何より最優先なのは…彼女の元へ 【悠真視点】
最初に異変を感じたのは、仕事の合間だった。
裏の連絡網に、見慣れない名前が流れた。
“処理対象:神崎緋依”
一瞬、意味が理解できなかった。
次の瞬間、頭の中が真っ白になった。
「……は?」
周囲の音が、全部遠のく。
何度見ても、名前は変わらない。
見間違いなんかじゃない。
血の気が、一気に引いた。
どういうことだ。
なぜ、緋依の名前が、ここにある。
指が震えながら、詳細データを引きずり出す。
内部告発の可能性。
警察内部の情報流出。
危険人物としての処理対象指定。
「……ふざけるな……」
喉の奥から、低い声が漏れた。
あの場所に、戻ったのか。
しかも、一人で。
しかも、ここまで踏み込んで。
あいつ、何考えてるんだ。
いや――
分かってる。
守るためだ。
真実に辿り着くためだ。
だから、止められない。
でも、それでも。
「……今度こそ、俺が間に合わなかったら……」
それだけは、絶対に許されない。
俺は、即座に端末を閉じて、立ち上がった。
次の仕事?
関係ない。
そんなもの、全部どうでもいい。
今、最優先なのは、ひとつだけだ。
神崎緋依を、生きたまま、連れ出す。
裏の連中が動くより早く。
警察内部の人間が、口封じを終えるより早く。
俺は、かつて使っていた非常用ルートを思い出す。
颯斗から教えられた、表にも裏にも残っていない道。
「……頼むな、って言われたよな」
苦く笑う。
約束は、守れなかった。
でも、それでいい。
今度は、俺の番だ。
場所は、もう特定できている。
緋依が最後にアクセスした端末の位置情報。
今も、微かに生きている。
「……まだ、逃げてる」
胸の奥が、締めつけられる。
間に合え。
間に合え。
何度も、同じ言葉を繰り返しながら、
俺は夜の街へ走り出した。
もう、距離なんて、守らない。
もう、離れない。
もし、この手が汚れているなら、
それでも、引きずってでも連れて行く。
今度こそ。
今度こそ、失わない。




