一人で行くなんて許さない――ぶつかり合った覚悟を一つの銃声が変えた
スマホが、再び震えた。
今度は、短いメッセージ。
『次は、俺のいる場所に近づく。
正面から来るな。裏から入れ。
……覚悟がないなら、ここで止まれ。』
画面を見た瞬間、悠真の表情が変わった。
「……やっぱり、来たか……」
「……どういう意味?」
私が聞くより早く、悠真はスマホをポケットにしまった。
「……俺一人で行く。」
「……は?」
あまりに即答すぎて、言葉が遅れて出た。
「何、それ。今、なんて言った?」
悠真は、私を見ずに続ける。
「危険すぎる。ここから先は、俺が行く。」
……その瞬間、胸の奥で、何かが弾けた。
「……は? また?」
思わず、声が荒くなる。
「また私、置いてく気?」
悠真が、ちらっとこちらを見る。
「……違う。守るためだ。」
「はぁ!? 守るために一人で突っ込むのが正解とか、誰が決めたわけ!?」
私は一歩踏み出した。
「今さら手を離すとか、あり得ないから。
もし置いてくなら、私、私の判断で動くからね。」
「……緋依。」
「だってさ!」
言葉が止まらない。
「私一人の方が、相手も油断するでしょ!?
囮にするなら、私の方が向いてるじゃん!」
自分で言いながら、胸がバクバクする。
「ね、だから――」
そこまで言った瞬間。
「……ふざけんな!!」
悠真の怒鳴り声が、部屋に響いた。
私は、思わず息を呑む。
「お前、何言ってるか分かってんのか!?」
一気に距離を詰められて、肩を掴まれる。
「お前を危険に晒したくないから、俺が行くって言ってんだろ!」
「……だからって……」
「そっちこそ、ふざけんな!」
声が、震えている。
「俺は……お前が大事なんだよ!」
思わず、言葉を失った。
「囮にする? 一人で行く?
そんな選択肢、最初から俺の中にねぇんだよ!」
ぐっと、強く抱き寄せられる。
「……マジで、身体に分からせるぞ……」
そう言いながら、額が私の額にぶつかるほど近くて。
息が、かかる距離。
「……失うくらいなら、嫌われた方がマシだ。」
その声が、あまりにも必死で。
……胸が、ぎゅっと痛くなった。
「……じゃあ……」
私は、彼の服を掴んだ。
「私が失うのは、いいの?」
悠真の呼吸が、一瞬止まる。
「私が一人で待って、また居なくなる方が、いいの?」
視線が、絡む。
どっちも譲れない。
どっちも、相手を守りたいだけ。
……最悪の、すれ違い。
部屋の空気が、張り詰めたまま、動かなくなった。
部屋の空気が、張り詰めたまま動かなかった。
……このままじゃ、どっちも引かない。
分かってる。
悠真が正しいのも、分かってる。
でも。
「……分かった。」
そう言った私に、悠真が少しだけ息をついた。
「……悪い。今は、感情的になってた。」
「ううん……私も。」
私は、ゆっくり笑った。
「……少し、頭冷やす。」
「……ああ。すぐ戻れ。」
悠真がそう言った、その隙。
私は、玄関に置いてあった上着を掴んで、外に出た。
ドアを閉めた瞬間、心臓が跳ね上がる。
……ごめん、悠真。
でも、あなたが一人で行くくらいなら、
私が行く。
だって――
私の方が、油断される。
山道を駆け下りながら、スマホを確認する。
兄のメッセージの位置情報。
……ここから、そう遠くない。
足が、勝手に前へ出る。
怖い。
でも、止まれない。
その時だった。
背後から、聞き慣れた声。
「……緋依ィィィ!!」
……やっぱり、気づくよね。
振り向いた瞬間、腕を掴まれた。
「何してる……!!」
「離して!」
思わず叫ぶ。
「悠真が行くくらいなら、私が行く!」
「……ふざけんな!!」
壁に押し付けられて、逃げ場がなくなる。
「俺がどんな気持ちで止めてると思ってんだよ!」
「……じゃあ、私の気持ちは!?」
胸が、苦しい。
「また一人で背負って、勝手に消える方が、よっぽど残酷でしょ!」
一瞬、悠真の表情が揺れた。
「……俺は……」
言いかけたその時。
――パンッ!!
乾いた音が、空気を裂いた。
二人同時に、動く。
悠真が、私を引き寄せて地面に伏せる。
「……っ、狙撃……!」
もう、追手が来ている。
悠真の目が、完全に戦う男のそれになる。
「……くそ……時間がない……」
私は、彼の服を掴んだ。
「……だから、言ったでしょ。二人で行くしかないの。」
視線が絡む。
数秒の沈黙。
そして、悠真は歯を食いしばって言った。
「……勝手な真似、二度とするな。」
「……それ、今言う?」
「……あとで説教だ。」
そう言って、私の手を強く引いた。
「行くぞ。兄のところまで、一気に走る。」
今度は、二人で。




