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死んだはずの兄と、反撃を決めた夜

木々の向こうに、古い倉庫の影が見えた。

兄のメッセージにあった場所。

「……ここだ。」

悠真の声が、低くなる。

その瞬間。

「そのまま動くな。」

聞き覚えのある声が、上から降ってきた。

……息が止まる。

倉庫の屋根の縁に、誰かが立っている。

逆光で、顔はよく見えない。

でも――

「……颯斗……?」

声が、震えた。

次の瞬間、男は軽く飛び降りて、地面に着地した。

……生きてる。

夢じゃない。

三年前と変わらない顔で、でも少しだけ、目が鋭くなっていて。

「……久しぶりだな、緋依。」

その声を聞いた瞬間、視界が一気に滲んだ。

「……っ……ほんとに……生きて……」

言葉にならなくて、足が勝手に前に出る。

でも。

「ストップ。」

颯斗の声が、鋭くなる。

視線は、私の後ろ――悠真に向けられていた。

「……近づくなとは言わねぇ。

だがな。」

ゆっくり、悠真を見据える。

「そいつを、これ以上前に出す気なら――」

一瞬、空気が張り詰める。

「……俺が殺す。」

……は???

「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん!?」

思わず前に出た。

「何その物騒な宣言!?」

颯斗は、私を一瞥してから、ため息をついた。

「……生きててくれて良かったって思ってる。

それとこれとは別だ。」

……めんどくさい兄、健在。

「……あんたが守れって言ったんだろ。」

悠真が、低く言う。

「今も、守ってる。

だから一人で行くつもりだった。」

その瞬間、颯斗の目が、ほんの一瞬だけ細くなる。

「……だから、気に入らねぇんだよ。」

……え?

「一人で背負うなって意味だ。」

次の瞬間、颯斗は私を見る。

「お前もだ、緋依。」

「……え……」

「一人で突っ込む判断、最悪だ。」

ぐさっ。

「似てきたな……俺に。」

それ、褒めてないよね???

でも。

颯斗は、少しだけ目を伏せてから言った。

「……でもな。」

視線を上げる。

「ここまで来たなら、もう逃げ道はねぇ。」

空気が、一気に重くなる。

「俺がいる場所まで、敵も嗅ぎつけてる。

次に動く時は――」

ゆっくり、二人を見渡す。

「三人で、地獄見る覚悟、決めろ。」

……その瞬間。

背後の森で、枝が折れる音。

悠真が、すぐに私を庇う。

「……来たな。」

颯斗が、にやっと笑った。

「ほらな。再会感動してる暇、ねぇだろ?」

……最悪のタイミングで、最悪の現実。

でも。

私は、震える声で言った。

「……でも……お兄ちゃん……」

颯斗が、ちらっとこちらを見る。

「……生きててくれて、ほんとに良かった……」

一瞬だけ、兄の表情が、柔らぐ。

「……泣くな。集中できねぇ。」

そう言いながら、銃を構えた。

「行くぞ。今度は俺が、前を走る。」

悠真も、無言で頷く。

三人、同じ方向を向く。

……ついに、合流した。

「伏せろ!」

颯斗の声と同時に、私は悠真に引き寄せられて地面に伏せた。

次の瞬間、銃声。

森の奥から、複数の足音。

「……思ったより早ぇな。」

颯斗は舌打ちして、倉庫の影から一歩踏み出す。

「三方向から来てる。数、少なくとも五。」

……そんなの、どうやって分かるの。

「悠真、右の斜面。

緋依、動くな。」

命令口調なのに、不思議と反論する気にならない。

颯斗は、躊躇なく前に出た。

パンッ、と乾いた音。

一人、倒れる。

続けざまに、位置を変えてもう一発。

「……っ、速……」

悠真が、思わず息を呑む。

「立ち止まるな、詰めるぞ!」

颯斗が叫ぶ。

敵の注意が完全に兄に向いた、その隙。

「今だ、走れ!」

悠真が私の手を掴んで、斜面へ走り出す。

背後で、銃声と怒号。

……兄、完全に囮やってる。

「お兄ちゃん……!」

振り向きかけた私に、悠真が叫ぶ。

「見るな!今は走れ!」

歯を食いしばって、前だけを見る。

数秒後。

背後から、風を切る音。

颯斗が、いつの間にか合流していた。

「遅ぇぞ。」

……いやいや、今の状況でそれ言う?

