五話 小説仮面ライダーオーズ 毛利恒宏著 講談社キャラクター文庫
書きはじめた時が春先でしたのに………
新たに二年次に進級した慶輔と香秧は休日の今日馴染みの書店に訪れていた。
入ってすぐ慶輔の視線を奪ったのは、ある三冊の文庫本だった。赤と緑の背景をバックに三人の特撮ヒーローの顔面がアップで写された表紙の内、一冊を手に取り真っ先にレジに向かった。
レジ打ちをしていた店主である酒塚 君雄はすぐに買う本を決めた慶輔に尋ねた。
君雄「慶輔今日は決めるの早いな」
慶輔「何故だか解らないけど、気になった……あといつの間にネプの小説二巻出てたんだ?」
君雄「ちょっと前かな。にしても珍しくラノベ以外のも手に取ったもんだね」
慶輔「気になったからな。それにたまにはこういうのも読んでみようかと」
香秧「じゃこっちは『デート・ア・ライブ』買おっと」
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部屋に戻ってすぐに、慶輔は買ってきた本を読む前に、明日も休みだということを思い出し、愛用のマグカップにコーヒーを注ぐ。春先と言えど少し肌寒い季節なので、慶輔は電気火燵のプラグをコンセントに差し込むと足を入れ、コーヒーを一口啜り、読みはじめた。
目次に当たるページには三つの章タイトルが何処のページで始まるかを印してあった。
先ず始めはアンクの章。次にバースドライバーの章。そして最後に映司の章だ。
それぞれ物語の前日談、本編の最中、後日談と分かれている。
アンクの章の舞台は800年前のとある国。その国を治めていた『王』の下、この章の主人公であるアンクは欲望の怪物グリードとして誕生した。それと同じ場所でアンクの後に四体のグリードが生まれたのだ。
『王』欲望に忠実で何かと誕生するものがあれば大声で「ハッピーバースデー!」と叫び、物語のキーパーソンだった鴻上会長を思わせる人物だ。『王』は予め、アンクを含めた五体から最低でも三枚以上のメダルをその手に収めていた。
その『王』に対し五体のグリード達は反旗を翻そうとする場面もあったが、慶輔はそれ以上に気になる場面があった。
それは、アンクが出会った盲目の少女。少女はアンクの姿は見えていなかったが、「幸せの青い鳥さん」と言った。否定するアンクだったが、以降名前が呼ばれる事は無かった。この場面で慶輔は思わず笑ってしまう。
しかし、この先の展開から、慶輔はあまりいい顔をしなかった。
同じグリード達と『王』を倒す同盟を結び、それを聞いていた『王』からの取引、そして盲目の少女から生み出したアンクのコンドルヤミー。一通り見ると殺伐とした印象が持てる。
続いてはバースドライバーの章だ。
伊達 明からの手紙らしきプロローグから始まる。
二章目の主人公は人でも動物でもない。機械、それもオーズの二号ライダーであるバースの変身に用いられるバースドライバーが主人公なのだ。
序盤は伊達 明との馴れ初めから始まり、後輩後藤 慎太郎へのバトンタッチ、そして劇中では画かれなかったオリジナルストーリー。
部分的に色々思うところがあるが、敢えてここに記載しないでおく。
最後は映司の章だ。
始まりは映司とは関係の無い砂漠の民の話。この章の主人公は映司だけではなく、アサシンとなってしまった男の妹となっている。前半の主人公が妹、後半の主人公が映司と言うふうになっている。
この章でのキーワードは『マクタブ』と言う言葉だ。意味は終盤近くで明らかになる。その意味は『既に決まっていること』であり、この章では度々使われている場面がある。
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香秧「それじゃあ感想聞かせてくれたまえよ慶輔」
慶輔「そーだな……」
香秧「…あれ?ツッコミ無し??私上から目線だったのに???」
慶輔「まずはアンクの章だが、グリード誕生の瞬間がよかったな。全体的には重い感じがしているが、サクサク読める」
香秧「でもさー、えぐい所あったんでしょー?」
慶輔「確かにそうだが、むしろ想像しない方が良いだろう?めだ……」
香秧「ぎゃー!いーわーなーいーでーよー!!」
アンクの章にあったコンドルヤミーと、そのヤミーの親である盲目の少女のやり取り。
盲目の少女は景色が見たかった。その|欲望(願い)をコンドルヤミーは適当に見付けた人間の目玉をくり抜いて、少女の目の前でそれを潰し、飛び散る液体が少女の目にかかると目玉の元の持ち主が今まで見ていた光景が少女に見える。
香秧は昔からグロテスクと言った残酷な場面が苦手で、『レイヤード・サマー』を借りた時も慶輔に抗議した程だ。
慶輔「次のバースドライバーの章だけど…これは突っ込み所満載だったな」
香秧「途中でアニメとか劇場版とか……1クールと劇場版では収まらない……って何それ」
慶輔「でも前半の終始鬱展開よりかは気分良いだろ?」
香秧「笑いは必要……って奴かねー?」
