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初めての牙

 一週間はあっという間だった。

 小人たちの歓迎もあって、一同は楽しい時間を過ごすことができた。

 特にメフェルは小人たちと仲良くなって、別れを惜しむ者が続出する。


「いかないでメフェルのお姉ちゃん。」

「ここで暮らそ?」


 小人の子どもたちが無茶を言ってメフェルを困らせた。

 後ろ髪を引かれる思いで一同は小人の里を後にすると、トリィのいる洞窟まで歩いて行く。


「また来たいですね。」


 シーナが後ろを振り返って言う。


「そうだな、今度は土産を持ってこよう。」


 イーヴァは深く頷いた。

 トリィの洞窟――ノフスドーズ。

 そこには小人の里のような喧騒はなく、ただ夜闇のように静寂が満ちている。


「お、来たな。」


 トリィが炉の前に座って、一同が来るのを待っていた。

 手には小さな何かが握られている。


「一週間も足止めしちまったね。これさ、アタイが渡したかったのは。」


 そう言ってシーナの前にトリィは跪く。

 手に持った布の塊を丁寧に剥がすと、そこには鞘付きの小さな短剣が乗っていた。


「これは……。」


 シーナはトリィを見る。

 彼女は笑みを浮かべると、鞘から刀身を抜いてシーナに見せた。


「あんた、護身用の武器も何も持ってないだろう。アタイは炎の大地(サンオドアル)の鍛冶屋みたいに創造は得意じゃないんだけどね。」


 そう言ってシーナの手にナイフを握らせる。


「試しに力一杯握ってごらん。」


 シーナは迷ったが、言われた通りに握ってみる。

 けれどナイフは壊れずに形を保ったままだった。


「握り心地は大丈夫そうだね。」


 トリィが頷くと、シーナは嬉しそうに顔を綻ばせる。

 今まで武器は全部壊れてしまっていたのに、やっとシーナでも持てる武器が見つかったのだ。


 振るえるかどうかは別として、シーナは凄く嬉しかった。


 シーナの指先がかすかに震える。

 それは恐れではなく、嬉しさと誇らしさが入り混じった、彼にしかない震えだった。


「おお、よかったじゃないか!シーナ。」


 一番にイーヴァがシーナの肩を掴む。

 稽古中もたまにイーヴァの剣を羨ましそうに見ていたことを、彼は知っていた。

 だからこそ誰よりもイーヴァは喜んでくれたのだ。


「いいの?本当に?」


 メフェルがトリィに尋ねる。

 トリィは笑うと、シーナの頭に手を置いた。


「いいさ。言ったろ?アタイはこれを扱えるだけで十分だって。」


「ありがとうございます!」


 シーナはトリィにお辞儀をする。

 少年はこの日初めて、自分の牙を持ったのだった。


 白く輝く刀身は穢れを知らず、無垢に見えた。

 その刃には秘文字が綴られている。


 文字を指の腹でなぞると、微かに熱を持つ。


「その文字は……お守りみたいなもんさ。ジークがよく使ってた。」


 トリィが懐かしそうに語る。

 その目にはかつての冒険が映っていた。


「さ、早く旅立ちな。調律師のとこに行くんだろ?」


 トリィは自分の耳まで赤くなるのを隠すように、炉の方へ顔を背けた。


「また、絶対に来ますから!」


 シーナはトリィに約束をした。

 彼女は目を丸くすると一番の笑顔でシーナを見送る。


 ミムラスも体を使って手を振り、一同は地上に足を踏み出すのだった。

 シーナの掌には、まだ短剣の微かな熱が残っている。

 その温もりは、小人の国で得た絆のようだった。

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