「敵、数だけ多くて質は低い。

でもな。」

走りながら、颯斗が低く続ける。

「別部隊も来てる。

ここはもう、使えねぇ。」

「……どこへ?」

私が聞くと、颯斗は一瞬だけこちらを見る。

「……安全って言える場所はねぇ。

だが、少なくとも今夜は凌げる場所だ。」

その言い方が、妙に現実的で、背筋が寒くなる。

森を抜け、崖沿いの細い道へ。

「この先、下れ!」

颯斗が先導し、躊躇なく岩場を滑り降りる。

悠真が私を支えながら続く。

背後から、また銃声。

でも、もう距離は開いている。

十分ほど走り続けて、ようやく小さな祠のある、洞の前で足が止まった。

「……ここで一旦、止まる。」

三人、息を切らして壁にもたれる。

「……ふぅ……」

心臓が、まだ暴れている。

「……なぁ。」

悠真が、低く言った。

「さっきの動き……昔より、キレ増してません?」

颯斗は、肩をすくめた。

「……そりゃ、三年も修羅場くぐればな。」

私が、じっと兄を見る。

少し、痩せた。

目の奥が、前よりずっと鋭い。

でも。

……ちゃんと、生きてる。

「……敵、思ったより本気だ。」

颯斗の声が、少しだけ低くなる。

「もう、ちょっかいレベルじゃねぇ。

完全に、潰しに来てる。」

空気が、重く沈む。

「だから次からは――」

颯斗は、二人を見渡した。

「逃げじゃねぇ。反撃に入る。」

その一言で、空気が変わった。

……ついに、追われる側から、狩る側へ。

祠の裏の空間はは、ひんやりしていて、外の気配が遠のいた。

三人とも、しばらく言葉が出なかった。

荒い呼吸の音だけが、狭い空間に響く。

「……っ……」

胸が苦しくて、息がうまくできなくて。

気づいたら、私は走り出していた。

「……お兄ちゃん……っ!!」

颯斗の胸に、思い切り飛び込む。

「……っ、おい……!」

驚いた声が聞こえたけど、構わず腕を回した。

ぎゅっと、力いっぱい抱きしめる。

固い身体。

鼓動。

ちゃんと、生きてる。

「……ほんとに……ほんとに、生きてた……」

声が震えて、涙が止まらない。

「……死んだって……思ってた……」

颯斗の身体が、ほんの一瞬、固まった。

それから、ため息みたいに息を吐いて。

「……バカ。縁起でもねぇこと言うな。」

そう言いながら、そっと、背中に手を置いた。

ぽん、ぽん、と、不器用に。

昔と同じ、慰め方。

それだけで、涙がさらに溢れた。

「……心臓……ちゃんと動いてる……」

耳を押し当てると、確かな音がする。

「……当たり前だ。」

少しだけ、声が低くなる。

「……簡単にくたばってたら、お前に顔向けできねぇだろ。」

……もう、それ反則。

私は、ぎゅっと力を込めた。

「……ずっと……一人だったんだよ……」

小さく、絞り出す。

「……お兄ちゃん、いなくなって……

両親もいなくなって……」

颯斗の腕が、今度はしっかりと私を抱き返した。

「……悪かった。」

短い一言。

でも、全部詰まってる声。

「……全部、俺の判断だ。」

その言葉に、首を振る。

「……そんなの……」

「……それでも、だ。」

ぎゅっと、抱きしめる力が強くなる。

「……ちゃんと、生きててくれて、ありがとう。」

その一言で、颯斗の腕が、少しだけ震えた。

「……泣かせるなって言っただろ。」

そう言いながら、でも、離さない。

少し離れた場所で、悠真が静かに立っていた。

何も言わず、ただ、二人を見守っている。

……今は、邪魔できない時間。

ようやく、少し落ち着いた頃。

颯斗が、ふっと息を吐いて言った。

「……よし。再会はここまでだ。」

……相変わらず、切り替え早い。

「……お兄ちゃん……」

「生きてるのは確認しただろ。

なら次は――生き残る話だ。」

そう言って、真顔になる。

空気が、一気に変わった。

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