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初めて見つけた、貴方の痕跡

その事件は、最初はよくある裏取引の摘発だと思われていた。

 小規模な組織。

 倉庫街での密売。

 表向きは、そこまで大きな案件じゃない。

 でも、私は違和感を覚えていた。

 動きが、妙に綺麗すぎる。

 逃走経路、証拠の残し方、現場に残された時間の短さ。

 まるで、誰かが先に道を整えていたみたいだった。

「……これ、やっぱり変」

 資料を見つめながら、無意識に呟く。

 最近続いている一連の事件と、流れが似ている。

 必要な場所だけが、静かに切り取られている。

 ――まるで、裏の掃除。

 胸の奥で、何かがざわついた。

 嫌な予感と、同時に、

 ほんのわずかな期待が、顔を出す。

 もし、これが――

「神崎、現場行くぞ」

「はい!」

 考えるより先に、身体が動いていた。

 倉庫に着いた時には、すでに現場は制圧されていた。

 だが、妙な空気が残っている。

 争った形跡が、ほとんどない。

 銃声の通報も、ない。

「……やっぱり」

 胸が、少しだけ早く打つ。

 私は、周囲の導線を無意識に追っていた。

 逃げ道。

 死角。

 裏口。

 そして――

 ビル裏の通路で、ふと、足が止まった。

 まだ、空気が残っている。

 誰かが、ほんの少し前まで、ここにいた。

 それも、慣れた足取りで。

「……」

 ぞわり、と背中が粟立つ。

 この感覚。

 私は、知っている。

 三年前、何度も隣で見ていた、あの人の動きに、似ている。

「……まさか」

 口に出すのが、怖かった。

 でも、心臓が、はっきり答えを出していた。

 近い。

 すごく、近い。

 私は、無線を切って、奥へ進んだ。

 倉庫の非常階段。

 屋上へ続くドア。

 ほんの少しだけ、開いている。

 あの夜と、同じだ。

 鼓動が、耳の奥でうるさい。

 ドアを押し開ける――その直前。

 上から、かすかな足音が聞こえた。

 遠ざかっていく、足音。

「……っ」

 屋上に出た時には、もう誰もいなかった。

 ただ、風だけが強く吹いている。

 でも、私は、確信していた。

 今、ここにいた。

 間違いなく。

 手すりの近くに、小さな血の跡が落ちているのを見つけた。

 新しい。

 乾いていない。

「……無事じゃ、ないよね」

 でも、生きてる。

 そう思えた。

 根拠なんて、何もない。

 でも、三年間、探し続けてきた私の勘が、そう言っていた。

 胸の奥に、じわっと熱が広がる。

 今まで、ずっと、闇の中を手探りで歩いてきた。

 でも、初めて。

 初めて、同じ場所に立てた気がした。

「……会えるかもしれない」

 思わず、声が漏れる。

 もし、この事件の奥に、あの人がいるなら。

 もし、真相に辿り着けば、

 また、あの背中に追いつけるなら。

 私、もっと、頑張れる。

 もっと、走れる。

 もっと、強くなれる。

 希望なんて、持たない方が楽だって、分かってる。

 でも。

 今さら、手放せるわけがなかった。

 だって私は、三年間ずっと、

 この瞬間を待っていたんだから。

 同じ空気を吸って、

 同じ場所に立って、

 それでもまだ会えない、この距離。

 でも、ゼロじゃない。

 確実に、近づいている。

「……待ってて」

 今度は、はっきりと名前を呼ぶ。

「悠真」

 風に消えていく声でも、構わなかった。

 もう、闇の中で探すだけの時間は、終わりだ。

 私は、事件の中心に向かって走る。

 そこに、あの人がいると信じて。

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