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震える理由

 小人たちがせわしなく動き回る洞窟は、いつにも増して騒がしかった。

 

「皆さんどうぞ!」


 しばらく滞在すると話が決まった瞬間から、小人たちはずっとこんな調子だった。


 メフェルたちは言葉に甘えて歓迎を受けていたが、慣れないシーナにとってはそれがむず痒く、照れ臭いものだった。


「まずは首輪の件、よかったのう。」


 トリィを紹介してくれた小人の老人――ルンルン族の長老が一同に挨拶をする。

 メフェルは嬉しそうに微笑んだ。


「ええ、トリィを紹介してくれて本当にありがとう。」


「よいのじゃ、それで男の命が助かったのならのう。」


 ニコニコと長老は人の良さそうな笑みを浮かべる。


 ミムラスはちょこんと座って、洞窟の様子を眺めていた。


「アタシの里はこんなに広くなかったな。」

「故郷が恋しくなったか?ミムラス。」


「うん、でもまだ帰れない。アタシ大商人になってから戻るって決めてるから。」


 イーヴァとミムラスがそんな会話をしていると、葉っぱの大皿に盛り付けられた大量の料理が運ばれてきた。

 一同はそれを見て最初こそ喜んだが、次の瞬間、表情が固まる。


 大皿に盛り付けられた料理、それは大量の――虫だった。


「わぁ!美味しそう頂きまぁす!」


 ミムラスだけが抵抗なく、幼虫を手で取る。

 地底に住まう、小人族の間では虫食というのは普通のことであった。

 

「む、し。」


 シーナは思考を停止したまま動けなかった。


 目の前の長老が無邪気な瞳で、シーナたちを見ている。


「え、ええい!郷に従え!食うぞシーナ!」


 何かを振り切ったのかイーヴァは甲殻類の煮付けを手に取るとムシャリとかぶりつく。

 そしてモグモグと咀嚼すると、飲み込んだ。


「ん?意外と悪くないな。ほら、食べてみろ。」


 シーナはイーヴァに勧められて、多足の唐揚げを受け取る。手に取るのも正直嫌だった。

 ぞっと、悪寒が身体を駆け巡る。


 隣のメフェルを見てみると、メフェルはサクサクと音を立てながら何も言わずに出された料理を食べていた。


「う、うう……いただきます。」


 メフェルが食べているなら食べるしかない。

 シーナは泣きそうな気持ちを抑えながら口の中に唐揚げを入れる。


 最初こそ抵抗があったものの口の中に入れて噛むと、不思議な食感とクリーミーさが溢れて、イーヴァの言う通り、意外と悪くなかった。


「ラガル食べないの?」


 ミムラスが動かないラガルに目をつける。

 彼は虫を見つめたまま停止していた。


「遠慮せずともまだまだありますじゃ。」

「……腹が減っておらぬ。」


「嘘だぁ、さっきお腹鳴ってたじゃん。」


 シーナがよく見ればラガルの手は震えていた。

 けれど誰もそれを指摘しない。


 メフェルは気づいた。

 ラガルの震えは、寒さでも魔力でもない。

 ……虫、ね。


 (魔でも剣でもない、彼を震わせるものが……虫。)


  わずかに肩を震わせているラガルが視界に入る。

 

 (……可愛い。)

 

 一瞬だけ、そんな言葉が喉元まで込み上げた。


「結構美味いぞ、ほら食え。」


 イーヴァがそう言った瞬間だった。

 僅かにラガルの目が開かれたような気がした。

 けれどそれも一瞬で、彼は命じられたままに口に虫を運ぶ。

 たまに咽せながらラガルは無言で食べていく。


「絶対、今の呪紋だよね……。」


 ミムラスが呆れたように呟いた。


「お前さん、トリィから聞いたぞ。だいぶ暴れたらしいの。」


 ラガルは返事をしない、代わりにメフェルが話を進めた。


「魔力暴走を起こしたのだわ。」


「そうか、長らく首輪をしてきたせいじゃろうて。きっと体の方にも無理がかかってるに違いない。お主ら、花人族(ネスフィリ)に会いなされ。」


「ネスフィリ……エルフのことね。」


 長老は頷くと言った。


「そうじゃ、そこに行き調律師を訪ねるといい。」


 長老の言葉に皆が頷いたが、ただ一人――ラガルだけは、黙ったまま皿の上の虫を見つめている。


 その指先は、まだかすかに震えていた。

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