慶輔「――で、最後。映司の章だ」
『小説仮面ライダーオーズ』の最後の章の扉絵から一ページめくると、書かれてあるのは砂漠の民の話。それも章の主人公は二人で、当の火野 映司だけではなく砂漠の民・アルフリードの二人。
読み進んでいくと、暫くはアルフリードが主軸となっており、父との死別、自分達の部族と有効関係にあった部族に引き取られ成長していく姿が書かれていく。アルフリードは引きとって貰った部族の男と契りを交わし、一人の男の子を授かった。
その裏では兄が麻薬に手を染めて、暗殺者になってしまい、やがてはアルフリードから放れて行った。
香秧「……こういう国って部族間のいざこざとか国のお偉方とかの事情で起こっているのかな?」
慶輔「中東辺りはそうだろう。でも、この章ではキーワードになっている言葉がある」
香秧「あぁ、マクタブ」
慶輔「あぁそうだ」
再び本に目を戻す。
アルフリードのいる部族に一人の日本人の男がいた。アルフリードはその日本人の青年が嫌いだ。日本人の青年は医者でも傭兵でもジャーナリストでも無く、日中は辺りを散歩したり、集落の洗濯や買い物の手伝い、年寄りの手伝い等の簡単な仕事を手伝ったり、子供達の遊び相手にもなっていた。青年はアルフリードにマクタブの意味を問うが、アルフリードは冷たくあしらった。
そんな彼を「良い奴」「欲が無い」「彼と一緒にいると自然と笑えるようになる」と言う者もいるほど。
ある酒の席で、青年の祖父は日本の有名な政治家で彼はその世界に興味はないと話していた。この話を聞いて、アルフリードは青年がこの体験を帰国して美談にすると思いますます青年が嫌いになった。
それから時間が経ち、中立だった部族が一方の派閥につくことが決まった。そのお陰で一時は幸せな時間を僅かながら手に入れたアルフリード一家だが、ある日兄によって夫が殺された。直ぐに後を追うアルフリードだが、拳銃の引き金が引かれる直前、日本人の青年がアルフリードの腕を掴み、あらぬ方向に拳銃を発射させた。
青年はアルフリードに強く言った。
「あなたが死んだら悲しい思いをする人がたくさんいるんです。俺だって悲しいです。だから、死んだらダメです」
それを聞いたアルフリードは息子の存在を思い出した。それさえ忘れてしまうほど彼女は混乱していた。
香秧「ついには夫まで手にかけっちゃったのねお兄さん。でもマクタブの意味まだ出てないわよね」
慶輔「焦んな。そろそろ出る……と思う」
青年の正体はこの章のもう一人の主人公である火野 映司。テレビ本編の戦いから随分と時間が経った。
彼はアルフリードのいる部族に滞在し、マクタブの意味を知ろうとしていた。
彼は自害仕掛けるアルフリードを止めた。砂漠の女は、辛抱強く男の帰りを待つ昔からの習慣がある。彼女の自害の理由が暗殺者となった兄によって夫が殺された事で錯乱状態にあると理解した映司は自分の無力さを痛感した。あの時の、少女を救えなかった時の自分と何も変わってはいなかった。
ただ、あの時と比べて大切な事をたくさん知っている。成長していない訳でもない。
その後、アルフリードの夫の葬儀はひそやかに行われていたが、その事により兄の首を差し出すことになった。だがアルフリードは兄の居場所を知らず、探すための時間すらも貰えない。そうなればアルフリードが首を差し出すしかないと聞いた映司が異を唱えた。
彼はアルフリードの兄が多くの人間の憎しみを買っていることを知らない訳がない。
映司は割れた赤いメダルを手に、再び戦うことを決意する。その決意を証明する為に、映司はアルフリード達に自分のもう一つの姿、欲望の王のオーズに変身した。この日までは、変身することを避けていた。
そして次の日、映司はオーズの力を存分に使い、この国が保有する武器の殆どを鉄屑にした。その事により、その国では戦うと異形の戦士が現れると伝説になった。
その後映司はアルフリードからマクタブの意味を知った。意味は『それはもう決まっていること』と知り、鴻上ファウンデーションの力を借りアルフリードの兄を見つけ出した。
慶輔「どうだった?」
香秧「そうだね、私はあまりライダーは知らないけど、思ったほどライダー色多くなかったね後半は」
慶輔「そう捉えてもおかしくは無いかもな。因みにこのシリーズだが、クウガからオーズまでの12ライダーの小説化する。するんだが、まだクウガの小説が出ていない。何故だか分かるか?」
香秧「クウガって十三年も前でしょ?知らないわよ」
慶輔「それはだな、本編が完成しきっているらしく、劇場版も白紙化されたらしい。恐らくそれが要因じゃ無いのかと思うんだがな」
棚に『小説 仮面ライダーオーズ』をしまい込み、何かを思い出したのか香秧に言った。
慶輔「そういえば、ISのリメイク版出るぞ。絵師さん変わったやつの最終巻らしき8巻も。あとアニメもシーズン2もやるみたいだぞ」
香秧「…うっそーん」
続く
何故今頃出来たのか、自分でも分からんとです