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火を知らないふり

 メフェルは部屋で一人悩んでいた。

 赤い頬を隠すように蹲っている。


「何なのかしら、あの表情……。

 あんな顔、今まで一度だって見せたことなかったのに。」


 ラガルを咄嗟に抱きしめてしまったことを思い出す。

 随分と恥ずかしいことを口走ってしまった気もする。

 その後に見せたラガルの照れたような顔を思い出すたび、今にも顔から火が吹き出そうだった。


「何なのかしら!」


 誰も答えてくれないことはわかっている。

 けれど声を出さずにはいられなかった。

 額まで赤くしてメフェルは悶える。


 そしてそのままコロコロと床を転がっていると、戻ってきたミムラスと目があった。


「何やってるのメフェル。」

「え、いや。これは違うの。」


「聞こえてたよ、どうしたの?」


 ニマニマとミムラスが悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。

 どきりとメフェルは心臓がなった。

 けれど、ミムラスは近寄るのをやめてくれない。


 ちょこちょこ近寄ってきて、メフェルの膝の上に乗ると笑顔で口を開く。


「なになに、お姉さんがお話聞いてあげるよ〜?」

「ミムラスの方が歳下よ、ちょっと、なんでもないわ。」


「またまたぁ、あの短眉のお兄さんのことが気になってるんじゃないのぉ?」


 短眉のお兄さんとはラガルのことだ。

 前にミムラスは短眉と言いかけて、ラガルを怒らせかけたためそれ以来本人の前で言うのを控えていた。


「そ、それは、いい?旅の仲間同士での恋愛は御法度なのよ。」

「なんでぇ?」


 わざとらしくミムラスが語尾を伸ばしながら聞いてくる。くりくりとした目がこれほど憎らしいと思う日がなかったとメフェルは思う。


「ミムラス、いい?あの人に……そんな感情、あるはずないわ。」


 言い切った瞬間、喉の奥がひやりとした。

 自分でも、声が少し強すぎたとわかった。

 膝に乗ったミムラスを降ろす。


「そんなことないと思うけど。逃げてるだけじゃない?」


 肘でミムラスがメフェルのことを突く。

 メフェルはミムラスの額を突くと、曖昧に微笑んだ。


「おませさんね、ミムラスは。」


「ぶー、じゃあメフェルはどうなのさ。ラガルのこと……。」


 ミムラスが言いかけたところでメフェルがミムラスの頬に手を添える。

 にょいんと、頬を伸ばしたり縮めたりして続きの言葉を遮った。


「そうね、“仲間”として好きよ。」

「そうじゃなくてさぁ!」


 ミムラスは頬を弄ばれながら抗議する。


「ところでミムラスはどうなの?」


「え?」

 

 話題はメフェルの恋愛話からミムラスの話に移り変わる。と言っても、どうなのと言われても全く心当たりがなかった。


「ミムラスは故郷に帰らなくていいの?」


「あ……そっちね。うん、いいの。」


 指先だけがぎゅっと握られていた。

 言葉より、その沈黙の方が雄弁だった。


「友だちと約束したから、大商人になって戻ってくるって。」

「そう。」


「でもアタシ駄目ね、サマディア・タークに気づけなかったし、血の宝珠も手放しちゃった。

 王都でも儲け話の一つも見つけられなかったし。」


 しゅんと、ミムラスは落ち込む。

 けれど彼女はすぐに元気を取り戻すと言った。


「でも、アタシ誓ったの。だから絶対、大金持ちになってやる。」

「大金持ちに?どうして?」


「そりゃ、村のやつらを見返すためよ。炭鉱掘で一生を終えるのは懲り懲り。」


 ミムラスは首を振ると、就寝の準備を始めた。

 それに倣ってメフェルも床に敷かれた草の寝台に身を寄せる。


「おやすみ、メフェル。いい夢を見ようね。」


「ええ、おやすみなさいミムラス。あなたもね。」


 しばらくして、すぅすぅと、二人は寝息を立てる。

 今日という一日がこちらでも終わりを告げようとしていた。

 

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