流れた。
「…ごめんよ、呼び止めて悪かった。今度こそ帰っていいよ」
「…失礼しました」
俺はそのまま早足で、この場を去ったのだった。
「おはよう…。城崎君」
「……」
学校からの帰り。近道として公園の中を走っていると、たまたま知り合いと遭遇した。
「………」
腰まで伸びたややくせ毛かかった黒髪に、やや茶色が混じった瞳。そしてすらりとした容姿。どこか、“南”で会ったあの臙脂ジャージを連想させるその少女は、久留米麻衣。…俺の幼なじみである。彼女も、俺と同じ様に三嶋学園入学を目指していて、一足早く推薦入学を決めていた。
俺も合格し、二人で一緒に三嶋入学したら、幼なじみ以上の関係になるはず…なれるはずだった。それなのに…
「麻衣…ごめん。結局俺、お前の父親との約束、守れなかった」
「城崎君…」
「麻衣と付き合う為の、第一条件として。何としてでも、三嶋学園に合格するって、君の父親に約束したのにな…」
俺は彼女を見た後、空を仰ぎ見た。
久留米家は久留米グループという大企業を経営していて、彼女はそこの一人娘である。そして彼女には、生まれた頃に親が決めた許婚が居た。
実際、俺も何度かそいつと会った事があり、俺が思うに温厚で良い人そうな青年に見えた。…だが。麻衣に淡い恋心を抱いてた俺は、そう簡単に彼女を諦める事が出来ずに。…玉砕覚悟で3ヶ月前、俺は思い切って彼女に告白した。
「ううん、白崎君は私の為にとても頑張ってくれた。…それにこの3ヶ月の間、城崎君が必死に頑張る姿はとってもかっこよかった」
「……」
…驚いた事に。彼女は、俺の告白に応じてくれた。
相思相愛だった。毎日が楽しかった。
けれど…。あ当然、そんな俺と麻衣の関係を、久留米と許婚先の両親が許す訳が無い。 特に、許嫁先の親(もちろん、本人も)は激怒して、何度か殺されかけた事もあったけか、“久留米麻衣親衛隊”となる訳のわからない輩にも妨害された記憶もある
「だから私は、お礼を言いに来た。短い間だけど、君と一緒に居た時期は楽しかったって」
「…麻衣」
「ここで待ってれば、多分城崎君が来るかな? と思ったから」
…本当は俺も三嶋学園に合格した、そう言いえれば、どれだけ報われるだろう。
…が、どんな事があろうと、絶対にあの制約を破る訳には行かない。
もしここで、特別枠入学の話を彼女に伝えたら、麻衣はとても喜んで。真っ先に俺が三嶋に入学した事を、時間や許嫁先の両親に話すだろう。
…だけど、駄目だ。俺は絶対、特別枠入学の事を、麻衣に話してはいけない。
…試されてる。
あの報告書を書いたのは、久留米家か麻衣の許嫁先の者。確証は無いが、そんな気がしてならないのだ。
麻衣の親父さん、最近やけに機嫌が良いと思ってたけど。…結局は、こう言う事だったんだな。…最初から、俺と麻衣が結ばれる可能性なんて、こっちには微粒子レベルも残されてなかったんだ。
「………」
「………」
会話が続かない。…ちょっと前までは、一日中話していても、時間が足りない程。二人笑って会話していたのに。
「……」
次、麻衣と合うのは三嶋に入学してからになるだろう。そしたらこいつは、どんな顔するんだろうな。…何の脈絡も無く、俺はそんな事を思っていた。
「…そろそろ時間だ。私、やる事があるから…もう行くよ」
ニッコリと、明るい笑顔を作って、俺に笑いかける麻衣。
「そうか…」
だが俺は、そんな彼女にかける言葉が見つからない。だって俺は、決して叶う事の無い夢を、彼女に見せ続けていたのだから。
「城崎君、今まで…。本当にっ、…本当にありがと」
「…っ!」
俺麻衣から…何らかの非難を受けると思っていた、無責任に叶う事の無い夢を見せ続けていたのだから。
…けれど。俺とすれ違う時彼女が紡いだのは感謝の言葉。
「………」
俺は、去っていく麻衣の姿を、追うことも無く。ただ見送ることしか、出来なかった。
ども・・・ ひさしぶり。
内容、設定、文章、どれも三拍子そろって稚雑だけど、成長できるよう、頑張る。