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未完成4:私製博物誌

ルナール×ライトノベルの試み

一文一文に力を入れること


『観察者のための日記的プレリュード』


1 朝


素晴らしい朝が来た、今日は格好の観察日和。

さあさあ、何があるのだろうか。この街にはまだまだ謎が一杯だ!

僕にできることは虫かごを肩に掛けるように、虫取り網を手に持つように、

観察のためのメモ帳とペンを精一杯握って、街に繰り出すことだけだ。

 

2 幼馴染み

 

 幼馴染みはいない。アニメやマンガやラノベなどで見る幼馴染みは残念ながら僕の周りにはいないのだ。

世の中には沢山の、朝早くから隣家で惰眠を貪る幼馴染みを起こす性別:雌の幼馴染みが居るはずなのに、

僕の周りにはいないのだ。残念ながら、そして珍しいことに!

 だってそうだろう? 世の中にあんなにも沢山の甲斐甲斐しい幼馴染みが畜産場の羊のように存在しているのに、

まさか、その全てが架空の存在だなんてことが在るわけはないんだからさ!

きっと世の中には幼馴染みが溢れかえって居るはずなのさ。ただ僕の周りにはいないだけなのだ。

 ああ、僕の周りにはいないけれども、この地上の何処かに居るはずの幼馴染みたち。

美しい女神たちよ、貴方は何処に?


3 テレビ


テレビの観察。妹の声。朝の食卓。

まったくこのテレビという奴は素晴らしいね!

適当に点けたらいつでもどこでもこちらの気分におかまいなし、のべつまくなつ喋り続ける。

いつ点けても賑やかで、僕は知らないけれども有名であろう人たちが、

暗くなりがちな僕たちの気持ちを常に盛り上げようとしてくれる。

こんなに沢山のチャンネルがあるのに徹底して同じような調子というのもまた潔い。

時間を潰すのにも最適だ! これ以上にないってほどに便利な機械だよこいつは!

まったく! テレビのない生活なんて考えられないね!!


4 妹


妹は小学生らしい、髪留めを探している妹の後ろ姿は麗しい。

未だこの世の苦難を知らない見事なうなじ。

未だこの世の汚濁を知らない純白の眼差し。

雛が親鳥を見つけたような喜色を浮かべて髪留めを使って髪型を結び始めるのが見えた。

 たちまち出来上がる箒の先の二本の束。あぁ、ツインテールは小学生だけに許された髪型だと、僕は信じて疑わない。

ともあれ麗しい妹殿は、軽やかなステップでもって颯爽と学校へと向かうのだ。




5 街


 町並みはいつもの通り。

此処はどこにでもある田舎だよ。

人は自分の住んでいる町並みを得てして田舎とは認めたがらないが。

 ここは純然たる田舎だね。紛う事なき田舎だね。言い訳のしようがない無いほどのそれだね。

蝉の鳴き声。街を覆うような清々とした緑。

山並みは青く澄んで、日照は都会よりも自己主張が激しいようである。

そんな街のアスファルトを歩く僕は、メモを片手にあっちこち。

僕は狩人だ。手に持つペンは、銃よりも早く、そしてもっと遠くを狙い撃つ。



6 農民


 農民という言葉は日常語ではない。

それは廃れきった言葉だが。しかし不思議と心地よい。

 ただ、ここにある畑や田んぼで作業する連中はまさにそんな感じの形容がしっくりと来る。

まるで同じ顔をしたような老婆と老人! 連中はせっせと足をふんばって地面を掻いてる。

お日様だけが友達といった風情だ。ここには合鴨農法もガチンコ農法も関係ない。

時代に取り残されたように、この町の農民は、永遠に農民であり続けるのだろう。



7 妹 2


「にいさん!」と吠えるようにこちらに向かってきた妹は可愛い。

正直なところこの世のモノとは思えないほどに可憐だ。

が、別に僕はシスコンという訳ではない。僕は良き観察者だからね。

客観性を重んじる必要がある訳だ。そして客観的に見て僕の妹は可愛いQ.E.D!

 まるで怖いモノなど何もないと言うようにこちらを睨み付ける小さな天使。

ツインテールとは小さな怪獣にぴったりな髪型だ。

この子もまた怪獣であるのだろう! 学校終わりのウルトラ怪獣はまるで怒っているようにこちらを睨んでいる。

 「どうしたの?」などと僕は間抜けにも聞いて、そして「また仕事をしないでっ!」

と怒鳴られた段で、僕は妹を怒らせていることに気付いた。まさか本当に怒っているとはね!




8 住宅街


 町並みは山に囲まれて、ともすれば城塞のようだ。

あるいは陸の孤島と呼ぶのが相応しいのだろうね、それでも街である限り。

人の住む場所と仕事には法則性があるものだ。

 畑と田んぼと原っぱの向かい側、川の向かうには森がある。

そして森の先には住宅街が存在している。

 頑丈で文明的なコンクリート! しかしその文明はこの田舎には似つかわしくない。

まるで日常モノの四コマ漫画に男が登場したかのような違和感。

相応しくないのだろう、彼は、コンクリート君は! 少々無骨で肌が白すぎるのだ。

生憎とこの街の大半の住人の肌は茶色と緑だったのだから。

 自然、そこに住まう人々の雰囲気も、町並みと調和しているとは言い難い。

スーツにスカート。都会のおしゃれ。テレビが賑やか、スマートフォン。

 都会を懸命に追うが、常に周回遅れで彼らの走った地点に追いつかざるをえない、田舎の住宅街君諸氏に乾杯!





