貴方が隣に居る……でも【第一章[完]】
カーテンの隙間から差し込む朝の光で、目が覚めた。
一瞬、どこにいるのか分からなくて――
すぐ隣に、悠真の寝顔があって、全部思い出した。
「……夢じゃない」
小さく呟いたら、
悠真の眉が、ほんの少し動いた。
「……うるさい」
「起きてたの?」
「半分な」
そう言って、目を開ける。
まだ眠そうなのに、視線だけは、ちゃんと私を追ってくる。
「……逃げてないな」
「逃げないよ」
即答すると、少しだけ安心したみたいに、息を吐いた。
「……よかった」
それだけで、胸がぎゅっとなる。
この人、三年間、どれだけ一人で耐えてきたんだろう。
私は、そっと悠真の袖を掴んだ。
「……ねえ」
「ん?」
「……離れないって、言ったよね」
「ああ」
「……ちゃんと、守ってよ」
少し意地悪く言ったつもりだったのに、
悠真は真顔で、私を見た。
「守るに決まってるだろ」
迷いのない声。
だから余計に、怖くなる。
この人、また一人で全部背負おうとする顔してる。
私は、少しだけ距離を詰めた。
「……一緒に、でしょ」
悠真が、一瞬だけ黙る。
それから、私の額に軽く額をぶつけた。
「……分かってる」
低い声。
でも、完全には納得してないのも、分かる。
その時、悠真の端末が、静かに振動した。
彼の表情が、一気に変わる。
「……来たか」
「追っ手?」
「それもある。でも……」
画面を見つめたまま、言葉を選んでいる。
「……別のルートから、情報が入った」
私は、息をのんだ。
「……お兄ちゃん?」
悠真は、ゆっくり頷いた。
「確定じゃない。でも……この動かし方、間違いなく颯斗だ」
胸の奥が、ざわっとする。
生きてるかもしれない。
でも同時に、敵かもしれない。
「……私たちのこと、知ってる?」
「知ってる可能性は高い」
悠真の声が、低くなる。
「……だから、近いうちに“接触”が来る」
「接触……?」
「助けか、罠か、どっちかだ」
私は、思わず拳を握った。
やっと、生きてるかもしれないって希望が見えたのに、
同時に、危険も近づいてくる。
「……ねえ、悠真」
「ん?」
「……もし、お兄ちゃんが敵側にいたら……」
言いかけて、言葉に詰まる。
悠真は、すぐに私の手を握った。
「その時は、その時だ」
強く、指を絡めてくる。
「……俺たちは、俺たちの味方でいる」
その言葉に、胸が少しだけ落ち着いた。
気づけば、二人の距離が、また近くなっている。
視線が絡んで、空気が静かになる。
「……さっきの続き、する?」
悠真が、低く言う。
「……何の?」
「分かってて聞くな」
私は、思わず笑ってしまった。
「……ばか」
でも、顔が熱い。
悠真の手が、私の腰に触れて――
その瞬間、端末が、また震えた。
「……タイミング悪すぎ」
「……運命に邪魔されてる気がする」
私は、苦笑しながら言った。
悠真は、小さく舌打ちしてから、私の額に軽くキスを落とす。
「……続きは、ちゃんと安全になってからだ」
「……約束だよ」
「ああ」
そう言って、私をもう一度、強く抱き寄せた。
甘い時間のすぐ外側で、
確実に、何かが動いている。
――神崎颯斗。
私たちの前に現れるのは、
助けの手か、それとも、引き金か。
静かな予感だけが、胸に残っていた。




