それでも、私は探していた
事件現場は、静かすぎた。
容疑者グループは全員死亡。
けれど、争った形跡はほとんどなく、銃声も近隣から報告されていない。
まるで、最初から逃げ場を塞がれて、処理されたみたいな現場。
嫌な予感が、胸の奥で広がっていく。
防犯カメラの映像を洗い直して、私は確信した。
逃走経路が、警察の配置と巡回時間を完全に把握している動きだった。
「……これ、内部の人間じゃないと無理」
そして、私は思い出してしまった。
三年前、兄の事件の時も、
同じように、証拠だけが綺麗に消えていたことを。
その手口を、一番よく知っている人。
私は、無意識に、あの名前を口にしていた。
「……悠真」
嫌だ。
そんなはず、ない。
でも、事件の動きが、あの人の癖に似すぎていた。
私は、上司に何も言わず、現場周辺を洗い直した。
そして見つけたのが、ビル裏の非常階段。
外からは見えない死角。
でも屋上へ直結している。
しかも、ドアの鍵が、内側からだけ簡単に外せるタイプ。
「……やっぱり」
胸が、嫌な音を立てた。
このルートを選ぶ人間を、私は一人しか知らない。
私は、息を整えて、階段を上った。
一段上がるたびに、心臓の音が大きくなる。
会いたい。
でも、会いたくない。
それでも、足は止まらなかった。
屋上に出た瞬間、夜風が強く吹きつけた。
そして、フェンスの前に立つ人影。
間違えるわけがなかった。
「……悠真……?」
声に出した瞬間、胸が締めつけられた。
やっと、会えた。
その気持ちが、全部を押し流しかけた、その時。
彼の手が動いた。
月明かりを反射する、黒い銃口。
私に、向けられている。
「……来ないで」
低く、抑えた声。
一瞬、状況が理解できなかった。
「……は?」
笑おうとしたけど、口元が震えた。
「何それ……冗談?」
一歩踏み出しかけた私に、悠真は距離を取った。
「止まって」
その距離が、胸に突き刺さる。
「消えて、連絡もつかなくて、やっと見つけたと思ったら……銃?」
声が、少しずつ震えていく。
「ふざけてる場合じゃないんだけど」
「ふざけてない」
短く、きっぱり。
その言い方が、余計に苦しかった。
「私、ずっと探してた」
気づいたら、感情が溢れていた。
「署中走り回って、勝手に調べて、怒られて、それでも……!」
喉が、熱くなる。
「何も言わずに消えて、今度は近づくなって、どういうつもりなの!?」
悠真の目が、一瞬だけ揺れた。
でも、銃は下がらない。
「……君は関係ない」
「関係ないわけないでしょ!!」
叫んでいた。
「恋人みたいな生活してて、毎日一緒にご飯食べて、それで関係ないって何!?」
風が強く吹いて、涙が頬を伝う。
「私だけ、置いて行かれたみたいじゃん……!」
悠真の唇が、強く結ばれる。
「……だから、来ないで」
声が、少し震えていた。
「俺の側にいたら、危ない」
「もう危ないとこにいるんだよ!!」
私は一歩、踏み出した。
銃口が、わずかに上がる。
「今さら安全な顔しないでよ……!」
視界が滲む。
「守ってるつもりかもしれないけど、それ、私の気持ち無視してるだけじゃん!」
胸が、張り裂けそうだった。
「一人で全部決めて、一人で消えて……それで優しいつもりなの!?」
悠真の肩が、ほんの少しだけ、震えた。
「……俺は、戻れない」
「戻ってほしいなんて言ってない!!」
声が裏返る。
「一人で地獄行くなって言ってるの!!」
一瞬、音が消えたみたいに、風だけが響いた。
悠真の銃口が、わずかに下がる。
でも、すぐに彼は後ずさった。
「……それ以上来たら、本当に撃つ」
その声は、脅しじゃなくて。
まるで、必死なお願いみたいに聞こえた。
「……分かった」
私は、足を止めた。
胸が、痛すぎて、息がうまくできない。
「じゃあさ……」
涙を拭って、無理やり笑った。
「今度は、私が追いかける」
悠真の目が、はっきり見開かれる。
「逃げても、隠れても、絶対見つけるから」
声は震えてたけど、言い切った。
「勝手に終わらせるの、もう許さないから」
悠真は、何も言わなかった。
ただ、背を向けて、闇の中へ消えていった。
私は、その背中に向かって、泣きながら叫んだ。
「……次は、絶対、逃がさないから!!」




