残り火
「ラガル……?」
メフェルは思わず彼の名前を呼んだ。
一瞬だけ、彼の瞳が“以前の彼と同じ揺れ方”をした。
それは、最後に見たあの日の彼そのものだ。
だが、その色はすぐに薄れていき、淡い青紫はまた“遠いまなざし”へと戻ってしまう。
「もう……大丈夫だ。」
あたりにはまだ霜が降りていたが、落ち着いたのか、ラガルは突き放すようにメフェルを体から引き剥がした。
少し俯いて、赤く色づいた頬に凍った髪が張り付いている。
「うん、よかった……。」
メフェルもその様子にどぎまぎしながら、自らの体を引く。
辺りに沈黙が流れたところでミムラスが口を開いた。
「安全なの?」
「ええ、落ち着いたみたい。」
「よかった〜、デカブツのせいでアタシたち凍り死んじゃうかと思った〜。」
ミムラスはため息を吐いて、その場に座り込む。
その様子に全員の緊張が解けた。
「全くだよ、とんでもないものを連れてきてくれたね。」
トリィはダメになった鍛治道具を見て、首を振った。
ラガルはその顔を見て、何も言わずにシーナが持っている荷物を漁ると、一つのカケラを取り出した。
「ん?それ、前にアタシがあんたにあげた笑うと光る石?」
「……さよう、これはただの石ではない。」
そしてそれをトリィの前に差し出す。
最初は訝しげにその石を見ていたトリィだったが、しばらくすると目をひん剥いた。
「これ、アンタ一体どこで!サマディア・タークじゃないか!」
トリィはラガルに掴み掛かるとその肩を揺らす。
「灰の目が採り尽くしてから殆どないんだよ!」
そう言ったトリィは興奮して、咽こむ。
ゴホゴホと咳が鳴る中、ミムラスはその瞳を丸くしてトリィの手の中のカケラを見ていた。
「は、はぁ?近所のガキが拾ってきたタダのガラクタじゃないの⁉︎」
ミムラスは立ち上がる。
そしてトコトコと二人に近づいていくと絶望の表情を浮かべた。
「嘘……アタシとしたことがこんなお宝をみすみす逃すなんて。」
そしてまたペタンとその場に崩れ落ちる。
トリィはカケラを光にかざすと、輝く瞳で眺めた。
その表情には笑顔が浮かんでいる。
「いいのかい?道具が駄目になったとはいえ、これはお釣りが来るよ。」
「命を救われた、その礼だ。我が一族も恩は血に宿りし物、記憶は血に刻まれる。」
ラガルは答える。
その答えにトリィが困ったような笑いを浮かべて、頭を掻いた。
「でもね、これは足りすぎてるんだよ。アタイはこれを扱えるだけでいいのさ。」
そして全員を見る。
上から下までトリィは見て、何かに気づいたようにシーナを見る。
「アンタらすぐにここを発つつもりかい?もう少し、ここにいな。」
「予定もないから良いけれど、どうして?」
「まあ、すぐにわかるよ。一週間待ちな。」
トリィはそう言って微笑む。
白い歯が見えた。
「じゃあ、ゆっくり観光でもするか!」
イーヴァが大きく伸びをする。
ミムラスがはしゃぐ声が聞こえた。
その横でシーナの胸には、小さな棘のような不安が残る。
さっき見た“炎の幻”が、まだ頭の奥で揺れていた。




