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空気が先に知っている

「よぉ、どうだ調子はおすまし野郎。」


 食後、休憩用にと通された部屋で、イーヴァは軽口を叩く。

 ラガルは勿論、無視をしたがイーヴァは構わず続けた。


「なにか喋れよ。飾りじゃねぇだろ、口ってやつは。」

 

「……あ。」


「あ?なんだ?」


 突然、声を上げたラガルの不明な言動に、イーヴァは首を傾げる。

 ラガルはそのまま口を閉ざし、無反応を貫いた。


「もしかして……俺がなんか喋ろって言ったからか?」


 イーヴァはわなわなと震え出す。

 その様子は怒りにも見えたが、笑いを堪えたものだった。


「あっはっは!面白いやつだなぁ、お前。」


 今の所、一方的にイーヴァが話しかけているだけだったが、彼は愉快そうだ。

 洞窟まで揺らしそうなその笑い声に、ラガルはピクリと耳を動かした。


「……声が、空気を傷つけている。」


「へ?なんだって?どういう意味だ?」


 ラガルの言葉が落ちると、洞窟の空気がひやりとした。

何を意味するのか分からない。ただ、世界が一瞬だけ息を飲んだようだった。

 

 イーヴァがラガルの言葉に悩んでいると、洞窟感情を終えたシーナが戻ってくる。


「ただいま戻りました……どうしたんですか?」


「おう、ラガル語がちょっとわかんなくてな。声が空気を傷つけているってなんだ?」


 イーヴァは首を傾げてシーナの助言を待つ。

 シーナは少し考えたあとに言った。

 

「えっと、状況がわからないんですが煩いって言われたんだと思います。」


「ほお、そういう意味か。成程なぁ……ってなんだとコイツ!」


 イーヴァがうりうりとラガルのこめかみを抑える。

 それを見て慌ててシーナは止めた。


 首輪が取れたとはいえ病み上がりの病人なのだ。


「……。」


 ラガルは何も言わない。


 その姿を見ているとシーナは予言が嘘に思えた。

 

 (さっき見た青い光――思い出したくないのに、胸の奥でまだ揺れてる……。)


「ラガルさん、その、先程の青い炎は。」


 何なんですか?

 最後まで言えなかった。


 だが、ラガルは珍しく口を開く。


「起りより、そのように在る。」


 言葉が返ってくると思わなかったシーナは思わず固まった。けれどその意味が頭に入ってきて、口が勝手に動き出す。


「生まれつきってことですか?」

「さよう。」


 それ以上会話が続くことはなかった。

 途切れた間に沈黙が落ちる。


 ラガルの淡い青紫の瞳は以前より濃くなってるように思えた。


「にしても……お前、少し変わったよな。」


 だがすぐに沈黙を破ったのはイーヴァだ。

 ラガルを見てそう言う。


 (少しなんかじゃないよ。)


 シーナはそう思ったが口に出さなかった。


「纏う空気が変わったつうか、匂いが違う。」


「何を言わんとしている。俺は常に同じだ。」


「いや、わかんねぇ。ただ妙なんだ。

 “周りの空気の方が”お前に反応してるみたいだ。」


 風もないのに、僅かにラガルの髪が揺れる。

 むわと洞窟の空気が揺らいだ。


 ラガルは淡々と返す。

 

「理解ができない。」


 胸の奥で、理由のない波紋だけが小さく揺れていた。

 

「俺もだ、けどよ。お前を見てると何かがはじまりそうなんだ。」


 イーヴァはニッと笑顔を作る。

 それは屈託のない笑みで少しだけ眩しかった。


「もしお前がどこへ行こうとするなら、俺は剣を持ってついていく。……ただし暴れたら殴るけどな。」


 その笑みにラガルは瞬きをした。

 なぜそこまで気にするのかわからなかった。

 眉根を顰め、企みを暴こうとするが答えがない。


 解決できぬ気持ちを抱えたまま、ラガルは床に着いた。

 眠りにつく直前、まだ言葉を持たない、さざめきだけが彼の胸を撫でるのだった。

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