9 夜の町並み


 夜の町並みは美しい。螢の光が一つ二つと飛び交うのさえ美しい。

雨など降っても美しい。なんて昔の人が言ったらしい。妹は僕に懸命に説明する。

 そんなこと、僕は重々承知さ! 幻想的なこの町の、あるいは土臭いこの町の幻想を、

せめてもの慰みに探し回っているのがこの僕なのだから。

 あえて言うのなら僕はニートなのだろう。それかアウトドア引きこもり。

矛盾しているように聞こえるかい? 良いんだよ、この街自体が山中に引き籠もっているようなものなんだから!

 妹と一緒に縁側に座る。風の奏でる風鈴の音色。叢の揺れる音。蝉の音。はたいうべきにもあらず。

 僕よりも頭一つ以上、小さな妹は、隣に座る僕に体重を預けている。

何時もは鋭く見開かれた猫の如き眼は、まるで蕩けるように揺らいで、僕はなんだか心地よい。

風流風流、なんともはや素晴らしきかな日本の伝統!




10 夏の空。


 夏の空は素晴らしい。まるで全てを終わらせるかのような、無数の星の光。

その全てが遠く彼方から発射された光線銃なのだ。

 消え去りそうな声で鳥の啼く声がして、月は太陽のいないのを良いこと堂々と中天に座す。

妹は既に寝入っている。僕はメモをまとめて、そして窓の外から見える中庭を時々見やる。

何もないが、何かがあるような、不思議な心地が夏の夜だ。この郷愁を、ポエティックな気分と嘲笑する向きもあろうが、

それでも僕はこの空気感が嫌いじゃなかった。


ああ、暑い暑い!




11 妹


 妹の髮は黑い、ほどかれた髪は首もとで波立っている。。

漆黒の瀑布が彼女の後頭部に形作られる。

朝のなんてことのない日常だけどそれもまた良い。

 御飯は一杯、味噌汁二杯、一汁二菜でノリと沢庵。

 粛々と頂きました!

 田舎の素晴らしい点は、御飯のおいしいところだと思うね!

 次点で空気の旨いところ。そして人通りの少ないところだ。

なにはともあれ日常の歯車は回る。

天が夜から朝になり、朝がまた昼になるような自然さで。

平凡な一日は始まるのだね。




12 鋏


 まったくこいつは刺々しいったらないぜ!

まるで何もかも切り裂くことだけが目的という顔つきだ。

キラリと陽の下で見せる歯並びの良さは抜群で。

なんともはやこんな過激派が何食わぬ顔で各地の家庭に潜伏してるって言うんだから怖いことだよ。

それでも輝く外面の良さだけは大したもので! 誰一人としてこいつを警戒したりなんてしないんだからさっ!



13 木々


並木の緑、森の緑、林の緑。

秋には茶色に、紅に、黄色に橙。

 妹は何時ものように学校、もうそろそろ夏休みだろうか。

とまれ蟻の集る木、蝉の集う木、細部に眼を凝らせば見えてくるのは異世界。

昆虫の迷宮世界とでも言えばいいのか。

 俺は蟻の探検家、やあやあおいらは蝉の吟遊詩人。

あらん私は蜂のお針子。ぷんと澄ました蚊のお嬢。

 なんとも賑々しい森の世界。僕はそこが嫌いじゃないのだった。



14 犬

 僕と妹が借り暮らしを営んでいる田舎の屋敷は河の此方側にある。

妹は毎日毎日川向こうまで歩いて通う。森の迷宮歩道を潜って、川のせせらぎを橋と一緒に飛び越えて、

いかにも田舎の繁華街。賑わいの見せない商店街そばの小さな小学校に通っている。

僕は彼女を見送って、早速趣味の観察に勤しむのさ。

 古人曰く、現実を写すのは不可能で、そしてそれに飽きたることはなし。

 進んで一歩、まさに現実を見て、現実を想像して、それでいて正しく現実であるのが良しである。と。

 

 さてさて我が家の近くにケルベロスにも似た一匹の犬が居る。

ケルベロスなのは吠えかかる時の威勢だけで、姿も形も全くケルベロスではないのだけれどね。

ただ、彼はいたく気性が荒くて、そのうえ短気だ。

生来、自分の傍を通りかかる者に因縁をつけなければ気が済まない性質でありながら、

年寄り特有の偏屈さまでもが加わってとても手がつけられない。

 今では尻尾を揺らすことなく、道行く全てが恨めしく見えるらしく、彼の攻撃性は留まるところを知らない。

困った彼の犬種はスピッツ。街にただ一匹のスピッツである。



15 ジャージ。


この忌々しくも普遍的な衣服について語ることはない。

ただどうして教師連中というのは、別段体育教師でなくとも、この服装を好むのだろうか。

ジャージ、ジャージー、この材質、この伸縮性。

彼が一流のファッション用品として在った時代も確かにあったのだ。

しかしそれはフィル・コリンズのドラム時代のようなもの。

特定の層に名が知れた存在は、いつしか大衆と共に在る。

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