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その渇望ゆえに宇宙をさまよわずにはいられない

トトカ - 美食の星

作者: 八角泰三

その惑星への定期航路は、利用者の姿を見かけることはほとんどないが、減便も廃止もされておらず、便名だけは今も時刻表に残っている。


着陸して、まず目の前に広がるのは商業区画だ。広く取られた通路の両脇に、同じ規格の店舗が並ぶ。すべての間口は閉じられ、表示灯は消え、看板だけが残っていた。

かつて、この通りを人が行き交っていたのだろうということは、説明されなくても分かる。

床材の摩耗、天井の高さ、無駄に多い案内板。それらは、長く使われる前提で設計された場所の名残だった。


この星は、以前「美食」で知られていた。料理名を挙げれば、誰しも一度は耳にしたことがある。この星を発祥とするレシピは、少なくない。


この星がまだ美食でにぎわっていたころ、ここへ来る理由は単純だった。来れば、必ず美味しいものが食べられる。しかも、前に来たときよりも確実に美味しい。それは評判ではなく、ほとんど前提として共有されていた。


レシピは常に公開されており、他の星でも再現はできたし、実際、多くの料理が各地に広まった。それでも、最新で、最も美味しい一皿は必ずこの星にあった。


その前提を支えていたのが、味を評価し、改訂するための仕組みだった。


それは、人類の食の歴史から導かれた「トトカ」と呼ばれるアルゴリズムに基づいていた。

料理を、味・におい・食感・温度・見た目といった要素に分解し、物理的に分析してトトカに入力すると、分析対象よりも「わずかに美味しい」と感じられるよう調整されたパラメータが出力される。

出力された値は、分子物理学的な手法でレシピとして再現され、完成した料理は再び同じ手続きを通過する。


この星では、「美味しい」は工夫するものではなく、更新され続けるものとして扱われていた。


私がここへ来たのは、その味を生み出していた仕組みが、今も更新を続けていると聞いたからだ。


最新のレシピは、一般向けに開放された試験区画で提供されている。調理と検証を兼ねた施設で、かつては予約だけで数年先まで埋まり、立ち入りそのものが特別な体験とされていた場所だ。今は、入口に人影はなく、受付端末の待ち時間表示は常にゼロを示している。


清掃の行き届いた豪華な席に着くと、間を置かずに料理が運ばれてきた。その料理に最適化されているのであろう飲み物も、同時に置かれる。説明はない。


先ずはドリンクを口に含む。温度は低すぎず、香りは立ちすぎない。舌の表面が均一に湿り、これから来る味を受け取る準備が整う。


見た目だけなら、過剰な装飾はない料理。だが、皿の配置、立ち上がる匂い、湯気の消え方まで含めて計算されていることが分かり、期待が高まる。

いや、味は期待するものではなく、美味いと確信するものだと、この星の作法を思い返す。


噛む。

塩味が先に現れ、すぐに甘味が重なり、その奥から旨味が追いついてくる。

それは、今まで感じたことのない、複雑な味わいだった。


嚥下する。

香りと感触が口腔の奥に残り、遅れて別の要素が立ち上がる。

余韻は長く、体験が収まる気配がない。


完食し、しばらく思いにふける。


ここが、かつて味の最前線だった名残なのだろう。味の評価を求められることはない。それでも、感想を抱く自由はある。


これは、とても、不味い。


最新のレシピは、人類の理解を超えてしまったのか。それとも、アルゴリズムそのものが破綻していたのか。


賑わいを失ったフロアを見渡す。人の気配はないが、照明も空調も、必要なだけ維持されている。かつて、この仕組みが生み出した莫大な財産は、今でもこの星のインフラを容易に支えている。


この装置にエネルギーが供給され続ける限り、レシピの更新は続く。

同じ国でも地域が違うだけで使用される食材や味付けが違います。

光年単位で隔てられた世界で、料理はどのように変化するのだろう。

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