表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

処理対象、確定

最初に見つけたのは、改ざんされた事件記録だった。

 死亡時刻、現場写真、検証ログ。

 兄の事件と、まったく同じ形式の書き換え。

 次に辿り着いたのが、裏金の資金ルート。

 警察内部の口座を経由して、裏社会へ流れている金。

「……内部、腐ってる」

 その夜、私はすべてを外部ストレージにコピーして、持ち出した。

 本当なら、その時点で上に報告するべきだったのかもしれない。

 でも、直感が言っていた。

 今、誰かに話したら、

 この証拠は“なかったこと”にされる。

 それだけは、確信していた。

 ――三日後。

 署内の空気が、明らかに変わっていた。

 監視カメラの数が増えている。

 管理端末のログ確認が、異様に頻繁に行われている。

「……気づかれた」

 私がデータを抜いたこと。

 誰かが、すでに察している。

 それでも私は、夜勤の日を選んで、もう一度解析室に入った。

 証拠が一部だけなら、まだ言い逃れされる。

 もっと、決定的なものが必要だった。

 端末にログインした瞬間、嫌な予感がした。

 フォルダ構成が、変わっている。

 まるで――

 誰かに、見せるために用意されたみたいに。

「……これは……」

 暗号化フォルダを開いた瞬間、背筋が凍った。

 並んでいたのは、名前。

 日付。

 “処理予定”。

 最初の方に、見覚えのある二つの名前があった。

 父と、母。

「……そんな……」

 事故死とされていた、両親。

 ここでは、最初から“処理対象”として記録されている。

 指が、勝手に震えながらスクロールしていく。

 兄の名前は、そこにはなかった。

 でも、その下に続く、無数の名前。

 そして、一番最後。

 本日の日付の横に――

 神崎 緋依。

「……っ……」

 これは、被害者リストじゃない。

 これから消す人間の、予定表だ。

 心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。

 同時に、理解した。

 これは、罠だ。

 私が戻ってくることを、最初から想定して置かれたファイル。

 それでも、私はストレージを取り出して、もう一度コピーした。

 逃げる前に、これだけは必要だった。

 コピー完了の表示が出た、その瞬間。

「……やっぱり、ここにいたか」

 背後から、聞き慣れた声がした。

 振り返った瞬間、息が詰まる。

「……課長……?」

 そこに立っていたのは、

 三年間、私を鍛え、支えてくれた人だった。

 悠真が消えた後、

 私を何度も家に呼んでくれて、

 奥さんの手料理を振る舞ってくれて、

 「無理するな」って、何度も言ってくれた人。

 刑事としての、父親みたいな存在。

「こんな時間まで、熱心だな」

 その声は、いつも通り、穏やかで。

 一瞬、胸が緩みかけて――

 でも、次の瞬間、違和感に気づいた。

 目。

 そこに、いつもの温かさがなかった。

 評価でも、心配でもない。

 ただの――監視の目。

「……課長……?」

 一歩、近づいてくる。

「それ、見つけちゃったか」

 低く、事務的な声。

 胸の奥が、凍りつく。

「……どうして……」

 信じたくなかった。

 でも、もう、否定できなかった。

 課長の手が、私の腕に伸びる。

 その瞬間、身体が先に動いた。

 思いきり、振り払って、横をすり抜ける。

「っ……緋依!!」

 怒鳴り声が、背後で弾けた。

 信じてた。

 本当に、信じてたのに。

 胸が、ひどく痛んだ。

 それでも、止まれなかった。

 廊下に飛び出した瞬間、別方向からも足音が迫る。

 挟まれた。

 喉が、ひくりと鳴る。

 ここで捕まったら、終わりだ。

 “内部処分”。

 表向きは事故か、失踪か、自殺。

 リスト通りの結末になる。

「……くそ……!」

 私は、非常階段へ向かって走った。

「止まれ!」

 課長の声が、背後から響く。

 でも、その声に、もう、迷いは感じなかった。

 階段を駆け下りながら、頭の中が真っ白になる。

 どこへ行けばいい?

 誰を信じればいい?

 もう、警察の中に、味方はいない。

 それでも、ひとつだけ、浮かんだ名前があった。

「……悠真……!」

 声にならない声で、呼ぶ。

 会えなくてもいい。

 姿が見えなくてもいい。

 ただ、生きて、この証拠を繋げられれば。

 それだけでいい。

 夜の出口が見えた瞬間、背後で怒号が響いた。

「追え!!」

 私は、街へ飛び出した。

 逃げるためじゃない。

 真実に辿り着くために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