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解放と発火

「さあ、準備はいいかい?歯を食いしばんな!」


 金属がぶつかり合う音がして、火花が弾ける。

 鍛冶台の上で首輪を転がす。

 キン、キンと甲高い音がするたびにノミは深く沈み、首輪は変形した。


「っ……。」


 誰もが息を呑んで見守る中、ラガルの表情が苦痛に歪んでいく。

 大粒の汗が浮かび上がり、鍛冶台を掴む腕に力が入った。


 キン!


 最後の音がした。

 それと同時にラガルが大きく息を吸い込む。


 まるで魚が初めて水の中で呼吸をしたみたいに。


「せ、成功したんですか?」


 シーナがラガルを伺う。

 ラガルがふらふらと立ち上がると、割れた首輪が外れて地面に落ちた。


 銀の光を携える輪の内側には秘められた言葉の文がびっしりと書き綴られている。


 その言葉の数々が今までラガルを縛ってきた物だった。


「息が……できる、ようやく。」


 ラガルは身体中の力が抜けたように呟く。

 メフェルがホッと息をしたのも束の間、すぐに変化は起こった。


 パキ……


 と、ラガルの腕が凍った。

 瞬間、空気が暴れ狂う。


「下がれ!」


 声を出したのはイーヴァだったのだろうか。

 それもラガルにはわからない。


 氷柱の先が揺らいだ。

 陽炎のように青くうつろう。

 ——光と影の境目が、世界ごと震える。


 ラガルの身体中から青い光が燃えるように立ち昇った。

 それはまるで炎のように輝き、地へと這い、触れるものの熱を奪っていく。

 

 湿気が一瞬で霜に変わる。


 青い炎が揺らいだ刹那、淡く赤い脈動が光に紛れた。

誰も気づかないほど、一瞬だけ──。


「ひ!」


 トリィの鍛治道具が炎の先に触れて燃えるように凍った。そしてあっという間に崩れ落ちる。


「で、デカブツ!怖いよ。」


 ミムラスがイーヴァの後ろで叫ぶ。

 場に崩れるようにラガルはしゃがみ込む。

 トリィは叫んだ。


「この魔力量、魔法……普通じゃない!」


 ――化け物。


 その声は、トリィのものではなかった。

 過去に自分へ向けられた、あの冷たい言葉が蘇っただけだ。


 (青い……炎……なんで?なんで予言のとおりに炎がラガルさんに?)


 シーナの喉が震えた。

 手を伸ばす勇気も、名前を呼ぶ声も――凍りついて動かない。


 ラガルが意識を手放しかけたとき。


 暖かいものが体に触れた。


「ラガル。」


 ラガルは瞼を開く、目の前には暖かな少女がいた。

 ――メフェルだ。


 ただメフェルは何も言わずにラガルを抱く。

 それだけでラガルの胸の内は熱くなった。


 (まただ……なぜ、なぜ、この少女に触れられると俺は熱くなる。)


 それまで虚しさで溢れていた心の内を埋めるように、彼女という存在が大きくなっていく。


「嫌よ、あなたが消える方が——ずっと。」


 瞼を閉じたままメフェルは彼に身を寄せた。

 その熱が何よりも強く残る。


「置いてかないで。」


 メフェルが見上げると、ラガルの視界に彼女の瞳が映った。


 (……星の輝き、いや月の……瞳。)


 胸の奥が締め付けられるほど、美しい月の色。

 その色に少しだけ何かが緩んだ。

 ラガルは以前にもこうして彼女に救われたような気がする。


 そっとラガルはメフェルの肩に手を伸ばす。

 震える指が、彼女の首筋に縋りついた。

 


 少しずつ、少しずつ、氷が溶けていく。

 青い炎はゆらめきを残して小さくなる。


 メフェルの頭上から息の漏れる音がした。

 彼女がもう一度顔を見上げると、そこには青年の優しい瞳があった。

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