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束の間のデートと、買い物袋の底にあったもの

山を下りた先に、小さな町があった。

古いけど、どこか温かい商店街。

「……ちゃんと、普通の町だね。」

「逆に、こういうとこの方が目立たない。」

悠真はそう言って、封筒に入っていた現金を確認した。

……兄の用意、ほんと抜かりない。

八百屋で野菜を選んでいたら、店のおばちゃんが声をかけてくる。

「新婚さん?」

「えっ!?」

慌てて否定しようとしたら、悠真が先に答えた。

「……まあ、似たようなもんです。」

……ちょっと待って、それ否定してないよね?

顔が熱くなるのを感じながら、私は黙って袋を受け取った。

「はいはい、仲良しでいいねぇ。これ、オマケ。」

トマトを一つ、袋に入れてくれる。

「……ありがとうございます。」

自然に笑って答えてる自分に、少し驚いた。

次は肉屋さん。

揚げたてのコロッケの匂いに、足が止まる。

「……食べたい。」

「顔に出てる。」

そう言いながら、二つ注文してくれた。

熱々の紙袋を持って、二人でかじる。

「……っ、熱っ。」

「学習しないな。」

そう言いながら、笑ってる。

……昨日まで、命狙われてたのに。

嘘みたい。

買い物袋をそれぞれ持って、商店街を歩く。

気づいたら、自然に手が繋がれていた。

恋人繋ぎ。

誰も気にしない。

誰も、追ってこない。

「……楽しいね。」

ぽつりと言うと、悠真が横で微笑んだ。

「……ああ。」

それだけで、胸がいっぱいになる。

別荘へ続く道を歩きながら、ふと思う。

……こんな時間が、ずっと続くなんて、思ってない。

思ってないけど。

「……今は、これでいい。」

そう呟くと、悠真の手が、少しだけ強く握られた。

「……今は、な。」

その言葉の裏に、何かを感じた気がして、

でも、私はあえて聞かなかった。

空は、やけに青かった。

夕方、別荘に戻ってからもしばらく、

昼間の商店街の空気が、まだ身体に残っていた。

「……コロッケ、美味しかったね。」

ぽつりとそう言うと、悠真が小さく笑った。

「ああ。ああいう店、久しぶりだ。」

……また、行けるかな。

そんなことを、考えかけた時だった。

スマホが、震えた。

悠真じゃない。

登録されていない番号。

嫌な予感がして、画面を開く。

『昼間は、楽しそうだったな。』

……心臓が、一瞬で冷える。

『恋人繋ぎは、兄としては複雑だ。』

……っ、どこで見てたの!?

思わず周囲を見回す。

『買い物袋の底に、気をつけろ。』

「……え?」

次の瞬間、悠真が私の持っていた袋をひったくる。

「何が――」

言い終わる前に、袋の中身が床に散らばった。

野菜、パン、調味料。

そして――

コロン、と転がった、小さな黒い機械。

「……発信器……?」

GPS。

背筋が、ぞわっと粟立つ。

「……いつ、こんなの……」

息が、うまくできない。

……誰が?

……どこで?

……さっきの店? 道? 車?

全部が、急に信用できなくなる。

周りの世界が、ぐらっと歪んだ。

「……もう、ここにいられない……?」

震える声が、勝手に零れた。

でも、悠真はその機械を拾い上げて、じっと見つめてから言った。

「……いや。」

指で割るように、ケースを開く。

中は――壊されていた。

「……使えない。完全に。」

「……え……?」

「……誰かが、気づいて壊してる。」

私は、言葉が出なかった。

……助けられてる?

それとも、もっと怖い何か?

「……まだ、場所はバレてない。」

悠真はそう言って、私の手を強く握った。

そのまま、引き寄せられる。

ぎゅっと、抱きしめられた。

「大丈夫。今すぐ追ってきたりはしない。」

耳元で、低く、はっきり言う。

「誰かが、俺たちの味方をしてる。」

胸に、額を押し付ける。

心臓の音が、伝わってくる。

「……でも……見られてるってことだよね……」

そう言うと、悠真の腕が、さらに強くなる。

「……ああ。」

でも、その声は、不思議と落ち着いていた。

「……だからこそ、もう一人にはしない。」

その言葉に、さっきまでの恐怖が、少しだけ和らいだ。

でも――

日常は、もう戻らない。

それだけは、はっきり分かっていた。

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